第18話:「家族だから」
というわけでカナン大帝国第二皇子【エドワード・ブレア・ルーク・カナン】を連れて侯爵家別邸に来た
「おーいケイルー。友達連れてきたぞ~」
「おかえりなさいませアル様。そちらの方ですかな?」
「初めまして、僕はエドワードっていうんだ。よろしくね」
「なんと!第二皇子様でしたか!私はアル様の専属執事を務めさせていただいている、ケイルと申します。よろしくお願いいたします」
「エドワードがエクスを見たいってゴネるもんだから、嫌々連れてきた」
「できれば触りたい」
「そうでしたか。エクスでしたら先ほど裏庭にいるのを見かけましたよ」
「そうか、じゃあ早速行ってくる」
「お茶の準備をしておきましょうか?」
「いや、エクスを一目見たら帰るから気にしないで!」
「そうですか、では私は邪魔だと思いますので、これで」
「別に邪魔じゃないけどな、わかった」
この別邸もそこそこ広いのでしばらく歩いて裏庭へ行くと、そこにはゴロゴロしているエクスがいた。
「おーいエクスー」
エクスを呼ぶと、ものすごいスピードで走ってきた
「ブルル」
「ん?どうした?エドワード」
エドワードはぽかーんとした顔で固まっていた。
「こ、これが伝説の『深淵馬』!凄い覇気だね!大きさも普通の馬の三倍はあるんじゃない?」
「そういえばエクスはSランクのスレイプニルだったな」
「ブルルル?」
エクスもそうだっけ?と言っている
「なんというか、二人は似た者同士なんだね」
「そうだな」
「ブルル」
とここでエドワードが
「あの~触らせてもらっていいかい?」
「ブルルル」
「いいってさ」
エドワードはエクスの鬣を撫でて
「おっふ」
「語彙が崩壊してるぞ」
ナデナデナデナデナデナデ.........
実家にいた時は母ちゃんとレイに定期的に鬣を収穫されていたので、ここまで長く伸びたのは久しぶりかもしれないな
しばらく撫でた後に、エドワードが思い出したように口を開いた
「そういえば、エクスとはどこで出会ったの?」
「ヴァンパイアベアっていう魔物を討伐した時に、近くでボロボロになっていたエクスを見つけたんだ。その時はまだ仔馬だったんだが、群れの仲間を守ろうと俺の前に立ち塞がってきてな」
「勇敢だねぇ」
「群れは全滅してたから、亡骸を守ろうとしてたんだと思う」
「本当にいい子だね」
「魔物なのに妙に情に厚いやつだったから気にいってな。回復薬をかけた後に一緒に来ないかと誘ったら、エクスは悩んだ末に一緒に来ると決意してくれたんだ」
「な、エクス」
「ブルル」
「ロマンチックだねぇ。っていうか元からSランクだったの?」
「いや、仔馬の時はBランクのバイコーンだったぞ。その後一緒に暴れまわってたら、いつのまにかSランクのスレイプニルになってた」
「ブルルル」
するとエドワードが
「なんというか、それを聞くとうちの魔法師軍の人たちがワイバーンを従魔にできなかった理由がよくわかるよ。本当に無駄な努力だったんだね...」
「そうだな」
「はぁ、これを含めて父上に伝えるのは骨が折れそうだ...」
「頑張れよ」
「ああ、頑張るよ。ではそろそろ帰ろうかな」
「そうか。で、どうやって帰るんだ?」
「え?ここに来たみたいに歩いて帰るけど」
「エクスに帝城まで乗せていってもらうか?」
「え?いいの?」
「ブルル」
「いいってさ」
エクスもエドワードから兄貴と同じ匂いがプンプンしてるのに気づき、案外この皇子を気に入っていたのだ。俺もエクスの考えは全部わかるので、乗せてもらえるだろうとは思っていた。
それにエクスは普通の馬より大きいので、二人乗りくらい余裕なのだ。
「鞍が無いから不安だったけど、乗り心地はとてもいいね!」
「エクスは何か付けるのを嫌がるからな。あと鼻息荒いぞお前」
「アルテはいつも乗せてもらっているからわからないだろうけど、普通の人は人生で魔物に乗る機会なんてないからね!ましてや伝説の『深淵馬』だよ!それは興奮もするって!」
「そうだな」
「たぶんSランクモンスターを従魔にしたのって、今までもこれからもアルテだけだと思うよ!」
「そうか。でも一応言っておくが、俺とエクスが昔から一緒にいるのは、エクスがSランクだからとか、俺が覚醒者だからとかそんな下らない理由じゃないからな」
「やっぱり『閃光』って大陸中で話題になるだけあるね。ちなみに聞くけど、どんな理由なんだい?」
「家族だから」
「な、エクス」
「ブルル」
としばらく歩いて
「エクスは大きいから、大通りに入ったらいろんな人とぶつかったり道が詰まったりしそうだなって思ってたけど、杞憂だったね」
「全員避けてくれるからな」
「やっぱりエクスは凄いんだね!カッコいいし!」
「また鼻息荒くなってるぞ」
「おっと失礼」
そして帝城に到着
「ここまでありがとうね二人とも!」
「おう」
「ブルル」
「早く父上に自慢したいから、もう行くよ!じゃあね!」
「じゃあな」
「ブルルル」
と手をブンブン振りながら走って行った。ちなみに門番はめっちゃ驚いて腰を抜かし、エクスに鼻で笑われていた
それを見届けた後、俺たちはすぐに踵を返し
「あいつ面白いだろ?」
「ブルル」
「だよな」
と二人でニヤニヤしながら帰路についた
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初授業の日
「おはよう、アルテ」
「あんた顔がまだ寝てるわよ!」
「おはようアルテ!いい朝だな!」
「アルテおはよう。変な顔だね!」
「おう、やかましいわ」
しばらくして教室に担任のアグノラが入ってきた
「おはよう諸君!よし、初日から遅刻、欠席するような弛んだ奴がいないようで安心だ!」
「今日は必須授業しかないから、特待生は受けてもいいし帰ってもいいぞ」
すると半分ぐらいが残り、半分ぐらいが教室から出ていった。
「じゃあ俺は学園の敷地内にある『帝立大図書館』に行くから、予定通り昼に食堂で合流しよう」
「わかったわ」
「あんた帰ったらぶっ飛ばすからね!」
「昼飯楽しみだな!」
「エドワードはどうするんだ?」
「僕は皆と授業受けるよ!」
「そうか」
と俺も教室から出て、帝立大図書館へ向かう。ちなみに今日は図書館へ行くが、これからはエクスとダンジョンへ行くこともあれば、冒険者ギルドで依頼を受けることもあるだろう。
「デカいな...」
圧巻の一言である
「今日は魔法陣について調べたいことがあったんだよなぁ」
と言いながら館内をトコトコ歩いていると
「あら、奇遇ね」
「...」
「ちょっと、無視しないでくれる!?」
「...ん?俺に言ってるのか?」
「そうよ!...もしかして私のこと覚えてないの?」
「すまん」
「同じクラスの特待生の【シャーロット】よ!」
「そうか、じゃあな」
「ちょっと!待ちなさいよ!」
声をかけてきたのは、同じSS-1クラスの特待生の【シャーロット】らしい。茶髪で活発的な印象を受ける平民の女子だ。あと、自慢じゃないが同じクラスの生徒はエドワードを含めたいつもの四人組しか覚えていない。教師のアグノラは覚えているが。
「ん?どうした?」
「ねぇ、あなたそれ素でやってるの?」
「ん?ああ」
「はぁぁぁ」
「どうしたんだ、溜息なんてついて」
「あなたのせいでしょ!」
「そうか」
「なーにが『そうか』よ!あなたはそうやって...ガミガミ」
しばらく謎の説教をされた後、端っこのテーブルに座り本題に移った
「私ね、夢があるの」
「そうか」
「気になるでしょ?」
「別に」
「そこは普通気になるところでしょ!」
「じゃあ聞かせてくれ」
「はぁ、まあいいわ。私の夢はアインズベルク侯爵軍の白龍魔法師団に入ることよ!」
「実家から近いのか?」
「それもあるけど、昔テール草原の大街道を馬車で走っていたら、グリーンウルフの群れに襲われたの」
「Eランクの魔物に襲われるなんて災難だな」
「そうなの。でもその時に白龍魔法師団の人たちに救ってもらったのよ」
「それで白龍魔法師団に入ることが夢なのか」
「そうね」
「で、アインズベルク侯爵軍総帥の息子である俺に声をかけてきたわけだな?」
白龍魔法師団と黒龍騎士団は総帥直下の超精鋭部隊である。
「そういうことよ。ま、同じクラスだからそのうち話すことにはなるでしょうけどね」
「魔法は得意なのか?」
「私は〈風・水〉属性の魔法が使えるのだけど、両方上級まで使えるわ!」
「なるほど、じゃあ白龍魔法師団に入れるかどうかは置いといて、侯爵軍魔法師団の団長に書簡を送っておいてやるよ」
「ほんと?ありがとう!あなた良い人ね!」
シャーロットは、貴族より苦労の多い平民出身なのに特待生の枠を勝ち取った、控えめにいて超優秀な生徒なのだ。普通に考えて将来一流の魔法師になると思うので、今のうちにツバをつけておいても損はないということだ。
こんな感じで、これからも将来有望な若者をバンバン発掘してスカウトしたいものだ。
「もう一度言っておくが白龍魔法師団に入れるのは、侯爵軍魔法師団五万人のうちの上位二百名だけだから、そんな甘くはないぞ?」
「望むところよ!」
「その意気だ」
「急に話は変わるんだけど、あなた授業のないときはいつもここにいる予定?」
「いや、これからはダンジョンに行くか、冒険者ギルドの依頼を受ける予定だな」
そう。外出イコール俺とエクスのストレス発散なのだ。
「ふーん、私は基本ここにいる予定だから、来るときはちゃんと声を掛けなさいよね!」
「おう」
今一瞬目が肉食獣のようになったのは気のせいだろう。
「さっきも言ってたけど、そういえばあなた貴族なのに冒険者やってるのね」
「趣味でな」
「帝都に来た時に吟遊詩人があなたのこと詩ってたのを聞いたわよ」
「そうか」
「その魔法はすべてを滅し、その剣は星を斬るって聞いたけど、さすがにそんなことできないわよね?」
「そうだな」
ここでシャーロットと別れ、魔法陣の本が置いてある階へ向かう
そこへ向かいながら一人でそっと呟く
「たぶんな」
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