第29話:海軍基地襲撃

翌日、俺は再び例の魔導具屋へ訪れ、案内役の後ろを歩いていた。


「なぁ、諜報部の合同基地は首都の外れにあるとはいえ、バレないのか?連邦にも索敵特化の覚醒者くらいいそうだが」


「実は魔力阻害の魔導具が設置してあるんですよ」


「なるほどな、魔導具屋はそのカモフラージュってわけか」


「その通りです」


この世界の一般的な魔導具屋は、魔力阻害の魔導具を初め色んな種類のものを取り揃えてある。そのため魔導具屋の傍を通る時に魔法師が違和感を感じるのは結構あるあるな話なのだ。


しかもこの首都には二千万人以上の人々が住んでおり、面積も帝都より少し広いので魔導具屋も数えきれないほどある。確かによっぽどのことがない限りバレる心配は無さそうだな。


合同基地に到着後、マルコを含めたここの重鎮達に迎えられ、大きな会議室へと通された。俺はマルコの隣の椅子に座り、小声で話しかける。


「そういえばなんでマルコはここにいるんだ?」


マルコは侯爵軍の中将なので、親父を含めなければ実質二番目に偉い地位にいる。連邦との総力戦が三年後に始まるという情報は届いているはずなので、今からマルコが配属されるのは少しおかしいと思っていたのだ。


「単刀直入に答えますと、私の妻と娘が獣人なのですよ」


「息子の【ケビン】が人間だから少し驚いた」


「息子は私の血を引いて、娘は妻の血を引いたんです」


「だから来たのか」


「ええ」


マルコは頷き、力強い返事をする。俺を【カーター】まで運んでくれた侯爵軍の奴らが無事にあの書類を帝国に届けてくれたのだ。その中には連邦が帝国に勝利した場合の「亜人」の処理について記された命令書があったはず。


そう。俺があの夜声に出して読めなかったほど酷い内容の命令書である。マルコはそれに目を通して、はらわたが煮えくり返り自ら志願してここへ来たのだろう。


「マルコ」


「はい」


「連邦の上層部は俺が一人残らず皆殺しにするから安心してくれ」


「承知」



話し終わったタイミングで会議が始まり、連邦についての情報がテーブルの上を飛び交った。


連邦軍に紛れ込んでいる諜報部からの情報では、連邦は陸軍と海軍、空軍に分かれて帝国に総攻撃を仕掛けるつもりだったらしい。

しかし空軍については俺が飛竜部隊を壊滅させてしまったので、作戦を変更し陸軍と海軍に戦力を集中させるようだ。


思わず俺は会議中に


「なぁ、うちってそんなに舐められているのか?」


「いえ、連邦もそこまで馬鹿ではないと思います」


「じゃあ鍵は覚醒者か?」


「はい。相当優秀な覚醒者を抱えているのだと考えられます」


「だよな。まぁ海軍については俺がどうにかする。戦艦なら剣で斬るなり魔法で沈没させるなりできるからな。もし取り逃しがあってもランパードがいるから大丈夫だろう。陸は追々だな」


海は戦艦が無ければ行軍できないが、陸は最悪歩けば行軍できるので、今は手の打ちようがない。皆もそれがわかっているので、俺の話を聞いて頷いている。


「次は問題の覚醒者について聞かせてくれ」


「はい。今回の戦争に参加すると思われる覚醒者は大体五十人です。我らが最も警戒しなければいけない覚醒者は三人で、そのうちの一人は先日アルテ様が始末しました」


「飛竜部隊の時に戦った【ローガン】だな。他は?」


「≪転移≫の覚醒者と、≪重力≫の覚醒者です」


「やっぱりSSランク冒険者は出てくるか。≪植物≫持ちは?」


「植物持ちの覚醒者は連邦の上層部に何度も声を掛けられたようですが、毎回断り結局どこかへ消えてしまったようです」


「いい判断だな。ということは重力持ちは現在首都の冒険者ギルド本部にいるのか?」


「ええ。たまにソロで依頼を受けているようです」


「警戒心の無いやつだな。じゃあ機会をうかがって俺が始末してくる」


「了解です。アルテ様を主体とした大規模作戦まで約一か月ですので、期限はそこまででお願いします」


「ああ。それとここから一番近い海軍の基地はどこにある?」


「ここから馬車で十日ほどの場所にあります。地図のここですね」


「ふむ。俺が道を無視して最短距離を本気で走れば往復で四日くらいだな」


「ではアルテ様にはまずこの基地を潰してもらい、残りの三週間ほどは首都で重力持ちの始末に専念していただく形でお願いします」


「わかった」



暫く会議は続き、ついに終盤を迎え


「ではこれで今日の会議は終わりです。次の会議は一か月後の大規模作戦の二日前に開きます。最後に何か意見のある方はいますか?」


「あ、ちょっといいか?」


「どうぞ」


「言い忘れてたんだが【ルゼの森】で、帝都の襲撃事件の際に使用されたと思われる魔法陣のもう片方を発見したから写してきた」


「...」


「なんで皆『そういうことはもっと早く言えよ』みたいな顔をしてるんだ?」


「「「「「えぇ...」」」」」


そして微妙な雰囲気のまま会議は終わった



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 「帝国には生息していない魔物が沢山見れて楽しいな。俺にとっては無料魔物園だ」


 俺は会議の日の夜に首都レクセンブルクを出立し、最短距離で例の海軍基地に向かっていた。現在、呑気なことを呟きながら名も知らぬ草原の真ん中を堂々と移動中だ。


「そういえば、この世界で海に行くのは初めてだ。今回は見れないと思うが、海に生息している魔物は陸の数倍はデカいからな。楽しみになってきた」


それと今回一つ企んでいることがある。巨大な魔物たちが跋扈する海を戦艦で移動できるのには訳がある。戦艦の中心部に魔物除けの魔導具を設置しているのだ。それは基本的に高価なのだが、漁船やボートに使われるものくらいなら誰でも普通に入手できる。


しかし今向かっている海軍基地には大きな戦艦があるかもしれない。それに使われる魔物除けの魔導具は非常に魅力的である。


「軍艦を沈めるのは確定しているが、そういうものは勿体ないから回収しよう。お土産に丁度いいし」


こうやってポジティブに任務をこなせるのがアルテの良いところなのかもしれない。



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 帰りはまだしも行きで体力と精神を削りすぎるのは愚策なので、適度な休憩を挟みながら移動すること約二日、遂に例の基地に到着した。


「懐かしいな、この潮の香り。前世を思い出す」


 まだカーターとリングストンの襲撃事件は俺が犯人だとバレていないはずだから、念のため今回も地上では攻撃魔法は使いたくない。海の中であれば死体が残らないのだが。


俺は腰に差している【星斬り】にチラッと視線を移し、手を添えて


「頼んだぞ」


どうやらヤンデレソードこと星斬りもヤル気満々である。


夜になるまで待ち、光学迷彩と暗視を起動したまま極限まで魔力を抑え込み、隠密状態になる。

そのまま基地に侵入し


「思ったよりデカいし広いな」


昼に拡大鏡を使って基地の全体構造は把握できたので、スムーズに進む。

港に到着すると、そこには大きめの戦艦が四隻と巨大な戦艦が一隻、堂々と海の上に佇んでいた。


そこで俺は身体強化を使ってジャンプし、甲板の上に着地する。夜なので船上には誰もいない。しかし戦艦の窓からは光が漏れているので光探知を起動すると、食堂らしき場所に沢山の人が集まっているので、夕食の時間のようだ。


「好都合だな」


俺は強い魔力反応のする戦艦の中心部分に移動し、真下を見る。星斬りを静かに構え、足元を円形に斬る。


ストン


そのまま続けて


ストン、ストン


無音で艦内に忍び込み


「これが魔物除けの魔導具か、思ったよりも小さいな」


良い魔導具だからといって大きいわけではないようだ。俺はそれをマジックバッグに詰めて、今度はこの艦隊の総司令長官がいるであろう大きな部屋へ向かう。魔力反応も大きいし、たぶん一番偉い人だろう。


司令長官室のドアをゆっくりと開ける。


「ん?誰だ?」


長官は首を傾げて呟く。


「誰かのいたずr、」


ポトリ


言い切る前に一瞬で首を落とす。


「さて、重要書類をいただくか」


いつも通りに金庫を発見し、重要書類をマジックバッグへ詰める。

その後巨大戦艦を抜けて、他の戦艦で同じことをした後、港の横の方へ移動し、物陰で重要書類を眺める。


「やはりランパートとは互角にやり合うつもりだったらしいな」


内容的に、何人かの覚醒者を乗せて遠距離攻撃を主体にした作戦を練っていたようだ。うちと全く同じ作戦である。実は、光探知で食堂に覚醒者らしき反応があったので大体予想は付いていた。



「よし、じゃあ最後にド派手に決めるか」


現在港の横にいるので、俺の前には戦艦が縦にズラッと並んでいる。


俺は星斬りを持ち、居合斬りの構えをする。全身から溢れる闘気を抑え、星斬りから流れてくる水のような静かな魔力に共鳴させるよう身体中を落ち着かせる。


そう。この魔力である。あの時と全く一緒。


勝負は一瞬。その時を逃してはいけない。


五感と集中力を高め、時を待つ。



「...」



今だ



俺は星斬りを抜刀し、目の前に存在する全ての物体、魔力、空間を斬る。



その技の名は



【次元斬り】



遅れて数秒後、全ての戦艦が海面ごと横にズレた。


俺はすぐに光速思考、光探知を起動し、覚醒者が水面に上がってくる前に魔法を放つ


「ロンギヌスの槍、四重展開」


四つの閃光が水中のターゲットに直撃し


「よし、全員始末できたな」


あとは陸にいる数十名を斬り、海面に浮上してくる海兵に斬撃を放つだけ。



数分後、そこにアルテ以外の生命反応は無かった。


「任務完了」


俺は戦艦が沈み、建物も半壊した廃墟同然の海軍基地を一瞥して最終確認をした後、踵を返し暗闇の中へ溶け込んだ。



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首都に帰っている休憩中、暇すぎて重要書類を眺めていた。


「よし。三年後に総力戦を仕掛けるという予定は変わっていないな」


首都の会議でも同じ情報が伝えられた。でももしニセの情報を掴まされていて、実は一年後に仕掛けます、という事態に陥ったら最悪なので、ここで情報の裏を取れたのがデカい。


「ふむふむ。≪変質≫魔法で巨大戦艦の表面をミスリルに変質させ、無敵の戦艦にするつもりだったのか。それに〈風〉魔法で爆発的な推進力を持たせると。ん?絶級以上の魔法を撃てる魔法師もいるのか。超級以上を使える魔法師もチラホラといるし」


「だがやはり本命は長距離型の魔法師みたいだな。≪鉄≫持ち、≪狙撃≫持ちに≪闇≫持ち?」


初見の魔法が沢山あって少し混乱したが、おそらく全て遠距離型だろう。


「やっぱりいたんだな。俺の対極である闇持ちが」


もうこの世にいないが。


「鉄魔法は遠くから鉄を飛ばすんだろうが、狙撃って何飛ばすんだ?もしかして魔導大砲絶対当てるマンか?」


一応無属性魔法に【魔弾】という魔力を飛ばす魔法があるのだが、遠くからこんなのチマチマ撃っても意味はないので、魔導大砲を扱うのだろう。でもうちには≪反射≫持ちがいるので、何をしても結果は変わらない。




そして





「ルーカスが≪狙撃≫持ちだったら、授業中に鼻クソとか飛ばしてきそうだな」



親友の顔を思い浮かべ



「うん。アイツなら絶対にやる」




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