第36話:小角牛のダンジョン
そのまま朝から友人たちと授業を受けた。始業式で全ての教科書を渡され、その日のうちに全て読み終え理解した俺にとって授業自体はあまり楽しくなかった。光速思考は戦闘以外にも役立つので、勉強の効率が爆上がりする。学園の一年分の勉強範囲なら、俺には一日あれば十分なのだ。前世の知識と≪光≫魔法があってのことなので自慢げには言えないが。
今日の退屈な授業が終わり、放課後になった。
「よし、そろそろ訓練所に向かうか」
訓練所に到着後、ルーカスvsオリビア、エドワードvsオリビア、ルーカスvsエドワードで模擬戦をしてもらった。その後リリーには超級魔法を習得させることを優先するため、的に向かって超級魔法を撃つ練習をしてもらい、それを皆で見学した。リリーは魔力を練る速度も速いし、魔力操作も上手い。魔力量も多い上に全属性の魔法を撃てるのでバリエーションも豊富だ。
もう普通にうちの白龍魔法師団で活躍できるレベルに達している。
「オリビアが二勝し、エドワードが一勝、ルーカスが全敗だったな」
模擬戦の結果はオリビアの全勝だった。エドワードとルーカスは僅差でエドワードの勝利で終わった。ルーカスはドンマイである。
「うふふ、残念だったわね」
「オリビアは全てが段違いだったね!」
「クソォォォォ!全敗だぁぁぁ!」
「あんたたち凄いわね」
オリビアは〈風〉魔法とレイピアを駆使した波状攻撃で二人を圧倒していた。彼女はセンスがずば抜けていて頭も良い。何よりレイピア特有の間合いの取り方が上手かった。
エドワードは〈水〉魔法と長剣を組み合わせて戦っていたが、攻撃力が足りなかった。治癒魔法で回復を試みていたが、防御をしながら魔法を使うのに慣れていなかったようで、オリビアには手も足も出なかった。ルーカスとはいい勝負ができていたのでよしとしよう。
ルーカスは護りの剣を得意としているが、〈土〉魔法が初級しか使えないので、まだまだ発展途上である。しかし、俺の予想だとルーカスは大器晩成型のタンクなので将来が一番楽しみである。うちの凶悪ジジイも大器晩成型であり、現在では各国に『鬼神』と恐れられるほど護りのレベルが高いので、彼にはこれから精進してほしい。
「オリビアは相変わらず性格の悪い攻撃を得意としてるな」
「酷い言われようね」
「相手の弱点を正確に狙い、怯んだところを畳みかける戦法なんだろ?」
「ええ、そうよ」
「ぶっちゃけ俺にアドバイスできることはないな。魔法剣士としてのセンスがずば抜けているから、このまま自分の思うように技を磨いてくれ」
「わかったわ」
本当はこの戦法の剣士はいつか限界が来るのだが、オリビアなら自力でどうにかその壁を乗り越えて次のステージに進むことができると思う。天才は放っておけば勝手に成長するのだ。
「次はエドワードだな。自分でも気づいていると思うが、剣戟中に魔法を使う練習をした方がいい」
「だよねぇ。剣術と魔法が両方中途半端な魔法剣士にはなりたくないよ。それで他には?」
「以上だ」
「えっ」
魔法剣士を目指しているなら、まずはそれが最優先だ。今他のアドバイスをしたら混乱すると思うので、これが正解である。(たぶん)
「そしてルーカスについてだ。『鬼神』の息子として言いたいことがある」
「お、おぅ」
「護りの剣というのは大器晩成型で、少しずつしか成長ができない。だから今お前は周りとの差が開いてしまっていることに焦っていると思うが、このまま研鑽を続けていればいい。この俺が保証する」
「本当か?」
「ああ。しいて言えばパリィを覚えろ。そんな感じだ」
「わかったぜ!!!それを聞いたらやる気が出てきたぞ!」
「頑張れよ」
やっぱりこいつは将来カッコいい騎士になりそうだな。こういう奴が先頭で戦うと後ろの兵士に熱が伝わるから戦争では非常に心強い。いずれは俺の親父を超える男になって欲しい。
「最後はリリーだな。リリーは今なぜ超級魔法が発動できないと思う?」
魔法を使用するにあたって重要なのは主にイメージ、魔力操作、魔力量が多いこと、その属性の性質や概念を理解することなどだ。
「う~ん、魔力操作の練度が足りないとか?」
「やっぱり優秀すぎて逆に気が付いていないようだな」
「で、結局なんなのよ!」
「イメージが足りてない。それと自信もな。逆にそれ以外はほぼ完璧だぞ」
「え?イメージって...そんな初歩的な?」
「ああ」
どうやらリリーも優秀な魔法師あるあるの沼にハマっているようだ。「イメージ」は魔法を学ぶ際に一番最初に教わる基本中の基本なので、優秀な魔法師が逆に疎かにしてしまうことがあるのだ。
剣の道を究めた者が毎日素振りをする様に、基本とは決して疎かにして良いものではない。ちなみに俺も日課で素振りをするし、魔法のイメージや魔力操作の練習も欠かさない。
リリーは恐らく超級魔法が発動できないことで自分に自信が無くなり、それに伴ってイメージ力も落ちていると考えられる
「じゃああたしはどうすればいいのよ!」
「今度のダンジョンで絶対に発動できるようにしてやるから、それまでに自信を持っておけ。リリーはまだ十五歳なんだから今のままでも十分凄いと思うぞ。実際この学年では断トツだしな」
「そ、そう?お世辞じゃないわよね?」
「ああ。事実だ」
「少し自信が出てきたわ!あたしやれる気がする!」
「その調子だ」
これでもこの四人は帝立魔法騎士学園の一年生の中でトップクラスの実力を持っている。要するにカナン大帝国の十五歳の中でトップクラスというわけだ。今から鍛えれば必ず帝国でも指折りの猛者になるはずなのである。
ここでルーカスが
「で、誰の屋敷でバーベキューするんだ?」
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休日、俺たちは帝都の門を出てすぐの場所で待ち合わせをしていた。
「帝都の外に出たとはいえ、かなり賑わっているな」
帝都に入る時は身分証を提示し通行税を払わなければならないため、休日であっても帝都の外には長蛇の列ができる。また貴族や高ランク冒険者などは正門の横にある小門を利用して、列に並ばずスムーズに通ることができる。これは権力を笠に着ているわけではなく、帝国では貴族や高ランク冒険者、高ランク商人などは信用性が非常に高いし、緊急の要件がある場合に律儀に並んでいる暇がないので特別に小門を利用できるのである。
その長蛇の列の横に屋台が沢山並んでいるので、皆が来るまでエクスと爆食いするのもアリだな。帝都の経済を回すために俺がバンバン金を使わなければいけない(食べたいだけ)
「エクス、あれ食うか?」
「ブルルル」
エクスも乗り気なので片っ端から食べ物を購入しモグモグ食べていると
「あ、ズルい!あたしにも寄越しなさい!」
「私そのフルーツ飴がいいわ」
「僕にも何かくれるよね?」
「俺は串焼き!」
食いしん坊達に発見されたので、全員で歩いて目的地へ向かう。大通りを二時間ほど歩くと、大きめの村が見えた。
「これが【小角牛ダンジョン】の横につくられた村か。確かに安全そうだな」
このダンジョンで獲れる小角牛は食肉としての人気が高いので、それを効率よく流通させるために近くに村がつくられている。このようなダンジョンは他にも沢山あり、人気なダンジョンの近くには都市がつくられることもある。所謂ダンジョン都市というやつだ。帝国にもいくつかあるので、余裕ができたら行ってみよう。ダンジョンからしか出てこないお宝も存在するので、行かない理由はない。
ダンジョンの入り口に到着し、衛兵に冒険者タグを見せる。平地にポッカリと穴が開いており、そこの階段を下るとダンジョンに入れる仕組みだ。そのまま階段を下ると
「オーウェンがおススメするだけあっていいダンジョンだ」
「何よこれ!?まるで別世界じゃない!」
「大空が広がっていて綺麗ね」
「風も吹いてるよ!」
「どこまで続いているんだこの草原!」
「皆ダンジョンは初めてだったのか」
「ブルルル」
皆嬉しそうな反応を見せてくれたので、連れてきた甲斐があった。ダンジョンも魔法もあるこの世界に転生できて俺は本当に良かったと思う。神様がいたら感謝したい。実在するのかは知らないが。
「じゃあ予定通り、俺とエクスは隠密状態で後ろから付いて行くからな」
「わかったわ!あんた遅れるんじゃないわよ!」
「ああ」
リリーたちはスライムやホーンラビットを倒しながら進む。途中で川があったが橋が架かっていたのでありがたく渡らせてもらう。その後休憩を挟みながら一時間ほど歩き、遂に小角牛が出現するポイントに着いた。
そこにある小高い丘の上から「拡大鏡」で三百六十度見渡す。
「他にもチラホラ冒険者がいるな。あ、本格的な戦いが始まる前にリリーに伝えておくことがある」
「なによ?」
「超級魔法のイメージは鍛えられたか?」
「多少自信は生まれたんだけど、イメージはあと一歩ってところなの」
「一番得意なのは〈火〉魔法だよな?」
「そうだけど」
「上を見てみろ」
「上?」
リリーは太陽が煌めく大空を仰ぐ。
「あの太陽をイメージして魔法を撃ってみろ」
「たい...よう...?」
リリーの頭の中で何かが弾けた。刹那、今までの凝り固まった思考が崩壊し、己が無意識に堰き止めていた真の魔力が魔臓から溢れ出す感覚がした。
「そうだ。お前の魔法はあの太陽を超えるんだ。自信を持て」
「わかったわ!」
と、その時
「おーい!助けてくれぇぇぇ!!!」
「!?」
向こうから他の冒険者パーティが走ってきた。そしてその後ろには
「あれはたしか大角牛だな」
俺たちは横にいるリリーの名前を叫ぶ。
「「「「リリー!」」」」
「あたしに任せなさい!!!」
リリーが杖を構え、莫大な魔力を練る。超級魔法の発動に必要な魔力を操作して杖の先に集める。逃げている冒険者たちはリリーが魔法を発動するのを感じ取り、いいタイミングで大きく横に逸れる。
発動するのは小さい頃に魔法書で知り、それからずっと憧れていた魔法。イメージするのはこの大空に煌めく大きな太陽。
その超級魔法の名は
【赫々炎陽(カッカクエンヨウ)】
突如リリーの上に凄まじい熱量を誇る太陽が生まれ、辺りの地面を焼き尽くしながら大角牛へ向かっていく。
そして
大角牛は地面と一緒に溶かされドロドロのマグマになった。
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リリーが念願の超級魔法を成功させたことで俺たちは大喜びした。ちなみに助けを求めてきた駆け出しの冒険者パーティにはしつこいくらい感謝された。
「改めておめでとう。よくやったなリリー」
「ふん!あたしなら余裕よ!もっと褒めなさい!」
「親友の私も嬉しいわ」
「おめでとうリリー!僕にも熱が伝わってきたよ!」
「また差が開いちまったな!おめでとう!」
「ブルルル」
リリーのツンデレがしっかりと発動していて何よりである。最近は悩みが多く元気が無さそうだったので、これからもこの調子でツンツンしていてもらわないと困る。
その後小角牛を順調に狩り、そのままマジックバッグに詰めて帰路についた。本当はその場で血抜きやら解体やらをしたかったのだが、皆はまだ初心者なので流石にやめておいた。申し訳ないが料理長にやってもらおう。
結局、アインズベルク侯爵家の別邸でバーベキューをすることになったので、その日は皆で沢山食べて沢山騒いだのである。
解散後、風呂に入りながら呟く
「これぞ青春だよな。アイツらと友達になれて本当によかった」
「ルーカスも今日は珍しく空気を読んでいたしな」
そう。大角牛の肉は最高級食材なので、帰り際にルーカスが一瞬悲しそうな目をしていたのを俺は見逃さなかった。
皆まだ十五歳なのに本当に優秀である。
その頃兄貴ロイドは
「この肉うまっ」
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