第35話:準備

放課後、俺はカナン大帝国帝都【アデルハイド】の冒険者ギルド本部へ来た。

いつも通りにSランク冒険者以上専用の受付へ向かう。Sランク以上の冒険者というのは全体の一パーセントにも満たない貴重な存在である。そのため受付の周りは人気が無く非常に静かなのだ。


「やっぱSランク以上の受付は静かでいい」


今日は知り合いの【宵月】や【氷華のエリザ】がいないので少し寂しい気もする。まぁ高ランク冒険者というのは基本的に多忙なので仕方がない。


「『閃光』さん!今日もお疲れ様です!本日はどのようなご用件で?」


「ギルマスと話がしたいのだが」


「オーウェンさんですね、了解しました!少々お待ちください~」


今日も元気だな、あの受付嬢は。冒険者ギルド本部の職員になるためにはいくつもの試験や面接を経て、何百倍という倍率を潜り抜ける必要がある。その上彼女はSランク以上専用の受付の担当枠を勝ち取ったのだ。控えめに言って超優秀である。


【宵月】のジャック曰く、彼女は高ランク冒険者から頻繁にデートの誘いを受けているが、全て笑顔で拒否しているらしい。さすがである。


「お待たせしました!こちらへどうぞ!」


「おう」


受付に入り、長い廊下を歩いて一番奥にあるギルド本部長室へ到着した。


「久しぶりだな『閃光』。ざっと四か月ぶりか?」


「おう、久しぶり。今日は報告をしに来たんだ」


「おお!早速聞かせてくれ」


「とりあえず帝都襲撃事件の犯人である連邦の飛竜部隊は壊滅させた」


「なるほど、これでもう空から襲われる心配はないんだな」


「いや、あと数年もすれば復活するだろうが、その頃には帝国も対抗戦力を準備できるから安心してくれ。国家機密だから詳しくは説明できんが」


「名目上ギルドは独立組織だからな、それは仕方ない。どんな戦力なのかは大体想像つくけどな」


「そうか。では次の話に移るが、連邦のSSランク冒険者を一人始末した」


「たぶん【マックス】だろ?」


「よく知ってたな。確かうちと連邦の本部は仲が悪いんじゃなかったっけ?」


「『SSランク冒険者の消失』くらい大きな事件なら流石に共有されるぞ。初めてそれを聞いた時はすぐにお前さんの仕業だとわかった。あと≪重力≫持ちの方だってこともな」


「あっちでもまだ一応死んだことにはなっていないのだが...やっぱオーウェンは鋭いな」


「これくらい予想できなきゃギルドの本部長は務まらんよ」


「そうだな」


「はっはっは!」


オーウェンがドワーフの特徴である長い髭を揺らしながら笑う。今更なのだが、オーウェンは鍛冶師としても超一流だと聞いたことがある。また今度来たときに【星斬り】を自慢しようか。よし、そうしよう。星斬りはこの世界に一本しか存在しない「刀」なので、オーウェンが前からチラチラと見ていたのを知っている。


「ついでに他の覚醒者も何人か始末したのだが、俺の予想だと連邦はまだかなりの戦力を隠しているから暫くは警戒を続けてくれ」


「わかった。『閃光』が言うなら本当だろうよ。SSランク冒険者みたいに人族を超越しているような連中の直感ってのは舐めちゃいけねぇんだ。まだ予想の段階だろうが、それは十中八九当たると思って動いた方がいいぞ」


「ああ。肝に銘じておく」


「お前さんはこの国に必要な人間なんだ。これからも本部は『閃光』に全面協力をさせてもらうからな」


「偽装用の冒険者タグを張りきって作った奴がなに言ってんだか」


「その話はするな!せっかく今カッコいい感じだったのに...」


「じゃあ早速協力してもらっていいか?」


「お、おう」


「これは完全に私的な頼みなのだが、帝都から近くて初心者におススメのダンジョンを教えてくれ。できればダンジョン内の見晴らしがよくて安全な所が良い」


「そろそろ帝王祭の予選が始まるからな。どうせ学園の友人の訓練にでも付き合わされるんだろ?」


「よくわかったな」


「それを踏まえると一番おススメなのは【小角牛のダンジョン】だな。帝都に近い草原型のダンジョンで、出現する魔物の最高ランクはDだ。稀にボスの【大角牛】が出現するのだが、そいつがDランクで、通常の小角牛がEランクだ」


「ほう。他に出現する魔物は?」


「GランクのスライムとFランクのホーンラビットだったと思うぞ」


「なるほど、では大角牛の身体強化を駆使した突進を警戒していれば他は大丈夫そうだな」


「その通りだ」


「ありがとう。参考にさせてもらう。時間も結構経ったしそろそろ帰るかな」


「おう、また来てくれ」


「ああ。では」


俺は立ち上がり、部屋を出る。


「あ、やべ」


再び部屋のドアを勢いよく開ける


「うわ!ビックリした!一体どうしたんだ?」


「連邦で対の魔法陣見つけたんだが、その写しを渡すのを忘れていた」


「えぇ」


そういうことはもっと早く言えよという顔をしているオーウェンにマジックバッグから出した写しを渡し、俺は足早にギルドを出たのであった。


「またせたな、エクス」


「ブルルル」



===========================================


翌朝、SS-1クラスの教室にて


「というわけで、今週の休日に皆で【小角牛のダンジョン】に潜るぞ」


「どういうわけよ!面倒くさがらずにちゃんと説明しなさい!」


「それよりエドワードに外出許可は下りたのかしら?」


「父上に執拗に頼んだら、嫌な顔をしながら許可してくれたよ!」


「その牛確か美味いんだよな?持って帰ってバーベキューしようぜ!」


「それは名案だな。誰の屋敷でバーベキューするか」


「ちょっと!そんなことより早く説明しなさいよ!殴るわよあんた!」



リリーがめっちゃ怒るので、小角牛のダンジョンを選んだ理由や、出現するモンスターの注意点などを詳しく話した。

今更なのだが、この世界には様々なダンジョンが存在する。俺が以前潜った【帝蟲の巣】は階層型であり、今回潜る小角牛のダンジョンはフィールド型である。フィールド型は奥へ進めば進むほど強力なモンスターが出現するのである。最奥に辿り着けばダンジョンコアがあるのだが、それは基本的にギルドが管理しているので、勝手に壊すと重罪になる。

ちなみにダンジョンの氾濫があった場合や、他にやむを得ない理由がある場合は罪には問われない。


「他に気になる点や意見はあるか?」


「あたしはないわ!」


「私も無いわね」


「俺もないな!それより早く肉食いたい!」


「はい!僕あります!」


「なんだ?」


「確認したいことが二つあるんだけど、まず一つ目は全員が冒険者タグを持っているのかということ。二つ目は、フィールド型のダンジョンは稀にボスが出現すると思うんだけど、その時の対処の方法はどうするのか、だね」


「まずはこの中で冒険者タグを持っていない奴はいるか?」


全員が首を横に振る。冒険者タグを持っていないとダンジョンに入れないのを俺は完全に忘れていた。ナイスエドワードだ。


「全員持っているなんて珍しいな」


「普通の貴族子女は持ってないと思うけど、俺たちはアインズベルク領の周辺出身だからな!」


「土地柄的に持ってる人が多いからね。貴族も含めて」


「まだあたしGランクだけどね!」


「僕も皇族の一人として小さい頃から持ってるよ」


「なるほどな。次にボスの対処法だが、出現するのはDランクの大角牛だから四人で連携すれば普通に倒せると思う。大角牛の突進もエドワードとオリビアなら避けられるし、ルーカスも盾で受け止められる。リリーも魔法の発動が速いから余裕で丸焦げにできるぞ」


「それを聞いたら少し楽しみになってきたわね!」


「ねぇアルテ、私たち四人がパーティを組んだら大体どのランクの魔物まで倒せるのかしら」


「前衛二人、タンク一人に後衛一人。エドワードとリリーは二人とも回復持ちというのを考慮すれば、ギリギリBランクなら倒せるだろうな」


「なるほど、自信が湧いてきたよ!」


「護りは俺に任せとけ!」


皆を少し褒めたら急にやる気を出し始めた。この調子でダンジョンに潜れれば、いつも以上の成果を出せると思う。


「俺は皆の力量を知りたいから、放課後に訓練所にいこう」


「わかったわ!」


「いいわね」


「賛成だよ!」


「うぉぉぉ!久しぶりにアルテと剣戟を交わせるぜ!」


「俺はなんもやらん。見てるだけだ」


「えぇ」


落ち込むルーカスを放っておき俺たちは午前中の授業に臨んだ。

その後、いつも通り食堂で昼食をとりながら


「リリーは結局超級魔法を使えるようになったのか?」


「あの~それが...発動しないのよね」


「相談なら乗るぞ」


「本当!?じゃあ本戦までに使えるようになりたいんだけど!」


「練習に付き合ってやる」


「あんたいいやつね!」


「せっかくなら全員で訓練するか。俺は普段こんなんだが、戦闘には慣れてるからな。最低限のアドバイスくらいできると思うぞ」



友人の為ならとことん付き合おうと決めたアルテであった。




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