第41話:帝王祭本戦Ⅱ

オリビアの試合が終わり、それから数試合行われた。

そして俺たちは今、本戦を敗退したエドワードを慰めているのであった。


「運が悪かったんだ。気にするな」


「相手が悪かったのよ!ドンマイ!」


「エドワードはよく頑張ったと思うわ」


「カッコよかったぞ!エドワード!」


「うぅ...情けない」


なぜエドワードが泣きべそをかいているのかというと、彼の本戦一回戦目の相手が優勝候補の【ソフィア・フォン・ランパード】だったからである。一応どんな試合展開だったのかを説明すると、最初魔法の撃ち合いをしたがソフィアの火力が高すぎて、エドワードは接近することも許されずにボコボコにされた。清々しい程の負けっぷりだったので、逆に観客は大盛り上がりであった。


まぁ相手は三年生だし、あのランパードの血を引いた者なのでしょうがない。ソフィアの強さを再確認できたってところだな。リリーは決勝で対決することを見越して、予選の時からソフィアの試合を見学していたのでこの展開を予想していたと思う。これも糧にして決勝で頑張って欲しい。


「本戦初日の最終試合出場選手は二年SS-1クラスの貴公子、ヘクターァァァァァ!!!」


「対戦者は一年SS-1クラスの神童リリーィィィィィ!!!帝国でも数少ない全属性魔法の使い手だ!!」


ワァァァァァァァ!!!!!!!


「ちょっと待ったぁ!」


「おっと、貴公子と名高いヘクターが試合前に何か宣言するのか?」


「愛しのリリー。この試合で俺が勝ったら、ぜひ婚約してほしい」


「え、嫌よ」


「!?、それでこそリリーだ...絶対に振り向かせてみせる!」


金髪でイケメンの貴公子が急に大勢の前で婚活を始めた。それはフラグだろうに。


「あれ誰だ?ちょっと面白いな」


「確かあの先輩はハーバート侯爵家の次期当主よ」


「へぇ、覚えておこう」


「アルテがそう言って、ちゃんと人を覚えているのをみたことがないのだけれど...」


どこで二人が出会ったのか知らんが、どうせヘクターもツンデレ属性の大沼にハマったのだろう。さっきリリーに断られた時に少し元気になっていたし。このままだと沼に溺れて死んでしまいそうである。


気になる試合結果なのだが、開戦直後にイライラが頂点に達していたリリーが〈火〉の上級魔法ファイアランスを十重展開してヘクターを焼き尽くしていた。


リリーは魔力量も多く、魔力操作も上手い。全属性使える上に魔力を練ってから発動するまでの時間がかなり速いので、ヘクターが魔法を発動する前にそれを直撃させ、一瞬で試合が決着した。ヘクターはもしや神がリリーのために用意した「かませ犬」なのではないか?


「リリーの魔法の発動が速すぎて、かませ犬先輩がどのくらいのレベルなのかわからなかったな」


「フィールドの端でボロ雑巾みたいに倒れているわね」


「かませ犬先輩にボロ雑巾って...」


「あの先輩面白いな!今度話しかけてみよう!」


本戦初日が終わり、現在皆で学園内を歩いている。あの後かませ犬先輩は医療班にせっせと運ばれ、医務室で治療を受けたらしい。外傷だけだと思うので、回復薬をぶっかければすぐに治るだろう。俺の直感だとあの先輩は良い人なので、ぜひ復活して欲しいところである。


「皆今日はお疲れ。リリーとオリビアはおめでとう、明日以降も頑張れよ。ルーカスとエドワードもよくやったと思うぞ」


「そうよ!もっとあたしを褒めなさい!」


「でも私の次の相手はソフィア先輩なのよね」


「僕は一瞬で負けちゃったけど、オリビアなら絶対勝てるよ!」


「オリビアの凄さは俺たちが一番よく知ってるからな!」


そう。次のオリビアの相手はソフィアなのだ。俺の予想だと、ソフィアはまだこれっぽっちも本気を出していないので、次から本領を発揮し始めたらマズい。オリビアは今までのソフィアを想定して試合に臨もうとしているからだ。想像と違いすぎて初っ端から不覚を取る可能性がある。


「オリビア」


「ん?なあに?」


「俺の予想だとソフィアは次の試合から本気を出してくるから気を付けるんだぞ」


「今までは手を抜いていたのね...」


「相手がオリビアだから本気を出さざるを得ないんだ。もっと自信を持て」


「わかったわ。ありがとうね」


なぜかすでに敗戦ムードを漂わせているオリビアに活を入れた。その気持ちもわからんでもない。ソフィアはオリビアと同じ魔法剣士なのだが、ソフィアの方が実力も経験も上なのだ。


違う戦闘タイプなら一泡吹かせることもできたかもしれないが己の上位互換的な相手にそれは通じないので、オリビアは悩んでいるのだ。まぁ、頑張ってくれ。ここは俺の出る幕じゃない。



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 翌日、俺たちはオリビアを慰めていた。なんかデジャブである。


「運が悪かったんだ。気にするな」


「相手が悪かっただけよ!あとはあたしに任せなさい!」


「瞬殺された僕よりマシだから自信もって!」


「オリビア!元気を出せ!」


「うぅ...全部敵わなかった」


試合はまず定石の魔法の撃ち合いから始まった。オリビアの魔法が撃ち負け始めたので、隙を付いてオリビアは接近戦を仕掛けたのだが、ソフィアは近距離も化け物なのでレイピアの刺突を剣の腹ですべて受け流され、そのままカウンターを貰い敗北。


まぁエドワードと違ってすべての力を発揮した上での敗北だったので、本人はそこまで落ち込んでいないのが幸いである。ファンクラブの連中も彼女の激闘に感動し、敗北を喫した際には涙を流しながら拍手をしたほどだ。ちなみにその場にデュランもいた。


やはり帝王祭でソフィアとリリーの実力は頭一つ抜けている。二人とも他とは一線を画すような能力を持ち努力も怠らないので、こうなるのはある意味必然。俺の妹のレイも全属性が使える天才児なので、帝王祭では一際輝く存在になるだろう。



リリーは本戦二日目も一瞬で圧勝した。三日目も四日目もリリーとソフィアは予想通り勝利し続けた。現在は四日目の準決勝が終わった帰りである。


「リリー今日もよくやったな。相手は三年生の中でもソフィアに次いで有名な先輩だったのに余裕で勝利を収めたな」


「ふん、このくらい余裕よ!もっと褒めなさい!」


「リリーはさすがね。学園内は彗星のように現れた天才魔法師の話で持ちきりよ」


「僕は友人として誇らしいよ!」


「明日も勝てると俺は信じてるぞ!」


明日は帝王祭の決勝である。二人とも学園の歴史の中でも稀にみる奇才児なので、会場は大いに盛り上がるだろう。超級魔法の撃ち合いなど普段はお目にかかれるものではないのだ。ちなみに観客席には高レベルの結界が張ってあるので安心である。


四日目の夜、兄貴のロイドは婚約者であるソフィアに公爵家別邸まで連行された。ソフィア曰く、決勝戦のために英気を養わなければいけないらしい。俗に言うドナドナである。南無。



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決勝戦当日、いつも通り指定席に座りリリーに声援を送っていた。


「自分を信じろ。リリー」


「私たちがずっと見守ってるからね」


「リリー!!!頑張って!!!」


「勝って今日は打ち上げだ!リリー!」


リリーは照れくさそうな顔をして少し杖を掲げた。対面の指定席から、妙にゲッソリした兄貴がソフィアに声援を送っていた。昨日ソフィアはちゃんと英気を養えたようで何よりである。


「皆様!今日は待ちに待った帝王祭決勝戦です!!!今年は本戦一回戦から素晴らしい試合が繰り広げられ......」


と壇上から暫く約束の口上が述べられ


「決勝戦に出場するのは帝立魔法騎士学園でもっとも有名で人気なあの選手ソフィア・フォン・ランパードだぁぁぁぁぁ!」


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」


「ソフィア様ぁぁぁ!カッコいいですわー!!!」


ソフィアファンクラブの連中がエールを送る。


「対戦者は今年彗星のように現れた天才魔法師リリーィィィィ!!!!!」


「うぉぉぉぉ!!!」


「リリー!こっちを見てくれぇぇぇ!」


「やっちまぇぇぇ!」


かませ犬先輩を筆頭にリリーのファンクラブのやつらが大声で鼓舞する。まったくいつのまに結成されたんだか...でも会長がかませ犬先輩なのは点数が高い。


それからすぐに試合が始まった。まずはリリーが魔法を撃つ。


「ファイアランス、二十重展開!」


「ウォータージャベリン、二十重展開!」


開幕直後から何十という数の上級魔法が飛び交う。俺の予想では、リリーは近距離が苦手な代わりにソフィアより魔法の発動が速いので魔法戦は多少有利だと思っていたが、なぜか拮抗している。何か企んでいるのか?


「ああ、なるほど。そういうことか」


リリーは魔法の発動時間を延ばすことで少し余裕を生んだ。そして上級魔法を撃つと同時に、バレないように自分の周りにトラップ魔法を仕掛けていたのだ。

トラップが仕掛け終わりここからリリーの猛攻が始まる。


「な!?今まで本気を出していなかったのか?」


リリーの魔法の発動時間が短縮されたことで、それまで拮抗していた撃ち合いのバランスが徐々に崩れ始め、遂にソフィアの魔法が間に合わなくなった。


「エアスラッシュ、百重展開!」


「身体強化起動!」


リリーがフィールドを埋め尽くすような数のエアスラッシュを放った。ソフィアは魔法での相殺を諦め、身体強化を起動し避ける作戦のようだ。


「くっ!」


凄まじい練度と速さの身体強化だったが、さすがに全部を避けることはできなかった。ソフィアは体から少し血を流しながら息を整える。


ここでリリーが杖に膨大な魔力を集め始めた。


「次で勝負を決めるわ!」


魔力操作で集められた膨大な魔力は、そのまま超級魔法に変換される。リリーはあの日ダンジョンの大空で煌めいていた太陽をイメージする。

しかしソフィアも黙って見ているわけではなく、同じように自分の剣の先に魔力を貯め始めた。あれはオリハルコン製の剣だな。


そして


【赫々炎陽】


【水龍の咆哮】


巨大な太陽と水龍の口から放たれた破壊の息吹がフィールドの真ん中でぶつかり合う。そして

水蒸気爆発が起き、結果二人の間に霧が発生した。


ソフィアが接近戦を仕掛けるのに最適な状況が出来上がってしまった。彼女がこのチャンスを逃すはずがなく、すぐさま


「身体強化、再起動」


霧の中を右から迂回し、超速で飛び出す。しかし


ドォォォン!


「!?」


そう。足元には開幕でリリーが仕掛けた〈火〉のトラップ魔法が展開されていたのである。

このトラップは中級魔法並みの破壊力があり、常人だったら一撃でダウンだろう。

会場の観客は勝負が決まったと思い、シーンと静まり返る。


だが


「うぉぉぉぉぉ!!!!」


「!?」


煙の中から全身焦げて血まみれのソフィアが闘気を全開にして突っ込んできた。次々とトラップを踏むが、彼女は絶対に止まらなかった。


「くらえ!」


遂にトラップ地帯を抜けたソフィアはボロボロの身体で剣を投げつけた。リリーは発動しようと思っていた魔法を中断し、ギリギリのタイミングで、杖でそれを弾いた。


刹那、ソフィアが身体強化にすべての魔力をつぎ込み、音速を超える速度で、杖を振り上げた状態のリリーの懐に潜り込んだ。


「フッ!!!」


「!?」


そのまま腹に蹴りを入れられたリリーは、フィールドの壁に衝突し気絶した。

それを確認した後ソフィアも仰向けに倒れ、天に拳を掲げた。


「勝者、ソフィアァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


観客たちの歓声は、遠く離れた帝城まで届いたという。


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