第17話:飛竜部隊

そんな会話をしていると


教室にこのクラスの担任が入ってきて皆の視線が釘付けになる


「よーし、皆揃っているな」


「これから三年間このクラスの担任させてもらう【アグノラ】だ。よろしく頼む!」



生徒は入れ替わるが、教師は三年間固定らしい。それもそうか、教師や生徒が毎年入れ替わってたら非常にややこしくなるからな。一学年千人で四十クラスもあるのだから。


そこからアグノラがこの学校の履修システムとイベントの説明、それから特待生についての説明をした。想像していたより俺は自由に過ごせるようなので一安心だ。



「では順番に自己紹介をしてもらおう。場合によっては三年間ずっと同じクラスになるかもしれないから、できるだけ詳しく頼むぞ。誰からにしようか」


「では僕からさせてもらおうかな」


とエドワードが名乗りを上げた。できる男である。


「初めまして。僕は【エドワード・ブレア・ルーク・カナン】。この国の第二皇子をさせてもらっているよ。〈水〉属性の魔法と剣術を駆使して戦う、典型的な魔法剣士タイプだね。よろしく!」


「次はあたしね!あたしは【リリー・カムリア】。カムリア男爵家の次女よ!それと魔法は全属性使えるわ!よろしくね!」


「じゃあ次は私。私は【オリビア・ブリッジ】。ブリッジ伯爵家次期当主よ。〈風・土〉属性の魔法と剣術を使って戦うわ。エドワードと一緒ね。よろしく。」


「俺の番だぜ!俺は【ルーカス・パリギス】だ!パリギス子爵家の次期当主だぜ!〈土〉魔法は初級までしか使えないから、主に長剣と盾を使って戦うんだ。皆よろしくな!!!」


そしてついに全員の視線が俺に刺さる


「次は俺か。俺は【アルテ・フォン・アインズベルク】。アインズベルク侯爵家次男だ。≪光≫の固有魔法が使える。あと一応剣術も嗜んでいる。よろしく」



皆、頭にハテナを浮かべたような顔をしている。まぁ、帝国の至る所で俺の過度な噂が「閃光」という異名と共に広がっているようだからな。聞いた話だと、吟遊詩人のネタにもされているようだし。

 恐らく皆は、どんな凄い固有魔法を使うのか気になっていたのだろう。しかし聞いてみれば固有魔法≪光≫だったので、落胆するというより困惑しているのだ。この世界での光とは、文字通りピカピカ光るくらいの印象しかないからな。



そこでアグノラが


「『閃光』っていう異名はそこから来てたのか」



という。するといろんな所から


「もっとヤバい魔法を想像してたわ」


「まぁでも冒険者ランクはSみたいだし」


「剣術も嗜んでいる程度って...どうやって戦っているんだ?」


「まさか覚醒者ってだけで持て囃されてるわけじゃないわよね?」


「優秀な従魔がいるって聞いたわよ」



などとコソコソ声が聞こえる



「なんか誤解されているようだが、俺は嘘は言ってないし。まぁいいだろう」


「よくないわよ!」


「あなたねぇ...」


「アルテが陰口言われるのは嫌だな!」


「あははっ、皆まだ若いね」


少しザワザワした後、アグノラが


「おいお前ら、アルテは二位と圧倒的な差を付けて総合一位を勝ち取ったんだ。くれぐれもそれを忘れるなよ。あと私が言うのもなんだが、学園だからそういうのが許されているのであって、あまりアインズベルクを舐めないほうがいいぞ」



 さっきまで色々言っていたやつらがゴクリと唾を飲んだ。

あと点数は面倒くさかったから確認していない。初耳である。


「俺は本当に興味無いし、どうでもいいんだが...」


俺がいつもつるんでいる三人組とエドワードが特別いい奴らなのかもしれないな。そういえば、数か月前にカーセラルで俺に突っかかってきた変な貴族がいたことを思い出した。

 やはり今までの俺の周りのレベルが高かったのであって、この学園にも変なのがいっぱいいそうだな。まだ皆十五歳だし。


などと考えながら


「でももし変に突っかかってくる奴がいたら、半殺し程度で済ませてやるか」



その瞬間、教室が凍り付いた。


その静寂をぶち壊すようにリリーが


「ねぇ、そういえばこの前カーセラルでアイザック男爵家の次期当主の腕が斬り飛ばされたってきいたんだけど、あんたまさか...」


「あぁ、あの変な奴か。あいつが俺に突っかかってきて、それを止めた店員を斬ろうとしたから、俺が仲裁したんだ」


「あの事件、貴族界隈でそこそこ話題になってたのよね。なんで加害者が罪に問われなかったのかって」


「それはアルテは悪くないな!寧ろ良いことをしたと思うぞ!」


「普通仲裁で腕は斬り飛ばさないよ!!噂に違わず豪快だねぇ!あっはっはっは!」


「そうだな」



などと自己紹介そっちのけで談笑していると


アグノラが咳ばらいをし


「コホンッ!で、では今のは聞かなかったことにして次の人の自己紹介に移ろうか!」


「よし、俺も聞かなかったことにしよ」


「き、今日はいい天気ねぇ」


教室が変な空気になったが、丸く収まったので良しとしよう。(全然収まってない)



その後


「よし!全員自己紹介が終わったな。今日はこれで解散だ!明後日から登校になるから、どの授業を選択するのか決めておけよ!」


「では、解散!!!」



「ねぇ、どうせなら皆でこのまま食事しに行かない?」


「あたし賛成!」


「俺腹減ったぞ!」


「そうだな」


「僕も便乗していいかな?」


「じゃあ五人で食堂行くか」



食堂に到着し、皆好きなランチを注文し食べていると


「アルテさ。父上からの招待状がいくつか届いたことない?」


「ああ。何年か前から何度かあるな」


「すごいわねぇ」


「あんたやるわね!」


「アルテはすげーな!」


「で、何回帝城にきた?」


「一度も行ってない」


「「「え」」」


「やっぱりそうだよね?」


「あぁ」



十二歳の時、ヴァンパイアベアを討伐したが、実はそれから何度か皇帝からの招待状が届いていたのである。


「あんたなんで行かないのよ!」


「だって無理はしなくていいって書いてあったし、親父も行かなくていいって」


「「「え?カイン様が?」」」


「ああ」



ここでエドワードが


「ねぇ、アルテ。その時アインズベルク侯爵は他に何か言ってなかった?」


「『あいつの悔しそうな顔が思い浮かぶぞ!ハッハッハ!』って言ってた」


「やっぱりね。父上とアインズベルク侯爵は学生の時から親友らしいし」


「カイン様って割と大胆なお方よねぇ」


「ねえ、なんかルーカスと同じ匂いがしない?」


「え?俺と『鬼神』様が?やったぜぇ!!!」


「もちろん、悪い意味でね!」


「そうだな」



そんな会話をしながら食事を勧めていると


「実は父上から伝言を預かっているんだよね」


「そうなのか?」


「そうそう。『カインの倅にしか相談できないことがあってな』って言ってた」


「そうか、じゃあ明日行ってみよう」


「それと『一応そのことを話してみて、それがわかったら無理に来なくてもいい』とも言ってた」


「そうか、じゃあ話してみてくれ」


帝城に行きたくないので、できればここで済ませたい

するとオリビアが


「ねぇねぇ、それって私たちも聞いていいの?国家機密なんじゃ...」


「そうなんだ。だから二人だけで話したいんだけど」


「わかった」


この後三人とは解散し、学園の教室を借りて話すことになった。


「それで?」


「最近、アルメリア連邦に放っている密偵から嫌な報告があったらしくて」


「なぁ、それ本当に俺が聞いてもいいのか?」


「大丈夫。『カインの倅なら別にいいんじゃないか?』とか言ってたし」


「じゃあいっか」


「それに、アルメリア連邦が攻めてきたら、アルテはどうせ学業そっちのけで戦争に参加しに行くでしょ?」


「そうだな」


「それでこそアルテだよね。そしてここからが本題なんだけど」


「ああ」


「アルメリア連邦が『飛竜部隊』を結成したらしいんだ」


今までの戦争は、簡単に言えば「陸か海」のどちらかが常識だった。しかし、ここにきて「空」という第三の常識が生まれようとしていた。

 飛竜とは一般的にワイバーンのことを指すので、もしそれが実現したら天龍山脈を迂回して直接帝都「アデルハイド」に攻撃できてしまう。


「それはマズいな。それで、なんで俺なんだ?」


「それがね、うちも対抗して飛竜部隊を結成しようとしたみたいなんだけど」


「ワイバーンを手懐ける方法がわからないと」


「そうなんだよ。魔物研究家たちにも協力してもらってるんだけどね」


 ワイバーンは腐ってもBランクなわけで、簡単に従魔魔法が効く相手ではない。


 そしてこの世界は下手に魔法や魔道具が発達しているので、何かできないことがあると、無理にそれらで解決しようとする癖がある。

そのため、カナン大帝国の上部は、アルメリアは新しい従魔魔法や特別な魔導具を生み出してワイバーンを手懐けたと考えているはずだ。


「アルメリアも馬鹿じゃないからその方法とかは超機密にされていて、うちの諜報員でも情報をまったく掴めないんだ」


「そりゃあ、これまでの常識を覆すような部隊だからな」


「なぜアルメリアの強硬派が穏健派を飲み込んだのかがわかるよね」


「飛竜部隊には飛竜部隊をぶつける以外に勝つ方法はないからな」


「下から魔法は届かないけど、上からは打ち放題だもんねぇ」


「で、それがわからないと進まないからSランクモンスターを従魔にした俺に話が回ってきたわけか。確かに俺にしかできない相談だな」


「でも簡単にはいかないよねぇ」


だが、前世の情報を持ちこの世界でも色んな経験をしている俺は、さっき少し聞いたときに大体わかっていたのである。


「方法はわかったぞ」


「え?...少し聞かせてもらっていいかい?」


「まだ結成されてはいないと思うが、帝都魔法師軍の優秀な奴らが騎乗するんだろ?」


「そうだよ、よくわかったね」


「で、そいつらはワイバーンを従魔にしようと画策して、ワイバーンの生息地に赴いて試したけど、全然無理だったわけだな」


「な、なんでわかるのさ」


「それで、帝都の上層部はアルメリアが何か新しい従魔魔法か魔導具を開発したのではないかと考えたわけだな」


「はぁ、もう驚かないよ」


「帝都の上層部は高ランクの魔物を舐めすぎだ」


「えっ」


「なぁ、魔物を従魔として手懐けるにはなにが重要だと思う?」


「うーん。従魔魔法の練度?それとも魔物とその人の実力差?」


「いい線は言ってるが、間違いだな」


「そうなんだ。それで結局なんなのさ?」


「『愛』だな。『友情』でもいい」


「えっほんとに言ってる?」


「あぁ、魔物はランクが上がるにつれて知能が上がっていくだろ?」


「うん」


「ワイバーンだってある程度の知能と感情があるわけだ。そこで、自分を傷つけてきたやつに従魔魔法をかけられて、はいそうですかとなるわけがないだろうが。全力で抵抗するだろ」


「なるほどね」


「帝都の上層部はどうせ、そこら辺のスライムとかゴブリンとかを従魔にしてる冒険者に話を聞いただけだろう?低ランクモンスターは馬鹿だし魔法の抵抗力が低いから、すぐに従魔魔法がかけられるんだ。だが高ランクモンスターは違う」


「じゃあどうすればいいの?」


「一番早いのはワイバーンの巣から卵を盗んできて、子供の頃から手懐けて従魔にする方法だな。たぶんアルメリア連邦の連中もこの方法だと思うぞ」


「じゃあだいぶ前から準備していたんだね」


「そうだな。これをカナンの魔物研究家が知らなかったのが驚きだが」


「どういうこと?」


「魔物は生まれて初めて見たものを親と認識するってことだな」


「そうなんだね。というかなんでアルテは知ってるの?」


「え?普通に」


「普通にって...」


「ちなみに、俺とエクスは家族と同じくらい仲が良いし、互いを信頼しているぞ」


「さすがは『閃光』だね。この前帝都で吟遊詩人が詩っていたよ。『かの冒険者は【閃光】と呼ばれ、迅雷を纏う黒馬に跨る。さらにその魔法は全てを滅し、その剣は星を斬る』ってね」


「そうか」



こうして話し合いが終わり


「ねぇ、帰りにアルテの家に寄ってエクスを見せてもらってもいいかな?」


「一応国家機密の伝言なんだから、真っすぐ帰れよ...」


「ちょっとだけ!」


「ちょっとだけな」


おまけを連れて帰宅することになった。







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