第27話:剣の頂

現在、俺はチェスター男爵領の外れにある都市【リングストン】が見える地点まで進んでいた。【ルゼの森】では対の魔法陣が手に入ったので非常に気分が良い。


「ここまで来ると冒険者に出くわすかもしれないから慎重に進もう」


そう呟きながら着実に歩を進め、遂に目的地に到着


「ここがリングストンか。大分田舎臭い場所にあるが、防壁も高いし都市自体も広い」


現在ルゼの森にある巨木の上から都市全体を見渡している


「都市の真ん中にある鐘塔が狙い目だな」


≪光≫魔法の真骨頂は遠距離からの「光の矢」による狙撃だったりするので、都市全体が見渡せる高さの棟があって好都合である。普段は戦いがつまらなくなるのであまり使わないが


その後、防壁を飛び越えて宿屋へ向かった



「よし、とりあえずシャワーでも浴びるか」


ワシワシと髪を洗いながら、今回の作戦をおさらいする

 リングストンでの最重要任務は飛竜部隊の殲滅である。覚醒者は以前説明した通り、割と非戦闘向きの奴が多い。戦闘向きな魔法で、尚且つ本人が使いこなせるレベルにまで達している覚醒者ともなればもっと数が絞られる。


カナンにも覚醒者は沢山いるが、冒険者という括りだけで見ると俺とエリザを抜けば、最高ランクはAだ。このように、下手な覚醒者よりも属性魔法や無属性魔法、剣術などを極めている奴の方が強かったりするのである。


そのため、余程強力な覚醒者でなければ人数ゴリ押しで勝てる。

 しかし、飛竜部隊はそうもいかない。そもそも魔法が届かないのだ。高位の魔法師達が上空から上級以上の魔法を撃ち続け、魔力が切れたらゆっくりと魔力回復薬を飲み、再び撃ってくる。もしそこに覚醒者が混ざっていたらさらにマズいことになる。


「まぁ俺かエリザがその場にいれば話は別なんだが、カナンは広いしな」


てなわけで、まずは飛竜部隊をどうにかしなければいけない。諜報部からの情報では、この都市内に飛竜部隊の基地はないらしい。場所までは分かっていないが、おそらく近郊の森の中にある可能性が高いという話だ。


「俺の存在がバレたら飛竜部隊がどこかに飛んで逃げてしまうから慎重に動こう」




急に話が変わるが、俺が良く使っている≪光≫魔法の中に光学レンズや赤外線を応用したものがある。【ルゼの森】の中を移動中、暇すぎてそれらの魔法の名前を考えてみた。


光学レンズを応用した魔法を【拡大鏡】


赤外線カメラを応用した魔法を【暗視】


赤外線トラップを応用した罠魔法の名前は変わらず【赤外線トラップ】


新しい魔法はこれ以外も沢山開発してあるので楽しみにしていてほしい。そのうち使うかもしれない。



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 その夜、俺は宿屋を出て例の鐘塔の天辺からリングストンを見下ろしていた。


「いくら飛竜部隊を隠したくても、結局エサのために大量の食糧を運ばなければいけない。問題はその運搬方法なのだが...」


普通に運んでいれば、うちの諜報部がそれを発見して飛竜部隊の基地まで辿り着いているはず。でも現状は何もわかっていない。


「転移の魔法陣で運んでいるなら俺の光探知で発見できるんだよな、ルゼの森の時みたいに。でもそうでないのであれば地下通路だろうな」


そのまま数時間待っていると、ルゼの森とは反対側にある森へ向かっていくつかの魔力が動き始めた。


「予想通り地下通路を経由しているようだな」


拡大鏡と暗視を駆使して魔力反応のある地上部分を見ても、人間や魔物はいなかったので、地下通路を歩いているのだろう。


俺は追跡を開始し、五キロほど地上を進む


「よくこんなに掘ったもんだな。優秀な〈土〉の魔法師を何人も雇ったのか?」


すると


そいつらがやっと地上に出てきて、大量のマジックバックを持ったまま巨大な岩と岩の隙間に入っていった。目算、普通の洞窟くらいの大きさはある。

そして俺はこの魔力をよく覚えている。


数十分後に俺も入り


「これは...壮観だな」


中では大空に浮かぶ太陽が、大草原を照らしていた。


「まさかダンジョンの中に飛竜部隊を隠していたとは...」


そう。ダンジョンにはこういう使い方もあるのだ。


 拡大鏡で辺りを見渡すと、遠くにある山の麓にいくつかの建物を発見した。よく見ればその上空をワイバーンが飛んでおり、その足で猪型のモンスターを掴んでいた。ダンジョンの中に発生する魔物をある程度餌にできているのだろう。


「さすがにダンジョンの中に隠されたら諜報部も発見できんな」


俺は光探知を最大限に起動する。少し前と違って、相当特訓し練度を上げたので、覚醒者が相手でも気づかれないし、範囲も広がっている。


「情報通り、覚醒者が五人くらい紛れ込んでいるな」


リングストンでは魔力を探知できなかったので、たまたまここに全員集まっているのかもしれない。


「普通の人間が約百人、覚醒者が五人、ワイバーンが五十体か。普通の人間とワイバーンはどうとでもなるから、まずバレる前に覚醒者を一人暗殺するか。その後に広域魔法を使おう」


広域魔法を使っても覚醒者を全員始末できるかわからないので、まずは確実に一人暗殺する方針にした。


俺は光学迷彩を起動したまま魔力を限界まで抑え込み、隠密モードで建物に近づく。建物は全部で四棟。ワイバーン用の巨大な厩舎が一棟で他の三棟は人間の住居用だ。


一番手前の建物に覚醒者が一人いるので、空いている窓から侵入する。二階の外れの部屋で魔法師達が議論をしていた。覚醒者は青いローブを着た魔女で、一番奥の椅子に座っている。何を議論しているのか気になったので盗聴していると


「やっぱり私は魔法師だけでいいと思うわ。騎士なんて足手まといよ」


「しかし帝都の結界は魔法を通しませんので、ワイバーンから強力な騎士を投下するのが得策かと思われます」


「私は絶級の魔法だって使えるのよ?そんな結界なんて壊せるわよ」


「ですが...」


「なによ!どうせあんた達はあの覚醒者のジジイを持ち上げたいだけでしょうが!」


「ち、違いますよ。確かに【ローガン】師の剣の腕前は凄いですが...」



ここで俺は【星斬り】を持ち、居合斬りの構えをする。


集中力を高めるために目を瞑り、意識を闇の中へ落とす。


考えるのは目の前の部屋を覚醒者ごと斬るということだけ。


しばらくすると、自然と周りの空気が振動し始める。


そして俺は星斬りから莫大な魔力が溢れ出しそうなのを感じ


刹那


一気に抜刀し、輪を描くような太刀筋で横一閃。


その斬撃は一瞬で奥の山を切断し、彼方へ消える。


一秒後、中にいた奴らは


「え?」


という言葉を放ち、半分に崩れ落ちる。


その技の名は



 【三日月】



莫大な魔力が星斬りから溢れているので、俺も惜しまずに魔力を放出。


光速思考を起動後、すぐに魔力を上空へ放ち



【破滅の光雨(こうう)】



一瞬で空から光が降り注ぎ、滅びを齎す。その光は建物ごと人間とワイバーンを貫き、後に残ったのはそれらの死体と半壊した建物、それと一人の老人。やはり覚醒者を始末しきれなかった。


「お主、最近噂の『閃光』じゃな?」


「爺さんこそ最近噂の【ローガン】だな?」


「ふぉっふぉっふぉ。いかにも儂がローガンじゃよ」


「やはりそうだったか。ちなみにどうやってあれを避けたんだ?」


「言うわけなかろうに」


爺さんが言葉を発し終えた瞬間、俺は「光の矢」を放ったが避けられる。しかしわかったことが一つある。爺さんは俺が魔力を練る前に横に移動していた。ということは


「爺さんの固有魔法って≪未来予知≫だろ?」


「お主、頭も相当切れるんじゃな」


「そうだな」


「そんなお主に提案なんじゃが、剣で決着をつけぬか?」


「奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」


「じゃあ身体強化だけというルールでどうじゃ?」


「乗った」



俺とローガンは草原の開けた場所へ向かう。ぶっちゃけ魔法で本気を出せば殺せるのだが、こいつと剣を交わらせることで、剣術において俺は次のステージに行ける気がするのだ。


互いに見合い、身体強化を起動する


「身体強化の練度は同じくらいだから、勝負は剣術の練度で決まるな」


「そうじゃな。久々に血が滾るわい」


闘気を全身から溢れ出し、始まりの時を待つ

風がピタリと止み、さっきまで雲に隠れていた太陽が俺たちを照らす。


その瞬間


二人は音速を超えるスピードで同時に突っ込み、剣を合わせる。


キィィィィンッ


辺りに音が響き渡り、火花が散る。


「お主、いい剣を使っているな!」


「てめぇもだジジイ!」


タイミングを合わせて後退し、俺は「攻めの剣」で猛攻をしかける

右上からの袈裟斬り、次に左下からの切り上げ、真っ向斬りからの横一閃と見せかけて、一歩下がって刺突。時にはフェイントを挟みながら不規則な型で攻め立てる。


しかし、爺さんは冷静にすべてを防ぎきる。それは「鬼神」と呼ばれる親父を軽く凌ぐほどの圧倒的護りの剣。


これだけで爺さんが剣士として一つ一つ努力を積み上げてきたことがわかる。


経験、努力、センス。これを持ち合わせた者の中でもほんの一握りしか到達できない剣の頂にこの爺さんは立っている。


やがて俺の猛攻に綻びが出始め


「くっ!」


手痛いカウンターをくらい、完璧な太刀筋で左腕と左胸付近を切り付けられた。

少し距離を取り


「あんた何者だよ」


「それはこっちのセリフじゃ」


どうやら爺さんも結構キてるみたいで安心した。


「はぁ」


俺は溜息をつきながら、今まで大事に着ていた外套を脱いで放り投げる。


「おや、それだと防御力が落ちるのではないか?」


「うっさいぞジジイ。どうせ何を着てても今みたいに、防具ごと叩き斬るだろあんた」


「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃな」


そのまま第二ラウンドに突入し、今度俺は「柔の剣」で対抗する。


結果、爺さんの攻めは護りよりもヤバい。基本の型で攻めてくるが速さと威力が今までの敵と段違いである。しかしフェイントなどの小細工をしないで真っ当な勝負を仕掛けてくる。


俺に傷が増えていくが、瞬く間に一閃、次の一閃と鋭い太刀筋で攻撃される。


まるで剣と人間が一体化した怪物を相手にしているような錯覚をしてしまう。


だが俺は負けない。俺もその怪物に並んで立つため、星斬りと一体化して手首を柔らかく使い、息をする様に剣を受け流す。


暫く剣戟は拮抗し、爺さんにも焦りが出始めた


狙い目は上からの振り下ろし。星斬りを横に構え、受け流すのではなく受け止める。そして空いた相手の腹を蹴り飛ばす。


「がはぁっ!」


爺さんは口から血を吐きながら転がる。


「お主、足癖が相当悪いのう」


「がら空きだったもんでな」


両者、このままでは埒が明かないことに気付き


「次の一刀で決めんか?」


「そうだな」



お互い見合い、全てをこの一撃に込めるために集中する。


爺さんは上段構えで俺は居合斬りの構え。


目を細めて五感を高める。音や空気の振動まで手に取るように把握できる。


また星斬りから水のような静かな魔力が溢れ出すのを感じる。今までと明らかに世界の見え方も違う。



そして二人は同時に跳び出し、俺はその技を呟く




【次元斬り】




すると相手も




【真閃流奥義・彗星斬り】




互いの剣が合わさり、次の瞬間、星斬りが相手を剣ごと断ち斬る。


魔法は使っていないが、星斬りはこの次元ごと全てを斬ったのだ。



「ハァ...どうにか勝てたな...」


「今の一閃でダンジョンを斬ってしまったから、崩壊が始まっている。休んでいる場合じゃないな。今すぐ離脱しなければ」


俺は光鎧を起動し、すぐさまダンジョンの入り口から出る。その数秒後、ダンジョンは崩壊し、巨大な岩も崩れ落ちた。


「ふぅ。間一髪だったな。少し余韻に浸ってからリングストンに帰るか」


綺麗な夜空を見上げながら考える。


俺と星斬りはこの戦いでまた一歩進化できた。最近は魔法の調子も良いので、このペースで任務を達成できればと思う。


「あの爺さん、俺に斬られる寸前幸せそうに笑ってたな...」


ゆっくりと歩きながら森に戻る。そのまま振り返らずに





「ありがとな、ローガン」




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