第23話:連邦潜入作戦
「やっぱりな」
「ブルルル」
現在俺とエクスは旧【カイルの森】から十キロほど奥にある山の洞窟の中にいる。
先日、学園の野外演習の時にアルメリア連邦の飛竜部隊が襲撃してきた。念のため俺は、アデルハイドの冒険者ギルド本部に「帝国中のギルドの目撃情報の確認をしてほしい」と頼んだのだが、一つもなかったのである。
帝都はカナン大帝国のド真ん中よりやや西にズレた場所にあるので、飛竜部隊で襲撃する前に沢山の都市やその近辺を通過しなくてはならないのだ。ワイバーンの群れが飛んでいたら遠くからも見えるので目撃情報が一つもないのはおかしい。
そこで俺は、長距離移動系の覚醒者の仕業ではないかという結論に至ったわけである。
例えば≪転移≫とか。転移はこの世の理を歪めるタイプの魔法なので、飛竜部隊すべてを転移させるのは不可能だ。しかし、固有魔法≪転移≫の覚醒者なら転移魔法陣を描いて負担を減らした状態で魔法を使えばそれが可能かもしれない。
「一度一人でここに転移してきて、カナン側にも魔法陣を描いたんだろうな」
「ブルル」
「それでアルメリア側に戻ってからあっちにある魔法陣に全員で乗り、ここに転移してきたわけか」
「ブルルル」
「何かの参考になるかもしれないから魔法陣を紙に写してから消そう」
あの時飛竜部隊に紛れ込んでいたやつが転移の覚醒者だったかはわからないので、再利用される前に消しておくのが最善である。
「ギルドと帝都軍に報告だなこりゃ」
「ブルル」
「帰ろう」
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一時間後、帝都冒険者ギルド本部の本部長の【オーウェン】に報告していた
「ということだな」
「なるほど、もしかしたらその魔法陣を再利用されるかもしれなかったわけか」
「ああ」
「すまんな。【カイルの森】跡地の処理に追われて、そこまで頭が回っていなかった」
「考えてみればシンプルなことだが、だからこそ気づけない時もある」
「気遣い痛み入る」
「てなわけで、件の魔法陣の写しを一枚渡しておく」
「いいのか?それは普通帝都軍にしか渡してはいけないだろうに」
「俺は帝都軍の上層部より、オーウェンを信用しているからな」
「それは嬉しいが、なんでだ?」
「気に障ったら悪いが、オーウェンたちは亜人だからだ」
「あぁ、そういうことか」
「ああ」
帝都冒険者ギルド本部の上層部は亜人が多いのだ。これは人間より亜人の方が長寿な傾向にあることが関係している。
そしてアルメリア連邦は「大の亜人嫌い」である。今回の戦争も、遥か昔にアルメリア連邦で迫害されていた亜人族を、我がカナン大帝国が受け入れたことを逆恨みしているのが原因だ。
ここでオーウェンが
「帝都軍の上層部に紛れ込んでいたネズミ共は、尋問で情報を吐き出した後に全員処刑されたらしいぞ」
「だろうな。でも上層部だけに紛れているわけじゃないからな」
「確かにな。帝都軍は二十万人いるし、全部炙り出せるわけじゃない」
「でも連邦軍にもうちの奴らが沢山紛れ込んでるからな。おあいこだ」
「そうだな!はっはっは!」
「それと今回のご褒美で学園長に全部の単位が貰えたから、暫く地元に帰ろうと思っている」
「そうか。寂しくなるな」
「ということで、偽装用の冒険者タグをくれ」
「え?なんでだ?」
「アルメリア連邦に潜入して少し探ってくる。ついでに覚醒者を何人か始末してくる」
「なんか...お前って結構無茶苦茶なんだな」
「先に手を出してきたのは連邦だからな。文句は言わせん」
「よし、すぐに手配しよう」
「頼んだぞ」
アルメリア連邦にある冒険者ギルド本部とこの本部は非常に仲が悪い。あちらの上層部は亜人嫌いの人間が多いからだ。さすがに敵国側の冒険者の情報を流すようなタブーは行わないらしいが、冒険者タグの偽装はしてくれるらしい。よくわからんジジイである。
「冒険者タグの偽装はしてくれるんだな」
「『閃光』の頼みだからだ。それに」
「それに?」
「国の戦争ってのは、ある意味互いのギルドの威信を賭けた戦いなんだよ」
「冒険者は自由参加だが、戦争になったら基本全員参加するもんな」
「ああ。自分の国が攻められるってことは、自分の大切なものを傷つけられるってことだからな」
「やっぱりいいな。冒険者ってのは」
「だろ?」
「おう」
世間での冒険者は、酒場にいる酔っ払いのイメージしかないが、割とリスペクトされている。それは普段チャランポランだが、戦争や高ランクモンスターの襲撃、ダンジョンの氾濫が起こった時に誰よりも先陣を切って戦ってくれるからである。要するに冒険者とはギャップ萌えの職業なのだ。(たぶん)
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帝立魔法騎士学園SS-1クラスの教室にて
「おい、エドワード。こっちにこい。話がある」
「え?今授業中だよ?」
「そういうレベルの話じゃない」
「ああ、なるほどね」
俺とエドワードで担当の教師の顔を見ると、あちらも察してくれたようで、何もなかったかのように授業を再開してくれた。ナイスである。
「というわけだ」
「アルテがいなかったら、近いうちに再襲撃があったかもしれないんだね」
「ああ。それと俺は今回の件で全ての単位が貰えたから、暫く帰省する」
「そうなんだ。でもどうせ何か企んでるんでしょ?」
「察しが良いな。アルメリア連邦に潜入して探ってくる。ついでに覚醒者も何人か始末してくる」
「ついでにって...というかうちの諜報員も沢山紛れ込んでるから心配いらないよ?」
「でも、今回の襲撃が起きただろう?」
「むぅ。痛いところを付かないでよ」
「それに俺は隠密も得意なんだ。トラップも仕掛けられるし、夜目も利く」
といいながら俺は一瞬だけ光学迷彩を起動して魔力も遮断し、完全に気配を消す。
「なんかSSランク冒険者って凄いんだね」
「そうだな。これを渡しておくから皇族と軍の上層部にも届けてくれ」
「例の写しだね。あとこれを僕に言ったってことは父上にも伝えていいんだよね?」
「ああ。ギルド本部にも伝えてあるし、あちらに潜入中の諜報員と変に衝突したくないから予め軍にも話を通しておいてくれ」
「わかったよ。リリーたちには帰省するとだけ伝えておくね」
「俺があいつらに何も言わずに帰省するってだけで何か気づきそうだがな」
「あはは。そうだね。それにしてもSSランクの諜報員なんて使えるの、カナン大帝国くらいだよ。ちょっと誇らしいかも」
「そうだな。では」
「じゃあね。無事を祈ってるよ」
「ああ」
こういう時、エドワードと仲良くなれて心底よかったと思う。やはり持つべきは学友だな。まだ五人しかいないけど。いや、兄と婚約者を含めれば七人か。
ちなみにエドワードはいつも陰に潜む特殊部隊に守られている。俺にはバレバレなので、たまにそちらの方を向くと目が合ってしまうことがあり、互いに少し気まずい。
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ということがあり俺は今エクスに乗ってバルクッドに向かっている。今回、ケイルは帝都に残っているのだ。
「なぁ、エクス」
「ブルル」
「今回の侵入作戦だとエクスは目立ちすぎるから実家で留守番だが、いいか?」
「ブルル」
「そうか、すまんな」
「ブルルル」
「急に話が変わるんだが、鬣が結構伸びているなエクス」
「ブルル...」
母ちゃんとレイに収穫されるのは確定である。この前、第二皇子派閥の関係でやり取りしていた書簡の最後に「アリアがエクスの鬣収穫専用のハサミを新しく購入していた」と書いてあった。エクスは己の鬣を割と気に入っているのでハサミで切られるたびにションボリしている。でも何も言わないエクスは本当に優しい相棒である。食いしん坊だが。
「そろそろだな」
「ブルル」
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バルクッドに到着し、侯爵邸に入ると
「お兄様!お帰りなさい!!!」
と妹のレイがダッシュで抱き着いてきた。控えめに言って天使である。
「ただいま」
その後ろから遅れて
「アル、お帰りなさい。あの人は今軍の施設にいるからいないけど...」
「ああ。母ちゃんもただいま」
「うふふ、逞しくなったわねぇ。見ないうちにランクも上がったらしいし」
「お兄様!すごい!」
「おう。ありがとな」
その夜、夕食にて
「アルがSSランク冒険者になったことに乾杯!」
「乾杯~」
「乾杯!」
「乾杯」
やはり家族との食事は最高だなと思いつつ
「暫くアルメリア連邦に潜入してくる」
すると元軍人の母と現総帥の親父の目がキッと鋭くなった
「一人でか?」
「ああ」
「アルが本気で潜入するなら、他の人は足手まといになるものねぇ」
「お兄様、またどこか行っちゃうの?」
「すぐ帰ってくるから、エクスと待っていてくれ」
「エクスがいるなら我慢して待ってる!」
「いい子だ。ありがとな」
そしてレイが風呂で退席したところで
「で?何をしに行くんだ?」
「親父、帝都の襲撃事件知ってるよな?」
「もちろんだ。アルの魔法はここからも見えたしな」
「その件で、アルメリア連邦に≪転移≫もちの覚醒者がいることが判明した」
「転移って、あの転移よね?」
「そうだな。忘れていたが、後で転移の魔法陣の写しを渡しておく」
「それは助かるが、転移ってマジか...」
「今回は飛竜部隊の殲滅と≪転移≫の覚醒者の抹殺、それとできれば他の覚醒者も何人か始末することが目標だ。ちなみにギルド本部と帝都軍には、潜入と覚醒者を始末することだけを伝えた」
「そうか。まぁアルなら大丈夫だろ。うちの軍の諜報部にも話を通しておこう」
「アルなら大丈夫だけど、油断だけはしちゃだめよ」
「ああ。それともう一度言うがエクスは留守番させるから、世話頼んだ」
母ちゃんは妖艶にペロリと唇を舐め
「そろそろ収穫の時期だしねぇ。うふふふ」
その頃エクスも夕食を終え、久しぶりに実家の庭を満喫していたのだが
「ブルル...?」
なにか悪寒を感じていた
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