第21話:連邦の襲撃

【カイルの森】に帰った後、他の学生や冒険者と無事合流した。辺りを見る限り、俺たち以外もほとんど帰ってきているようだった。


こちらに気づいたアグノラが駆け寄ってきて


「お前たちが最後だ。アルテもお疲れ様だったな」


「ああ」


「初回の野外演習は毎年何組か帰ってこなくて大捜索が始まるのだが、今年は珍しく全部の組が帰ってこれたな!」


「そうだな」


といいながら組の奴らと解散し、俺とエクスは冒険者ゾーンまで帰る。


「お疲れさん」


「お疲れさまぁ」


「おつ」


「お前らもお疲れ」


と【宵月】の奴らと声を掛け合う。俺たちはさっさと解散したいのだが、代表の教師が長々と話をしており、一向に終わる気配がない。まぁ丸一日という依頼なので文句を言わずに待機する。


するとエクスがカイルの森の上空を睨みながら鳴いた


「ブルルル」


「ん?」


俺は一瞬で光探知を起動し


「一キロ先に三十個程度の大きな魔力反応があるな」


咄嗟に光速思考も起動して俺以外が止まった世界で考える。

 この魔力は知っている。恐らくワイバーンの魔力だ。普通ワイバーンは群れで行動しないので、この時点でおかしい。次に光学レンズの応用で一キロ先の上空を見上げると、ワイバーンの上に武装した魔法師が騎乗しているのが確認できた。ワイバーンの大きい魔力に隠されていて気づかなかった。


 あれは最近話題に上がったアルメリア連邦の飛竜部隊だろう。カナン大帝国の飛竜部隊が結成の見込みがあることを知っているのは皇族と俺、それに帝都軍の上層部だけである。これは予想だが、結成の見込みを見せてしまったことで連邦は逆に焦ってしまったのだ。うちの強硬派貴族と一緒で叩けるうちに叩こうという理論だ。なぜなら現在カナン大帝国に対空戦力は存在しないから。


 また、連邦にその情報を流した裏切者が確実に紛れ込んでいる。それも帝都軍上層部に。


 帝都には巨大な結界が貼ってあるので、外にいる俺たちの中の誰かを狙っているのは間違いない。たぶん標的は【エドワード】だろうな。継承権第二位の第二皇子が結界の外にノコノコ出てきたのだ。狙わない道理はない。


 なんなら俺も狙われてそうだな。今のうちに帝国の戦力を削っておきたいだろうし。


「エクス」


「ブルル」


俺たちは今まで抑えていた魔力と覇気を全開にして


「敵襲!!!!!!」


それを聞いた者たちは、一瞬で俺と同じ方向を見上げる。完全にワイバーンが視認できる距離になったら大騒ぎになって統率が取れないので


「教師は生徒の盾になる形を取りながら帝都に向かって移動を開始しろ!冒険者は俺と一緒に迎撃に当たれ!」


さすがは帝立魔法騎士学園の生徒と教師たちだ。慌ててはいるが、統率が取れている。

あと、これを忘れてはいけない。


「エクス、エドワードを帝都に乗せて行ってくれ。やつらの狙いはエドワードだからな」


「ブルルル」


そのままエクスは学生の群れに突入し、エドワードに角を引っかけて優しく上へ投げ、背中で受け止めた。


「え?ちょ、ちょっ!」


「エドワード、あいつ等の狙いはお前だから先に逃げろ。エクス頼んだぞ」


「ブルル」


エクスはエドワードがギリギリ振り落とされないスピードで帝都まで駆けていった。ナイスだぜ相棒。


 その間に飛竜部隊は残り三百メートルほどに迫っていた。しかし何か違和感がある。この魔力の感じ、おそらく覚醒者が紛れ込んでいるな。


警戒していると、上空から沢山の魔法が降ってきた。どれも上級以上である。


すぐに光速思考と光探知を起動して、魔法の座標を特定しロックオン


「光の矢、百重展開」


光の矢が光速で魔法を相殺し、俺はノンストップで【閃光】の魔力を練り次の魔法を唱える。光速思考を起動していてもかなりの負担がかかる。


それは大切なものを守るために必死で完成させた魔法。来る日も来る日も魔臓が悲鳴を上げようとも、体力が尽きて倒れようとも、地べたを這いながら練習した魔法。


後に「天に住まう神々の怒り」として世界中の人々に語り継がれた≪光≫魔法。



その名は






【 天照(アマテラス) 】







そう唱えた瞬間、遥か天空から巨大な光柱が降ってきて飛竜部隊をこの世界から消した。


 そしてその光はそのまま【カイルの森】を飲み込んだ。


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 その光は学生や教師達どころか、帝都内からも見えた。


「なんだよあれ...」


「帝都の外で何が起こってるんだ!」


「ひいぃぃぃ」


もちろん、それは帝城からも確認できたので


「おい!なんなんだあれは!」


「皇帝陛下、落ち着いてください!結界は無事です!」


「魔法か?魔法なのか?もしそうであったら昔の物語に出てくるような『終焉級』ではないか!」


「ただちに騎士を向かわせて確認します!」




その後、カイルの森跡地にて


「あちゃー、覚醒者ごと吹っ飛ばしちゃったなぁ」


そこへ【宵月】が来て


「そういうレベルじゃないだろ...」


「あなた本当に人間なの?」


「あれ、私もやりたい」


「後始末は冒険者ギルドにやってもらおう」


「「「えぇ」」」」



面倒くさいことは全部ギルドに押し付けると決めて、帝都に戻ったのだった。ちなみに、ギルドは別に怒るわけでもなく依頼の達成に必要な行為だったと処理してくれた。もしかしたら皇子を含めた学園の生徒と教師、それに高ランク冒険者が全滅していた可能性もあったからである。


帝都に戻り、エクスや学園の皆と合流する


「エドワード無事だったか」


「おかげさまでね」


「エクスもありがとうな」


「ブルルル」


「アルテ、あれあなたがやったの?」


「そうだ」


「あんたやっぱやるわね!」


「アルテ格好よかったぞ!」


「カイルの森は無くなってしまったけどね」


「そうだな」


するとオリビアが


「でもちょっとやりすぎじゃないかしら」


「確かに!あんたやりすぎよ!」


「俺はいいと思うけどな!」


「エクスに乗れたからすべてよし」


「でもあいつらは俺の友達に手を出そうとしたんだ。だから仕方ない」



それをコソコソ聞いてた周りの生徒や教師たちは


「「「「「え、俺(私)たちは?」」」」」


というわけで俺たちはそのまま解散し、家に帰ってから各々が無事を祝った。


その日の夜、ギルドにて


「本部長。全員可決しました」


「そうか。『閃光』は多大な被害を出してしまったが、襲撃の場所と環境が悪かったことを考慮して、今回の問題は無かったこととする。そしてあの魔法の精度は『終焉級』と想定できる。これは到底Sランクに収まるような戦力ではない。そのため、今日依頼を遂行したと同時に『閃光』を帝国で二人目のSSランク冒険者に認定する!」


こうしてアルテの知らないところでランクがアップしていたのである。


「ハックション」


「アル様どうしました?」


「いや、寒気がしてな」


「風邪をひかないようにしてくださいね」


「ああ」



アルテは長らく人類が到達していなかった魔法の高み「終焉級」の領域に踏み込んだのだ。その功績を称え、大陸の人々は「閃光」にもう一つの異名を与えた。



「終焉の魔術師」と




次の日、アルテは冒険者ギルドに呼び出され、SSランクに認定されたことを伝えられた。そこに帝都軍の上層部が何人も来て、昨日の詳細を隅々まで聞かれた。

 飛竜部隊に覚醒者がいたことや、おそらく情報を漏らした裏切者が紛れていることなども話した。話し終わると彼らは俺よりも早く馬に乗り、軍の本部へと向かった。これから連邦の諜報員を炙り出すのだろう。もしこの中に紛れていたらヤバいなと思ったが名前を聞いた感じ、全員帝国の貴族家出身だったので大丈夫だろう。


手続きなどもすべて終わり、さっさとギルドから出てエクスと飯を食いに行こうかと考えていると


「お主もSSランクに上がったらしいのう」


「...」


「おい!わらわを無視するでない!」


「ん?俺に言ってるのか?」


「そうじゃ。わらわはお主と同じSSランク冒険者【氷華のエリザ】じゃ!」


「そうか。じゃあな」


「ちょっと待てい!無礼者!」




もう一人のSSランク冒険者に絡まれたアルテであった。



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