第37話:悪役貴族
リリーが超級魔法を習得して数日経ち、遂に帝王祭の予選が始まった。ちなみに俺は参加しない。今日はオリビアとルーカスの予選があったので、俺たちは応援をしに行った。帝王祭は予選から学年関係なく組まれるので、オリビアの相手が三年生でルーカスの相手が二年生だったが、二人とも普通に圧勝した。
オリビアは持ち味の速さを活かして一瞬で決着をつけた。ルーカスは鉄壁の護りをみせ、すぐに相手の隙をついて見事なカウンターを入れ試合終了。
現在、予選の行われた会場から五人で歩いて学園の正門に向かっている。
「思ってたよりもあっさり終わったわね!」
「最近ずっと皆で訓練した成果が出たね!」
「俺が面倒見てるんだから、これくらい圧勝してもらわなければ困る」
「勝ち上がっていくにつれて相手のレベルが上がるから、油断しちゃだめよ」
「俺たちなら本戦は確実に出場できそうだな!」
エドワードの言っていた通り、四人はダンジョンに潜る以前から訓練を続けていたようなのでその成果が現れて何よりだ。リリー、オリビア、ルーカスについては一年前より確実にレベルが上がっている。エドワードは入学式の日に知り合いになったので、レベルが上がっているのかは知らないが。
その時エドワードが前方を見て
「ん?なんか喧嘩してない?」
「確かに三対三で言い争いをしているな」
「そのうちの三人はうちのクラスの生徒よ」
拡大鏡で確認すると、そのうちの一人がシャーロットであることに気付いた。ここからそれを確認できたオリビアは凄い。そんなオリビア曰く、シャーロット側で口論をしている他の二人もうちのクラスの生徒らしい。確かに見覚えがある。
まずはエドワードが開口一番
「やあ、君たちどうしたんだい?」
シャーロットがそれに気づいて
「第二皇子様!SS-2クラスのギルバードさんと後ろの二人が絡んできたんです」
「あ~また君かい。前も教師に注意されてたよね?」
「おやおやぁ。エドワード様ではございませんか!」
ギルバートの本名は確か【ギルバード・ゲルガー】である。一応由緒ある公爵家の次期当主で、第一皇女派閥の筆頭貴族だった気がする。前に親父から届いた手紙に「学園で絡まれるかもしれないからその時はぶっ飛ばせ」って書いてあったのを思い出した。
後ろの連中はどうみても取り巻きの貴族の子息だ。それも第一皇女派閥の。
ギルバートがニヤニヤしながら語り出した。
「SS-1クラスには我々のような高貴な血が流れている貴族が入るべきなんですよ!それなのにこの平民共は当たり前のようにSS-1クラスに出入りしている。挙句の果てにはシャーロットとかいう女が特待生?こんなことはあってはなりません!」
ここでシャーロットが
「帝立魔法騎士学園は実力主義を掲げているのよ?だから別にいいじゃない!」
「黙れ!下賤な平民のくせに僕に口答えするな!」
「そうだぞ!ギルバートさんに逆らうな!」
「俺たち貴族のおかげでお前たちのような平民が暮らせていけるんだぞ!」
さすがに俺も黙っていられなくなり
「おい、今シャーロットとそこの二人に謝ったら許してやる。じゃないと痛い目を見ることになるぞ?」
「これはこれは最近噂の『閃光』じゃないか。侯爵家の分際で公爵家次期当主であるこの僕に逆らう気かい?」
「ああ」
「へぇ~。たしか君はこの前の野外演習で大活躍したんだっけ?僕は別の日だったから実際に見てないんだよね。SSランク冒険者だのアインズベルクだの持て囃されているけど、本当はハッタリなんじゃないのか?」
「そうだそうだ!」
「どうせ家の力を使ってSSランクまで上げたんだろ!」
ここぞとばかりに取り巻きたちも騒ぎ始める。リリー達も我慢が爆発し、口論に参加しようとしたので、俺は片手で制して止める。
「まぁ俺はお前たちに興味が無いからどう思われてもいい。それは置いといてさっさとシャーロットに謝れ」
「はぁ?謝るわけないじゃないか!逆にこの女が謝るべきだ!」
「そうか、よくわかった」
俺はその瞬間、目に見えない速さでギルバートの横に移動し、死なない程度にぶん殴った。
「ゴハァッ!」
ギルバートはその勢いで壁まで吹き飛び、地面に転がった。俺は奴の傍までゆっくり歩き、頭を踏みつけながら
「ほら、もう一発いくから早く立て」
「貴様ぁ!この僕にこんなことをしてただで済むと思うなよ!?」
「なんだ?大好きなパパにでも言いつけるのか?」
「うるさい!お前の領を家ごと叩き潰してやるからな!」
こいつは今俺の故郷を家ごと叩き潰すと言った。絶対に許さん。そもそも陸軍最強のアインズベルクを相手にそんなことできるはずがないだろうに。
今度はギルバートの腹を蹴飛ばして転がす。
「おい、お前今なんて言った?」
「ハァハァ...ぜ、絶対に許さないからな!」
それはこっちのセリフだ馬鹿が。
「とりあえず、お前の領地と家の場所を教えろ」
「は?何を言って...」
「お前がその気なら、俺は一日でゲルガー公爵領を滅ぼしてやる」
住民が可哀そうなのでさすがに嘘だ。実際には可能だが、ただの脅し文句である。
「そんなことできるわけないだろ!」
刹那、俺は今まで抑えていた魔力や覇気を解き放った。
「ひぃぃぃぃぃ!?」
ギルバートは顔を真っ青にし、股を濡らしながら壁の方に後退る。
「これでもできないと思うか?」
「す、すまなかった!謝るからゆるs」
ドゴンッッッ!
ギルバートの顔の横を掠めるように後ろの壁を蹴飛ばすと、そのまま気絶した。傍から見たら足で壁ドンをしている状態である。
「もう遅い」
取り巻き連中にも大して慕われていなかったようで、そいつらは大分前から逃げ出していた。
ギルバートが気絶したのを確認し、ポカーンという顔のまま固まっている皆の元まで戻った直後、教師と風紀委員会の生徒らが騒ぎを聞きつけてやってきた。
「いったい何があったんだ!?」
「俺が代表して答えよう」
「では簡潔に説明してくれるかい?それと詳しい話は私が聞くから、風紀委員の君たちは先に彼を医務室へ運んでおいてくれ!」
「この三人があそこで転がってるやつに絡まれていたから止めに入ったんだ」
「ふむふむ。君は噂のアルテ君だね。続けてくれるかい?」
「そしたら急に、アイツが俺に殴りかかってきたからビックリしてカウンターを放ってしまったんだ。なぁ皆」
俺は七人の方を振り返って語りかける。すると全員顔を縦にブンブン振って肯定した。
「ふむ。ここには第二皇子様がいらっしゃるし、それは本当のようだね。相手は最近問題を起こしているギルバート君だったし自業自得だね」
「そうなんだ。どちらかというと俺は被害者側だな」
「そうだね。では壁の修理代はゲルガー家に負担してもらうように申告しておこう。もちろん周りの聞き込みもしてみるけどね」
「話が早くて助かる。俺たちは用事があるからもう行ってもいいか?」
「もう大丈夫だよ。わかりやすく話を進めてくれてありがとうね」
「ああ。じゃあ皆行こう」
俺たちはそのまま正門に向かった。
「あんた平気で嘘をつくからビックリしたじゃないの!」
「そうね。あそこまでやっといてよく被害者ヅラできたわよね」
「僕は笑いを堪えるので必死だったよ!!!あっはっは!!!」
「俺はあいつが嫌いだから、アルテはよくやったと思うぞ!」
「あのカスは最近問題を起こしていたらしいし、周りの視線的に大分嫌われているんだろう。それにこっちは皇子と俺を含めた八人だからな。後で何を言われても絶対に勝てる」
リリーが溜息をつきながら
「あんたも清々しいほどのクズっぷりね」
「そんなに褒めるなよ」
暫く雑談しながら進むと、シャーロットと他の二人が
「アルテ、今回はありがとうね!助かったわ!」
「俺も初日に陰口叩いて悪かったな。ありがとう」
「私も一緒ね。今回はありがとう。あのギルバートとかいう奴しつこくて困ってたのよ」
「おう。気にするな」
「やっぱあなた良いやつなのね!」
「シャーロットは将来うちで働く大事な人材なんだから当たり前だ」
ここでリリーが
「ちょっと!何よそれ!あたし聞いてないわ!」
「シャーロットはうちの白龍魔法師団に入団するのが夢なんだって」
「なるほどね。あたしも男爵家の次女だから、将来はアインズベルク侯爵軍に入るかもしれないわね!」
「そうか。リリーなら文句なしで白龍魔法師団に入れるだろう。言ってくれればいつでも団長宛てに手紙を書いてやるからな」
「アルテのお墨付きだったら確実ね!」
その言葉にシャーロットが黙っている筈もなく
「ねぇ!なんでリリーさんは私と違ってアルテのお墨付きなのよ!」
「ああ、その理由は帝王祭で分かると思うぞ」
「何よそれ!」
ここでリリーが超級魔法を習得したことを勝手に教えてしまうような無粋な真似はしない。こういうのは予告なしでドカンと披露する方が面白いのである。
その後、八人で雑談しながら正門に到着し解散した。
屋敷に帰宅後、エクスのブラッシングをして気が付けば夜になっていた。
夕食にて
「ねえアル、今日生徒会に面白い情報が届いたんだけど、最近問題のギルバート君と何かあったのかい?」
「あいつムカつくからぶん殴ったんだ。その後腹を蹴り飛ばしたら気絶した」
「あっはっはっは!自業自得だね!あの温厚なアルをそこまで怒らせるなんて、逆にすごいね!」
「すぐに教師と風紀委員会が駆けつけたから、嘘をついて先にギルバートが手を出してきたことにしたんだ」
「あっはっはっは!ゲホゲホッ!じゃあ今度その書類が届いたら、そのままの内容で受理しておくよ!」
「頼んだ」
兄貴も相当なクズっぷりを発揮したのであった。
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