第4章【帝王祭編】

第34話:アルテの真実

アルメリア連邦から帰還した翌日、俺はエクスと共にテール草原に訪れていた。


「よーし、しばらく自由時間な」


「ブルルル」


エクスは返事をすると、鼻息を荒くしながら駆けて行った。テール草原は直径数十キロ以上はあるので、エクスが全力で走っても問題は無い。低ランク冒険者が腰を抜かすだけだろう。

エクスはこの都市に住み始めて長いので、最近は名物化してきているらしい。バルクッド内で声を掛けられることも増えてきた。一応それにはアインズベルク家の一員だということも関係していると思う。


一瞬で遠くまで走って行ったエクスを見届け、俺は近くにあった岩に腰を掛けた。


「草原で日向ぼっこをするのもなかなか乙だな」


こんなにのんびりできるのは久しぶりである。普通なら学園に行かなければならないが、俺は既に全ての単位を貰っている。そのため次に学園に行くのは期末テストの時だ。これは来年も特待生枠に入るために受けるので、十位以内に入れれば別にいい。


「あ、でも帝王祭は応援しにいくか」


リリー、オリビア、ルーカス、エドワード、シャーロットの五人を応援するために、今年学園内で開催される帝王祭は見に行きたい。このイベントは一応学年関係なく自由参加で、魔法と剣術を競う祭りである。俺の予想だと今年の優勝者は【ソフィア・フォン・ランパート】だ。兄貴の婚約者である彼女は去年の決勝で三年生に敗北して準優勝だったらしいが、学年が一つ上がった今年はきっと優勝するだろう。


ちなみに兄貴はアインズベルク侯爵家次期当主なので、ソフィアは学院卒業後にうちに住むことになるだろう。


「婚約者か。俺も今年中に決めないとなんだよな。でも次男だし、絶対決めなきゃいけないわけではないんだっけ?そこら辺は一体どうなってるんだ?」


「てか俺養子だし」


親父に前回の戦争の話を聞いた時から、時系列的に俺がアインズベルクの血を引いていないことには薄々気づいていた。しかも、たぶん俺はエルフの血を引いている。所謂ハーフエルフというやつだと思う。一見、普通の人間と変わらないが魔力の質が少し違うのである。


俺が養子だと知っているのは両親と古参の使用人くらいだろう。しかし、俺がハーフエルフだと知っているのは白龍魔法師団団長のフローレンスとSSランク冒険者のエリザの二人だけだと考えられる。二人とも純血のエルフだし、俺の魔力を探知した時に耳がピクピクしていたからな。本人たちはなぜか俺にそれを教えてくれなかったのだが。


俺は探知も得意なので自分でハーフエルフだということに気づけて良かった。ハーフエルフはエルフと違い、魔力も人間並みだし耳も短い。でも寿命だけはエルフと同じくらい長いので、覚醒者で元々魔力量の多い俺は、言い換えれば耳の短いエルフといったところか。


「一番良いのは、寿命が長い種族の女性と婚約して、二人でエクスに乗って世界中を旅することなんだけどな」


しかし、世の中はそんなに甘くないことを俺は知っている。そもそもアルメリア連邦を含めた他国との軋轢を解消することが大前提である。


「それにエドワードが皇位を継ぐのを見届けなければな」


俺がやるべきことは他にも沢山あるので、婚約者については卒業するまでにどうにかすればいいか。



その夜、夕食にて


「婚約者?一般的な貴族家の子女なら十六歳までに婚約するものだが、うちは次期当主のロイドがすでに婚約しているから別に焦らなくてもいいぞ」


「そうそう、厳しい家だと早いうちに決めちゃうけど、うちは緩いからねぇ」


「お兄様にはまだ早い!!!」


「そうか」


「アインズベルクみたいに家格が高い家は割と自由恋愛を推奨してるぞ」


「もしかして兄貴とソフィア嬢も自由恋愛なのか?」


「実はそうなのよ」


「マジか」


「俺とアリアも自由恋愛を経て結婚しているからな!」


「それは知ってる」


親父と母ちゃんは所謂バカップルというやつだろう。すでに二人とも四十歳だが、毎晩熱い夜を過ごしているようだし。まぁ二人とも見た目は二十後半と間違えられるくらい若々しいのだが。


「アル兄様は好きな女性とかいないの?」


「特にいないんだよな」


「よし!」


「ん?」


「なんでもない!」


なぜか今レイがガッツポーズをしていた気がするのだが、まぁいいか。

暫く雑談をしながら食事を進めていると、急に親父が心配そうな顔で


「もしレイが変な男を連れてきたらどうしようか」


「アルと決闘させて、勝てたら許可してあげるわ」


「エクスも戦力に入れていいのか?」


「えぇ」


レイはうちの一人娘なので、時々このように両親の親バカが発動する。レイは兄妹の俺から見ても控えめに言って天使なので、気持ちは分からなくもない。今は俺に懐いてくれているが、もし嫌われてしまったらショックで死んでしまうだろう。


「そういえば、あと一か月半後に帝王祭が開催されると思うのだが、アルは行かなくていいのか?」


「確かにこの前応援しに行くって言ってたわね」


「だからそろそろ帝都に向かおうと思ってる」


「私も行く!」


「それは無理だろう」


それから俺は二週間のんびりと過ごした。たまに冒険者ギルドに行って依頼を受けたり、ドワーフのおっちゃんのところに行って装備のメンテナンスをしてもらったりした。基本的には庭でゴロゴロ日向ぼっこしていたのだが。


「やっぱり日光は最高だな、エクス」


「ブルルル」


丁度昨日母ちゃんとレイに鬣を収穫されたエクスの腹にもたれ掛かりながら、今日も怠惰な日々を過ごすのであった。



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「あと一か月後に帝王祭が開催されるが、我が友人たちはどんな訓練をしてるんだと思う?」


「ブルルル」


「あぁ確かにダンジョンとか潜ってそうだな。他は?」


「ブルル」


「ほう、その手もあったか」


「ブルルル」


現在、エクスに乗り帝都に向けて移動している最中だ。ちなみに今回もケイルはお留守番。ケイルは元軍人とは言えもう六十歳を超えているので、色々な所に連れまわすのをやめた結果、最近はエクスと二人で移動することが多いのである。


数時間後


「見えてきたな。そろそろペースを落としてくれ」


「ブルル」


俺たちは帝都【アデルハイド】に無事到着した。今日は休日なので、別邸には兄貴がいた。久しぶりの再会に喜んでいたが、目の下にクマができていた。兄貴は生徒会長なので、この時期は帝王祭関係の仕事で忙しいのだろう。


「なぁ兄貴、学園の生徒って帝王祭に向けてどんな訓練をしているんだ?」


「仲のいい友人と訓練所に行って魔法や剣術の鍛錬をしている生徒が多いかな。他には冒険者パーティを組んで依頼を受けたり、ランクの低いダンジョンに潜る人もいるね」


「そうなのか。それで今年の優勝候補は?」


「もちろんソフィだよ!去年は準優勝だったから、今年は優勝するって本人も張りきっていたよ!」


「そうか。俺も応援させてもらおう」


「うん!頼んだよ!」


「このバカップルめ」


「そんなに褒めても何も出ないよ!」


あと兄貴は参加せずに裏方に回るらしい。それと一年生筆頭はリリーだと思う。一年前のお茶会の時に、超級魔法を練習していると言っていたので、帝王祭までに使えるようになれば準優勝を掴めるかもしれない。ソフィアも超級魔法を使えるらしいので、決勝で当たればいい試合が見れそうである。


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 翌日の昼、学園の食堂でいつもの定食を注文し受け取った後、リリー達が座っているテーブルを探し、リリーの隣に座る。


「よっ」


「うわ!あんたビックリしたじゃない!」


「アルテ、久しぶりね」


「久しぶりだな!」


「久しぶりだね!」


「おう」


「な~にが『おう』よ!何も言わずに四か月もいなくなって...ガミガミ」


しばらくリリーに説教された後、帝王祭の話に入る


「それでどんな訓練をしているんだ?」


「皆で訓練所に行って普通に特訓してるぞ!」


「ダンジョンとかに潜ったりしないのか?」


「あ~僕が外出禁止命令を受けているから、皆気を使って訓練所で鍛錬してくれているんだ」


「別に気にしなくてもいいわよ!あたしたち友達じゃない!」


「そうだぞ!」


「ダンジョンに行くなら俺とエクスが護衛するが、それでもダメなのか?」


「SSランク冒険者の護衛がいるなら父上も許可してくれるかも!」


「そういえばあんたこれでもSSランク冒険者なのよね」


「大陸に三人しかいないのにね」


「やっぱアルテは凄えな!」


「それと今日は暇だから俺も授業に付き合うぞ」


「「「「!?」」」」


「そんなに驚くなよ...」



この後、SS-1クラスの生徒達とアグノラが、久しぶりに姿を見せたアルテに驚いたのであった。

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