第40話:帝王祭本戦Ⅰ

バルクッドにある実家と帝都アデルハイドにある別邸を転移の魔法陣で繋げて数日経った。最初の頃使用人たちはビビッていたが何回か利用すると逆に癖になったようで、今日も今日とて休暇中の使用人たちで我が家の魔法陣部屋は賑わっていた。


現在この世界は、前世でいう中世ヨーロッパくらいの文化レベルである。もし転移という今までの常識を覆すような魔法が実用化されれば、文化レベルも飛躍的に進化していくだろう。魔法と科学技術は互いに独立しているように見えて、実は表裏一体なのだ。この二つが組み合わされば、前世とは違う形の文明が出来上がるかもしれない。


俺はハーフエルフなので、あと数百年は生きるだろう。もちろんエクスも。


「もしかしたら生きているうちに見れるかもしれんな。高度な魔法科学文明が」


それまでのんびりと旅でもするか。


まぁそれは一旦置いといて、現在帝王祭の予選が終わったところである。


「やはり予選は楽勝だったな」


「本番は本戦からよ!絶対に優勝してやるんだから!」


「どんな相手と当たるのか楽しみね」


「僕は予選が突破できただけで嬉しいのに皆は満足してないね。さすがだよ」


「優勝するのは俺だ!!!」


「その調子だ」


予想通り予選は楽勝に突破できた。帝国の一年生の中でトップクラスの戦闘力を持つ四人を俺が鍛えているのだから当たり前といえば当たり前である。しかし本戦で当たるのは基本的に二年と三年のSS-1クラスの先輩達なので油断はできない。相手も帝国でトップクラスの学生なのだから。


「そういえば二年生で一人、覚醒者の先輩が出場してるんだっけか?」


「たしか≪怪力≫魔法の覚醒者よ」


「その先輩は絶対近距離型ね!」


「体格が良くて、堅物なのも想像できるよ!」


「俺はその先輩と力のぶつけ合いがしてぇな!!!」


属性魔法が不得意のルーカスと≪怪力≫持ちの先輩がトーナメントで当たったらむさ苦しい戦いになりそうだな。

それにしても覚醒者の魔法は色々な種類があって面白いな。これからの人生で数多の覚醒者に会うことになるだろうが、それが楽しみで仕方がない。


ちなみに帝王祭は十六人のトーナメント方式で行われる。二回戦目は準々決勝、三回戦目は準決勝、四回戦目に決勝である。実は一年生で予選を突破したのはこの四人だけなのでこれだけでも普通に凄い。シャーロットも出場していたが、優勝候補の【ソフィア・フォン・ランパート】に負けて敗退してしまったらしい。とても運が悪い。


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 そして本戦当日


帝王祭用に建設されたコロッセオにほとんどの学園生が集まっていた。チケットが買えるのは学園生と学院生、それと本戦出場者の関係者のみだ。俺たちはもちろん一番高いチケットを購入し、指定席に座って応援する。


本日一戦目を飾るのは我らがルーカスと...


「やはりな」


「ルーカスより大きいじゃない!」


「エドワードが言っていた通りね」


「やっぱり体格が良くて堅物だね!」


件の≪怪力≫魔法の覚醒者だった。


暫く四人で雑談していると、司会が拡声の魔導具を持ち壇上に上がった。まずはこの祭りの歴史の説明や司会自身の自己紹介をしてから、やっと選手の紹介を始めた。


「帝王祭本戦の一戦目を飾るのは一年SS-1クラスのルーカス・パリギスゥゥゥゥ!!!」


「対戦者は二年SS-1クラスの超有名人、覚醒者【バートン】!去年は準決勝で敗退してしまったが、今年は優勝できるのか?二人とも熱い戦いを見せてくれ!!!」


二人が入場すると会場のボルテージが一気に上がった。


「ルーカス!あんた負けるんじゃないわよ!」


「ルーカス頑張るのよ」


「信じてるよ!ルーカス!」


「いつも通りでいい」


指定席は比較的選手に近い場所にあるのでルーカスは俺たちの声援に気付き、こちらに向かって腕を掲げた。ルーカスのくせにちょっとカッコいい。


選手二名が入場後、すぐに試合が始まった。ルーカスは護りの剣を発揮するべく、相手が突っ込んでくるのを待っている。

それに気づいた覚醒者バートンは早速≪怪力≫と身体強化を重複して発動し、地面を蹴ってルーカスに突っ込んだ。まずはハンマーを横に振るう。


「うお!重すぎだろ!」


「吹き飛べ」


ルーカスは盾で受け止めきれずに吹き飛ばされる。その衝撃で地面を転がり、体制を立て直すのに時間がかかる。バートンはそれを見逃すほど甘くはない。


「遅い」


一瞬で近づくと同時に再びハンマーを横に振り、ルーカスを吹き飛ばす。バートンが剣を使っていればギリギリ反撃できるかもしれないが、普通の長剣ではハンマーの一撃を受け止めることは到底できない。


「ほら、次だ」


「このやろう!いい気になりやがって!」


同じサイクルを数回繰り返した後、バートンはハンマーを上に振り上げた。今までの攻防でルーカスが一撃を受け止めきれないことを知り、早くも勝負を決めにきたようだ。

ルーカスには着々とダメージが溜まっているので、真正面から正々堂々やり合えば必ず負ける。


「バートンの方がスピードも力も経験も上だな。さぁどうする、ルーカス」



ルーカスは激戦の中で相手との力量を思い知り、悲壮感に暮れ......るわけがなく、逆にアドレナリン全開でフローの状態になっていた。


「今までよりも良く見える。別人になったみたいだ...これならやれる!」


ルーカスは脳をフル回転させて考える。

その時、バートンが初めてハンマーを振り上げる。そして残された一つの勝ち筋が見えた。


バートンが全力でハンマーを振り降ろした瞬間、観客の皆は勝負が決まったと思った。


「!?」


しかしハンマーは盾に当たったと同時に軌道が横にズレ、地面にめり込んだ。地面に大きなクレーターができた刹那、バートンの脇腹にルーカスの長剣が刺さった。


そのままバートンは後ろに倒れ



「試合終了ーーーーー!!!勝者、ルーカスゥゥゥゥゥ!!!」


「うぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」


会場は大きな歓声に包まれた。

俺たちは選手の待合室に直行し、ルーカスに激励の言葉をかける。


「おめでとう、ルーカス」


「さすがね!褒めてあげるわルーカス!」


「覚醒者に勝つなんてやるじゃないの」


「興奮しちゃったよ僕!おめでとうルーカス!」


「おう!ありがとよ!パリイには成功したんだが、腕が折れちまったぜ!」


ルーカスはあの一撃をパリイし、見事カウンターを相手の脇腹に放ったのだ。覚醒者の猛攻を耐え抜いた胆力、最後まで諦めなかった精神力、あの瞬間にパリイからのカウンターを選択できた判断力のどれを取っても素晴らしい一戦だった。


現在、医療班が迅速に治療を施しているが


「誠に残念なのですが、明日行われる二回戦の出場は厳しいかと...」


回復薬で治せるのは外傷までで、骨折までは治せない。治癒魔法をかければ二日ほどで完治できるのだが、さすがに明日の試合に参加し、完治してない左腕で盾を持つのは厳しいだろう。


「超有名な覚醒者の先輩に勝てたんだ。俺は十分すぎると思うぞ」


「あとはあたしに任せなさい!」


「僕がルーカスの分まで頑張るよ!」


「ほら、そんなに悲しそうな顔しないの」


「悔しいけど、俺はここまでだ!あとは頼んだぞ!!!」


なんて潔い男なんだ。ルーカスは本気で優勝を狙っていたのでかなり凹んでいるがそれを隠し、いつもの笑顔で返事をした。さすがだルーカス。俺はお前の親友として鼻が高い。


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次の試合はオリビアだ。


ルーカスには暫く休んでろと言ったのだが、ボロボロの身体を引きずって指定席までやってきた。本人曰く、友人が頑張っているのに自分だけ寝転がって休むことは我慢ならないらしい。男の中の男である。こういう時に無粋なことは言わない約束なので、黙って連れてきた。


「本日四戦目の試合の出場者は一年SS-1クラスのオリビアァァァ!」


「うぉぉぉぉキタァァ!!!」


「きゃぁぁぁオリビア様ぁぁぁ!!!!」


マゾッ気のある生徒から絶大な人気を誇るオリビアは、学園で「氷の令嬢」と呼ばれファンクラブまで存在する。本人は全く興味が無いので放っていたら、親衛隊まで結成されたらしい。たまに陰からオリビアを見守っているキモい連中は恐らくそいつらだ。悪意はないので無視しているが。

確かにオリビアは銀髪ロング、高身長、モデル体型の三拍子が揃っている上に目線が少し冷たい美人なので、刺さる人にはぶっ刺さるだろう。


「対戦相手は三年SS-2クラスのデュランンンンンン!!!」


ほう。出場者は全員SS-1クラスの生徒だと思ったが、三年生にもなればSS-2クラスの奴でも予選を突破できるのか。やはり経験は戦闘において非常に重要なのだ。経験と努力を積み重ねれば、いつかは【剣仙ローガン】のような極地まで辿り着けるはずである。たぶん。


「デュランか。デュラハンみたいな名前のくせに魔法師なんだな」


「あんた...空気読みなさいよ!」


「頑張れぇぇぇ!オリビア!!!」


「オリビアなら余裕だ!頑張れよ!」


「オリビア、見せてやれ」


「あたしと決勝で戦うために勝ちなさいよ!負けたら許さないんだからね!」


オリビアはこっちを向いてウインクした。ファンクラブの奴らはそれが気に食わなかったようで俺を睨んできた。だから嫌がらせで目に強めの光をお見舞いしてやった。ざまあみろ。


試合が始まり、まずは魔法の撃ち合いが始まった。

オリビアが〈風〉の中級魔法を放ち、それを相殺するようにデュランも〈火〉の中級魔法を放つ。


「ミニサイクロン!」


「ファイアーアロー!」


見事に相殺され、次は上級魔法の撃ち合いになる。


「サイクロン!」


「ファイアランス!」


オリビアの強大な範囲魔法に対し、デュランは沢山の単体魔法を放ち、一点突破を狙う。両者の魔法がぶつかり合い、サイクロンの真ん中に大きな穴が開いた。


その瞬間、空いた穴から身体強化を纏ったオリビアが物凄い速さで飛び出した。


「そうくると思っていたよ!」


デュランはオリビアが近距離が得意なことを知った上でこれを予測していたようだ。

初級魔法は威力が低いが発動が速いので、デュランはニヤリと笑いながら


「ファイアーボール!燃え尽きろ!」


しかし、よく見るとオリビアの周りには鎌鼬のような〈風〉魔法が浮かんでいた。


「ほう。器用なことをするもんだ」


オリビアは〈風〉の初級魔法エアスラッシュを放つと同時に、何かの〈風〉魔法を自分の背中にぶつけたのだ。身体強化を起動してさらに加速し、そのまま相手に突っ込んで一気に勝負を決めるつもりだろう。


「なに!?」


ファイアーボールはエアスラッシュに相殺され


「奇遇ね。私もそれを読んでたの」


オリビアのレイピアがデュランの肩を貫通し、決着がついた。


「勝者、オリビアァァァ!!!」


「うぉぉぉぉ!!!!!オリビア様ぁぁぁ!!!」


「キャァァァァァ!素敵ィィィ!!!」


「なんだ今の!?何が起こったんだ?」


オリビアの奇抜な戦略を目の当たりにした観客たちは、今日一番の盛り上がりを見せた。

俺たちも待合室に直行し、オリビアを祝う。


「さすがはあたしの親友ね!最高よ!」


「さっきの戦い方すごくカッコよかった!」


「俺は信じてたぜ!次も全力で応援するからな!」


「おめでとうオリビア。器用な戦い方に脱帽だ」


「うふふ、ありがとね皆」


オリビアもルーカスもこのまま成長したら、どんな怪物になるのだろうか。楽しみである。





余談だが、その後オリビアのファンクラブのメンバーが一人増えたらしい。

名前はたしか.......「デュラン」だったかな


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