【閑話】

第24話:レイの思い人

私の名前は【レイ・フォン・アインズベルク】。アインズベルク侯爵家の長女よ。

 

 現在私は十三歳で、二年後に控える帝立魔法騎士学園の入学試験のために日々魔法の鍛錬と勉学に励んでいるわ。

 十歳の時の選定の儀で全属性の適性があるとわかった時から、お父様が他貴族に自慢しまくるもんだから正直プレッシャーが凄い。しかし、元帝都軍魔法師団で大尉を務めていた母から毎日教えて貰えるし、白龍魔法師団の訓練にも混ぜてもらえるので、日々上達している。


 次は兄たちについて説明させてもらうわ。まずは長男のロイド兄様から。彼は魔法と剣術が両方不得意なのだけれど、器がアホみたいに大きくて優しいの。だから昔からロイドお兄様の周りには人が集まるのよ。ロイド兄様は家族により一層優しいから、私も大好き。


 それに学者も舌を巻くほど頭脳明晰だから、三年間ずっと学園のSS-1クラスにいて、今年は生徒会長を務めているって聞いたわ。ロイド兄様がアインズベルク侯爵家を継ぐなら安泰ね。ランパート公爵家の三女であるソフィア様とも婚約しているし。



 そして最後はアル兄様ね。彼は固有魔法≪光≫に覚醒していて、剣術の方も特殊らしいの。これは有名な話なのだけれど、固有魔法は魔法書が存在しないから、自分で研究して魔法を生み出すしかない。

 それはとても難しくて魔法は、それを理解し概念を把握できないと魔力効率は落ちるし、そもそも発動できないパターンが多いのよ。


 例えば「火は物質を急激に酸化させている」ということを理解できている状態じゃないと〈火〉魔法は使い物にならない、とかね。


 この世界で≪光≫魔法を使いこなせる人なんて絶対アル兄様しかいないわ。あと彼はそれに合わせた剣術を駆使していて、近距離もいけるらしいの。この前アル兄様に【星斬り】を見せてもらった時に腰を抜かしたわ。なぜか知らないけどあの不思議な形の剣から魔力が噴出していたの。

 あれって「昔話に出てくる魔剣では?」と思ったのだけど見なかったことにしたのは秘密。


 それと三年前にお兄様がSランクの魔物を討伐した時に可愛い仔馬を拾ってきたの。話を聞くとBランクのバイコーンだったらしいのだけど、もう家族になったんだからそんなの関係ないわ。いつのまにかSランクのスレイプニルに進化していたけれど、まぁ可愛いから特に変わらないわね。エクスは鬣も収穫させてくれるし。


 ちょうど昨日アル兄様が学園から帰ってきたわ。嬉しくて思わず私は飛びついてしまったけれど、お兄様は優しくキャッチしてくれた。その後夕食でSSランク冒険者に上がった原因である帝都での襲撃事件の話を聞いたけれど、やっぱりここからも見えたあの魔法はアル兄様のものだったみたい。


 その時に学園の話も少し聞いたの。アル兄様は昔から一人で、全然笑わないからボッチだろうと思ってたけれど、案の定ボッチだったわ。本人は特待生で授業に出てないからだと言い訳してたけど、ロイド兄様の婚約者を抜いたら、新しい友達は実質二人しかできてないらしいの。なんか可哀そうになってきたわ。


 でもそれでいいの。アル兄様が家族だけに見せるあの優しさを他の女に知られてしまったら、薄汚い女狐たちが速攻で群がってしまうから。



本題はここからね。この事を知っているのは恐らく両親とケイル、それと古参の使用人と私だけでしょうね。


結論から言わせてもらうと、アル兄様は私たちと血が繋がっていない。


ずっとおかしいと思ってたのよ。お父様は二十五歳の時にアルメリア連邦との戦争で「鬼神」の異名が付くほど活躍したのだけれど、現在両親が四十歳でアル兄様が十五歳ってことは、戦争中に産まれたってことになるでしょ?

 お父様はロイド兄様が産まれてから三年ほど戦争に参加してたみたいだし、両親は戦争中に子供を作るなんてこと絶対にしないわ。そんなに甘くないもの。


私が九歳の頃の夜、お花を摘みに行ったときにたまたま両親がその話をしているのを聞いてしまったの。


詳しくは聞けなかったけど予想では戦争中、当時軍人だったケイルがどこからかアル兄様を拾ってきてそのまま二人ともうちで預かることになったのだと思う。アル兄様はうちの両親と同じ黒髪だったっていうのもあるでしょうけど。


そして養子として育てたら、天才で覚醒者で身体能力が高く、イケメンで優しいというSSSランクの子供だったわけね。ちなみに身長も高いわ。


これを知った時ほど両親と神に感謝したことはない。


実は私、小さい頃からずっとアル兄様が好きだったの。家族としてじゃなくて異性としてね。ロイド兄様と違ってアル兄様はお茶会も開かずにずっと独りぼっちだったの。だからなのかしらね、妹の私に注ぐ愛が半端じゃなかったのよ。

 アル兄様は小さい頃から何故か大人っぽいし、私の我儘をなんでも聞いてくれるし、完璧超人だから何でもできるし。


それに何といっても偶に見せるあの笑顔がヤバい。ロイド兄様はいつもニコニコしていて、それも大好きなのだけれど、いつも冷徹な表情を崩さず全く笑わないアル兄様の超激レアな笑顔はマジでヤバいわ。



でも天才のアル兄様なら、時系列的に自分がその時アインズベルク侯爵家に産まれたのがおかしいってことくらいわかっているはず。それでもアインズベルク侯爵家の次男として大陸中に名を轟かせた兄様はとても立派で尊敬できるわ。


たぶん彼は自分が養子なのを知っているけど、私たち家族のことを考えて、わざと知らないフリをしてくれているの。


だからもし夕食の時にお父様が


「実はアルは養子なんだ、今まで黙っていてすまなかった」


と打ち明けても、アル兄様はきっと


「そうか」


とだけ言って次の日以降も何も無かったことにして過ごすだろう。


私はそんなアル兄様を心から愛しているわ。


これまでも、これからも、ずっと。



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 バルクッドに到着した次の日の朝、俺はエクスにブラッシングしていた。


「アル兄様!おはようございます!」


「おはよう、レイ」


「今日のご予定は?」


「数日後にはアルメリア連邦に向けて立つから、あちらで過ごすための備品を整えるために商店に行った後、ドワーフのおっちゃんに【星斬り】のメンテナンスをしてもらう予定だな」


「じゃあ明日、もし暇な時間があったら魔法を教えて!」


「いいぞ」


「やったー!」


といってレイは俺にギュッと抱き着いた後に、屋敷の方に走って行った。


「なんだ、天使か」


本当は明日も忙しいのだが、レイのためなら仕方がないな。

あと何度も言うが、俺はシスコンではない(たぶん)


その後、俺はアインズベルク侯爵軍諜報部の建物へ行った。


「アルテ様ではございませんか。本日はどのようなご用事で?」


「親父からある程度俺の事を聞いていると思うが、アルメリアの情報を全部教えてほしい。特に覚醒者と軍事基地の場所を」


「承知いたしました。おい!お前ら資料を全部持ってこい!」


「すまんな急に」


「いえいえ、アルテ様の為でしたらこのぐらいお安い御用ですよ」


「感謝する。それでアルメリア連邦の内情は今どんな感じなんだ?」


「襲撃のために送り出した飛竜部隊と覚醒者がアルテ様に消失させられましたからね。それで結構な打撃を受けたようで、暫くは身動きが取れないみたいです」


「そうか。それで個人的に気になることがあるのだが、アルメリア連邦は全員が亜人嫌いなのか?」


「そんなことはないと思いますよ。でも強硬派は亜人嫌いの集まりなので、それが主流となった今、亜人を擁護するようなことは言えない雰囲気ですね。それと色々な組織の上層部は亜人嫌いが多いです、なぜかはわかりませんが」


「なるほど。でもやることは変わらんがな」


「そうですな。変に容赦をすれば、余計ないざこざが生まれますし」


「そうだな」


「失礼します!連邦の資料をすべて持ってきました!!」


と部下が入室してきたので、商店に行く前に少しだけ情報収集をすることにした


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商店とドワーフのおっちゃんのところに行った後、時間が余ったので侯爵軍白龍魔法師団の訓練場に来ていた。


「これはこれはアルテ様ではないですか」


「久しぶりだな。フローレンス」


「お久しぶりですね。見ないうちにSSランクまで上がったと聞きました。ここから確認できたあの魔法はやはりアルテ様が?」


「そうだな」


「また今度話を聞かせてくださいね。それで本日はどのようなご用事で?」


「転移の魔法陣の解析が進んだか気になってな」


「ああー、その件ですか。太古の文字が使用されているダンジョンの魔法陣とは違って現代文字が使われていますので、少しはマシですが...」


「進んでいないんだな」


「そうですね。申し訳ないことに...」


「俺も魔法陣の難しさは理解しているからな。しょうがないと思うぞ。もしかしたら解析できるかもと思ってお土産がてら持って帰ってきただけだしな。気にするな」


「すいません。進捗があったらご報告させていただきますね」


「ああ。それと最近はレイの面倒を見てくれているらしいな」


「レイ様は天才ですよ!いずれはこの私を超える魔法師になると断言できます!」


「『煉獄の魔女』と呼ばれる団長にそう言われるとは、我が妹として誇らしいな」


「最近はアルテ様も『終焉の魔術師』って言われてますよ」


「恥ずかしいからやめてくれ」


「そうですね。うふふ」



やはり転移の魔法陣の解析は進んでいないようだな。まぁこれだけ難しいことだからこそ、各国が軍事利用まで辿り着けないのだが。



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