第28話:Aランク冒険者【カレン】
あれから三日後、特に騒ぎにもならず光探知でも覚醒者の反応が無かったので、そろそろ移動することにした。
やはり覚醒者は全員あのダンジョンの中に集まっていたらしい。もしかしたら近いうちに再び襲撃をかけようと考えていたのかもしれない。
俺はこの三日でリングストンにいる帝都軍の諜報部と合流して、今後の予定を決めていた。どうやって合流したのかというと、俺が都市内をブラブラしていたら、俺を見たことがある諜報部の連中に声を掛けられたのだ。しかも少し怒られた。
「アルテ様、一応連邦の諜報部にも貴方の情報が出回っているので、都市内をブラつくのはやめてください。普通にバレます」
という、ぐうの音も出ない正論を言われてしまった。
ちなみに今後の予定は、ここから一か月連邦の首都【レクセンブルグ】まで向かう商人の護衛依頼を受けるという結論に至った。初めは早く到着することに焦点を置いて議論していたのだが、【カーター】の伯爵邸と諜報部を襲撃している時点で警戒はされているのでは、という話になったのである。
そのため冒険者ユートとして現地の情報を集めつつ、一か月掛けてあえてゆっくりと向かうことにしたのだ。
てなわけで俺は今冒険者ユートとして冒険者ギルドのリングストン支部にいる。
「おいそこのお前!ちょっと待ちな!」
と念願のテンプレ展開を迎えていたのだが、今は目立ちたくないので普通にやめてほしい。そこで俺はごく僅かな魔力を使い、下衆な笑みを浮かべているおっさんの足の親指に向かってミニ光の矢を放った。
「痛っ!なんか踏んだのか?クソっ、また今度にしてやるよ!」
すると、いかにも小物っぽいセリフを吐いてギルドを出ていった。
「なんだったんだアイツ...」
俺は呆れながらクエストボードを見に行き、ちょうど良さげな護衛依頼があったので受付で受理してもらった。
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依頼の日、俺は朝からリングストンの門の近くへ来ていた。
「そこの冒険者の方!ユートさんで間違いありませんか?」
「そうだが。あんたが依頼主か?」
「そうです。私が【マティス】です」
「そうか。これから一ヶ月よろしく頼む」
「ええ、よろしくお願いします」
挨拶の後、二人でマティス商会の馬車の横で
「立派な馬車だな」
「これでも割と稼がせて貰ってるんです。まぁ御者は私がやってるんですけどね」
「別にいいと思うぞ。あと依頼だともう一人冒険者が護衛につくんだろ?まだ来てないのか?」
「そろそろ来ると思いますよ」
それから暫く世間話を楽しんでいると
「遅れてすまない。私がAランク冒険者の【カレン】だ。マティス商会の依頼を受けてきたのだが」
「ええ、私が依頼主のマティスです。詳しい自己紹介は移動しながらにしましょう」
マティスが馬車を移動し始めたので、俺とカレンは馬車に乗り込んだ。このカレンといういかにも剣士のような風貌をしている冒険者は、見た目がとても若いのにAランクらしい。一見青髪で清楚な印象を受けるが、身体中から只者ではない雰囲気を出しており、目つきも鋭い。
「俺はCランク冒険者のユートだ。一か月よろしく頼む」
「Cランク冒険者か。フンっ、精々足を引っ張るなよ」
性格は全然清楚じゃ無かった。
依頼内容では三食はマティスが負担してくれるので、不自由なく過ごせる。
そして魔物や盗賊の襲撃がないまま三日が経ち、俺たちは一言も交わすことなく馬車に揺られていた。なぜかカレンはずっと不機嫌そうにしていたが、さすがに暇すぎるので
「なぁ、なんでこの依頼を受けたんだ?」
「私に話しかけるな」
「そうか」
「...」
しかしカレンは嫌々口を開き
「師匠が急に消えたから一人で首都まで帰るところだ」
「師匠って、剣の?」
「...そうだ」
「ここ三日、夜の見張り番の時に剣を振っていたのを見かけたのだが、もしかして真閃流ってやつか?」
「貴様なぜ知っている!」
「そりゃ連邦で【剣仙ローガン】は有名だからな、落ち着け」
「それもそうだな」
あの後諜報部に聞いたのだが、連邦でローガンは超有名人で一度は名前を聞くらしい。もちろんそのローガンが修める真閃流というのも有名で、剣士を目指す者にとっての憧れなのだそう。確かにあれはヤバかった。
ローガンの元で学んでいたであろうこのカレンもまだ若いからAランクなのであって、すぐにSランクに上がりそうである。それにしても気の毒になってきたな。
「でも師匠が弟子を置いて消えるなんて、そんなことあるのか?」
「それがわからないから首都の道場に向かっているのだ!」
「無粋なのはわかっているんだが、詳しい話を聞かせてもらっていいか?」
「チッ。まぁいいだろう」
カレン曰く、ある日道場に連邦軍の使いがやってきて依頼をされたらしい。他言無用とのことで道場の皆に内容は教えられなかったそうだ。何か嫌な予感がしたので皆で止めたらしいが、ローガンはなぜか依頼を受けてしまったので無理矢理カレンがリングストンまで随伴したらしい。
リングストンに到着した日の夜、ローガンはカレンに「すぐ戻る」といって軍の奴らとどこかへ行ってしまった。その後五日間待ち続け、その間に軍の基地にも訪れてみたのだが何も教えてくれなかったので、諦めて道場に向かっているらしい。そこに師匠がいると信じ続けて。
「なるほどな。道場にいるといいな、師匠が」
「フンっ」
「カレンはなんの依頼だったと思う?」
「お前割と図々しいな...」
「そういう性分でな」
「どうせ戦争関連だろう。師匠はずっと反対していたのだがな...」
「そうか」
そこで会話を打ち切り、今までの生活に戻った。
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カレンとは最低限の会話だけをして一か月が経ち、ついにアルメリア連邦首都【レクセンブルク】へ到着した。ちなみに俺はマティスとはよく世間話をしていた。
「一か月間、ありがとうございました。これが報酬です。ギルドには依頼完了の申請をしておきますね」
「こちらこそ世話になった。また機会があればよろしく頼む」
「飯も美味かったし私も満足だ。ではな」
カレンが道場に足早に向かったので、俺たちもすぐに解散した。そして俺は光学迷彩を起動してカレンを追跡した。
彼女が道場に戻ってもローガンはいない。俺が殺したからだ。もしカレンの怒りの矛先が連邦軍ではなく、戦争の原因であるカナン大帝国に向かうのであれば、始末しなければならない。カレンの実力は確実にSランク以上はあるからだ。
俺も道場に忍び込み、聞き耳を立てる。するとどうやらカレンはこの後リングストンに引き返し、師匠が不在ならそのまま師匠探しの旅に出るようだ。しかもローガンが戦争に反対していたので、道場の者は全員不参加らしい。いい判断である。
そもそもなぜローガンが依頼を受けたのか謎だが、今思えば何か考えがあったのだろう。
宿屋に向かいながら呟く
「あの爺さんは一体何を企んでいたんだ?」
「カレンには悪いことをしたが、これも帝国にいる皆のためだ」
俺は家族や友人、知人達の顔を思い浮かべる。
「よし、もう一仕事頑張るか」
そう。ここはすでに戦争強硬派の本拠地なのである。
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その日の夕方、俺はレクセンブルクの外れにある魔導具屋に来ていた。
「いらっしゃいお客さん。何かお探しの物でも?」
「龍が天に昇る時、世界は終焉を迎える」
「こちらへどうぞ」
「ああ」
奥の扉に案内され、地下へ繋がる階段を下る。すると迷路状に入り組んだ通路に出たので、案内の背中に付いていきながら道順を覚える。暫く進み、行きついた場所にあるドアを開けると、そこには諜報部の大規模な基地があり、沢山の人達が忙しなく動き回っていた。
「アルテ様、お待ちしておりました」
「マルコじゃないか。どうしてここに?」
「ここは帝都とアインズベルク侯爵家、ランパード公爵家の諜報部の合同基地ですので」
「そうだったのか。でもそんなに仲良くできるもんか?」
「ええ。優秀な人材を集めていますので」
「そうか」
連邦の諜報部は強硬派、穏健派、その他の三つに分かれている。それに比べて帝国では主要な諜報部が合同で動いている。簡単に言えば連邦はバラバラで帝国は一枚岩なのである。
これに関しては連邦が普通なのであって、帝国がおかしい。長年共に戦っているアインズベルクとランパード、そして両者が忠誠を誓っている皇族の三つの結びつきがこんなところで発揮されるとは思わなかった。
「やっぱいいな。カナンは」
「まったくその通りですな」
「ところで、あの厨二臭い合言葉は誰が考えたんだ?」
「合言葉は定期的に変わりますが、今回はたしか御当主様ですね」
「あのクソジジイ...」
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