第19話:学園長からの依頼

早くも始業から一ヶ月経ち、クラスの皆は親交を深め合っていた


ちなみに俺は現在選択授業しか受けてない上にそれすらオリビア、リリー、ルーカス、エドワードと被せている状態なのでマジで友達がいない


 強いて言えば、たまに大図書館でシャーロットに声を掛けるくらいか。

 学園には兄貴と兄貴の婚約者、それとこの五人しか知り合いがいないわけだ。要約すると俺は陰キャなのである。


 今日も朝クラスへ向かい、ホームルームでアグノラの話を聞いてると


「あ、そういえばアルテはこのあと学園長室へ向かうように」


「嫌だよ」


「嫌でも行くんだよ!!!」


「ええ」



何やら周りからも怪訝な目を向けられている


「ねぇ、アルテなにかやったの?」


「あんたまた事件起こしたの!?」


「俺も見たかったなー!」


「今度はどこを斬り飛ばしたんだい?」


などど、えらい言われようである。

 


というわけでやってきました学園長室


コンコン


「入っていいですよ」


ガチャ


「失礼」


「あら、アルテ君じゃないの」


「アグノラに言われて嫌々来た」


「そういうことは言わなくていいの」


「別に俺は何も事件とか起こしてないんだけど」


「違うわよ。今月、実技の野外演習があるじゃない?」


「あぁ、そんなこと聞いたな」


「毎年高ランクの冒険者を何十人も雇っているのだけど」


「まぁ素人のガキを何人も魔物の生息地に放り込むんだから妥当だな」


「そうなのよ。で、あなた高ランク冒険者の資格持ってたわよね?」


「持ってないぞ」


「嘘つかないの」


「一応Sランクの冒険者資格を持ってるな」


「というわけで帝都の冒険者ギルドを通して指名依頼出しておくからよろしくね」


「絶対嫌だ」


「あなた、入学式でコソコソ私の魔力探ってたわよね?」


「...」


「勝手に人の魔力量を測ったりするのは御法度なんだけど...」


「...エクスも連れて行っていいなら」


「エクスって噂の『深淵馬』よね?あの伝説の」


「そうだな」


「ダメよ、魔物が全部逃げちゃうじゃない」


「エクスを舐めすぎだ。気配を隠すくらいできるぞ。それも高ランク冒険者にバレないくらいにはな」


「あらそう。じゃあいいわよ」


「そうか」


「うふふ。よろしくね」


「ああ」


いつもなら何度も断るんだが、この手の相手はどうせ引かないから諦めて依頼を受けることにした。それにいくら依頼とはいえ、学園長に恩を売るという事実は変わらないのだ。


その後


「そういえば、学園長の名前聞くの忘れてたな」



===========================================


そして次の日、エクスを連れて冒険者ギルドを訪れた。

ちなみにここは大陸で五つしかない冒険者ギルドの本部である。支部はそれぞれの都市にあるが、この帝国に本部は一つしかない。

 

 そしていくつものSランクパーティと一人のSSランク冒険者がこの本部を拠点に活動しているらしい。Sランクパーティは何回か見かけたが、SSランクの冒険者はまだ見たことがない。


「まぁ恐らく覚醒者だろうな」


と呟きながら受付に行くと


「『閃光』さん、今日もお疲れ様です!実は、学園から『閃光』さんに指名依頼が出されているので、今からその説明をしますね」


「頼む」


「依頼日はちょうど二週間後で、学園生の野外演習の引率ですね。この日は約五百人の生徒が十人一組で計五十組に分かれます。そのため『閃光』さん以外に、四十九名のBランク以上の冒険者が雇われます」


「そうか」


「場所は帝都近郊の【カイルの森】です。冒険者の方は現地集合なので、朝早く森の入り口付近に行ってくださいね。それとエクスちゃんも連れて行っていいみたいです」


「わかった。俺のほかにSランクパーティはいるのか?」


「えっと、【宵月】が参加しますね」


「知り合いが参加するようで安心した」


「あと、依頼は丸一日なので注意してくださいね」


「あぁ、戻ってこないパーティがいたら冒険者総出で大捜索しなきゃだからな」


「そうですね、他に聞きたいことはありますか?」


「いや、特にない」


「では、今日は別の依頼を受けますか?」


「さっきクエストボード見てきたけど、良さそうなのが無かったからな。また今度にしておく」


「わかりました。いつでも寄ってくださいね!」


「ああ」



この受付はSランク以上の冒険者専用の受付なので、周りに人気がなくて静かなのだ。とても俺好みである。


「あれ?『閃光』じゃねえか。早くうちのパーティに入れよ。」


「入らんわ」


そこで件のSランクパーティ【宵月】と出くわした。Sランク以上専用の受付がある上に活動時間が被っているので、宵月とはよく会うのだ。


 宵月は魔法使い三人の魔法極振りパーティである。Sランクなので、もちろん剣の技術も並みの冒険者とは比べ物にならない。

 メンバーは【ジャック】、【デイジー】、【ルビー】の男一女二の計三人で、特にリーダーはいないらしい。


「そういえば、【宵月】も野外演習の依頼受けたらしいな」


「あれ報酬がめっちゃうまいんだよな。他のパーティも受ければいいのに」


そこでデイジーが


「でも冒険者は子供の面倒見るの苦手な奴が多いからねぇ」


「ルビーも苦手。っていうか嫌い」


「まぁいいじゃねえか。楽っちゃ楽だし」


「そうだな」


その後いろいろと世間話をして


「じゃあな。二週間後によろしく頼むぜ」


「またねぇ」


「じゃ」


「おう」


とギルドを出た



「またせたなエクス。暇つぶしに今日の飯でも取りに行くか」


「ブルルル」


エクスは魚料理をご所望らしい


「そうか、じゃあ少し遠いけど【霧の湖】まで魚型のモンスターでも取りに行くか」



===========================================


 小一時間ほど食いしん坊馬に乗って走り、ついに目的地まで到達。


 ちなみに冒険者として活動するときはかならず白金貨五百枚で発注した状態異常耐性付の外套に、Sランクの白カマキリの防具と【星斬り】を腰にセットしている。星斬りの本体以外ドワーフのおっちゃん特製な上に、外套と星斬りは自動修復がついているので、控えめに言って最高である。


「いつも通り霧がかかっているな」


「ブルル」


「じゃあ、エクスあとよろしく」



というと、エクスは長い角に魔力を貯めて、大きい音を立てて雷を放つ。

すると、湖から魚型のモンスターとたくさんの魚がプカプカと浮かんできた。


「さすがだな。じゃあ早速マジックバッグにいれて帰るか」


「ブルル」


「ん?」


高い魔力反応を感じてすぐに光探知で湖を探る。それで湖の底から何かが上がってくるのがわかった。


「エクス、なにか上がってくるぞ」


「ブルル」



「ガァァァァァァァァ!」


と巨大な三つ目の亀が水しぶきを上げて飛び出してきた。


「Bランクの擬態大亀だ!エクス、頼めるか?」


「ブルル」


エクスはすでに魔力を練っていたようで、巨大亀へ、ではなく上空へ雷を飛ばした。するとノンタイムで空から雷が亀へ落ちた、あたりに凄まじい轟音を鳴り響かせながら。

 

すぐに擬態大亀を見ると、丸焦げになっていた。


「ナイスだ、相棒」


「ブルル」


「さすがに素材としては持って帰れないけど、肉が焦げた良い匂いがするな」


「ブルルル」


「そうだな、さっさと帰って料理長に飯作ってもらうか」


魔物の亀は完全に陸に上がっていたので、湖に浮かんでいた魚たちは無事だったのだ。すぐさまそれらをマジックバッグに入れて、アデルハイドに帰ったのだった。



==========================================


 侯爵家別邸に帰宅後


「ケイル―」


「これはアル様、お帰りなさいませ」


「エクスと魚取ってきたから、料理長に渡しといて」


「承知しました」


「頼んだぞ」


「エクスはどうする?」


「ブルル」


「そうか」


夕飯まで寝るらしい



その夜


「ん?この魚とても美味しいね!新鮮だし脂がのってるよ!」


「それさっきエクスと取ってきたからな」


「おお!それを聞いたらもっと美味しく感じてきたよ!」


「気のせいだろ。そういえば兄貴に聞きたいことがあるんだけど」


「ん?なんだい?」


「学園の野外演習についてなんだが、どんな感じなんだ?」


「え、参加するのかい?」


「Sランク冒険者としてな」


「ああ、それは災難だったね。説明をすると、この学園の生徒たちは優秀な子が多いんだけど、それに伴ってプライドが高い子も多いんだ。だから毎年魔物に舐めてかかって怪我をする生徒が続出するんだよね」


「高ランク冒険者が引率するのもあって死者は出ないんだな」


「そういうことだね。冒険者様様だよ。学園では年に何度か野外演習があるけど、初回は毎回酷い有様なんだ。去年は魔物を前にして泣いて逃げた生徒が行方不明になって、冒険者と教師が大捜索したしね」


「最悪だ...」



もしかしたらハズレ仕事を引いたかもしれないアルであった。



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