第16話:入学式と第二皇子
試験から三日後
「今日は待ちに待った合格発表だね!」
「俺より興奮してどうするんだよ兄貴」
「だって弟の晴れ舞台じゃないか!」
「はいはい」
と学園行きの馬車の中で騒ぎながら移動する。
帝立魔法騎士学園は毎年三万人ほど受験し、受かるのが千人なので倍率が大体三十倍くらいだ。
そして入学試験の順位は初めのクラス分けに反映される。
クラスは上からSS、S、A、B、C、D、E、F、G、Hの順に分けられ、次に
A-1、A-2、A-3、A-4のように四つに分けられる。
まず上位百名がSSになる。学園試験の一位~二十五位がSS-1で
二十六位~五十位がSS-2となる。そんなかんじだ。
とても面倒だが、これは帝立魔法騎士学園が一学年千人もいるのが悪い。
「兄貴は今どのクラスなんだ?」
「僕は座学の点数でゴリ押ししてるから、ずっとSS-1だよ」
「やるじゃん」
「アルはSS-1は確定だけど、いったい何位だろうね」
「特待生って上位十名だっけ?」
「そうだよ。上位十名に入れればその年の授業料が免除になるのと、殆どの授業の単位が確定で貰えるね。でも一年後の期末試験で十位以下だったら二年次は普通の待遇に戻るから気を付けてね!」
「おう」
その後一人で掲示板を見に行くと
総合一位 - 【アルテ・フォン・アインズベルク】
二位 - 【エドワード・ブレア・ルーク・カナン】
・
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十二位- 【リリー・カムリア】
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十五位- 【オリビア・ブリッジ】
・
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・
十九位- 【ルーカス・パリギス】
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・
と書いてあった。よし、あの三人はSS-1で同じクラスになれたので一安心だ。また点数は隣の掲示板に書いてあるようだが、順位さえわかれば後はどうでもいいので見なかった。
それよりも二位のカナン大帝国第二皇子【エドワード】の方がよっぽど気になる。何が気になるのかというと、恐らく現在職員室では新入生代表挨拶を俺と第二皇子のどちらかにするか揉めていると思う。
めんどうなので、第二皇子に擦り付けられないかと考えていると
我が友人たちが声をかけてきた。
「アルテ!探したぞ!」
「おう、お前たちおめでとう」
「アルテ、あなた一位じゃないの」
「しかも特待生だし!なにが『まぁ、ボチボチだな』よ!!」
「そうだな」
「それよりも私たち同じクラスよ」
「そうなんだよ!超嬉しいぜ!」
「ひとまず安心だ」
「「「そうね(だな)!」」」
同じクラスになったといっても、俺は必須授業と実技授業は確定で単位がもらえるので、選択授業に参加するだけだ。選択授業も特に興味のあるものはないから、三人と被らせて一緒に受けようと思っている。ちなみに、単位が貰えるといっても来年の特待生を掛けて期末試験は受けなければいけないので、それは忘れないようにする。
なぜ中間試験は存在しないのかって?
それは学園内で魔法と剣術を競うデカいイベントがあるからだ。
その名も「帝王祭」である。
それと、カナン大帝国内の最強を決める「帝龍祭」というイベントもある。
帝王祭は毎年開かれ、帝龍祭は二年に一度開かれる。
俺は帝王祭は出場する気はないのだが、今年開催される帝龍祭は参加しようと思っている。帝龍祭はこのカナン大帝国五億人の頂点を決める祭りだ。そして帝国の戦力たちを他国へ見せつけて牽制するという目的もあったりするので、毎年覚醒者も何人か参加するらしい。
実は去年、今年の帝龍祭に出場してくれないかと帝国の皇族から声が掛かっていたのだ。もし優勝すれば、ご褒美が貰えるそうなので出場するからには絶対に優勝する。
俺の戦闘力にはエクスも含まれているのだが、この祭りは従魔禁止なのでそこは注意しなければいけない。だが魔法も剣も何でもありなので、ある意味俺向きのルールだ。
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それから三日後
「よし、じゃあ四人集まったし入学式の会場に入るか」
「入りましょうか」
「そうね!!」
「おう!!」
中はとても広く、入学者で溢れかえっていた。
「で、結局新入生代表の挨拶は第二皇子が担当するのね」
「ちぇ、楽しみにしてたのに」
「このチキン!」
「そうだな」
新入生代表挨拶が終わり、今度は生徒会長挨拶の番になり兄貴が壇上に上がる。
「アルテのお兄様って本当に素敵よね」
「誰かさんと違ってしっかりしてそうよね!」
「ここから話を聞いてるだけでも器のデカさがわかるぞ!」
「そうだな」
そして最後は学園長挨拶だ。長身のローブを着たエルフの美魔女が壇上に上がる。
「アルテ、あの学園長って覚醒者らしいわよ」
「え?そうなの!?」
「強そうだもんな!」
「そうだったのか」
無意識に光探知を作動し、魔力を探る。すると、今まで会った人族のなかで一番魔力が大きく、流れも洗練されている。それは侯爵軍の白龍魔法師団団長よりもだ。
なるほど、普通の覚醒者はこんな感じなのか。俺は魔臓の中で光を無限反射させ、戦闘時に足りなくなったら少しずつ魔力に変換するスタイルなので、傍から見たら魔力量は学園長より少ないだろう。まぁ、いつも日光を収束させて魔法を放っているので自前の魔力はほとんど使ってないのだが。
と考えながら自分の世界に浸っていると
「ねぇ、学園長あんたのこと睨んでない?」
「確かにスピーチしながらアルテのほう見てるわね」
「アルテ、なんかしたのか?」
「あ」
普通にバレた。
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入学式が終わったので、俺たちはSS-1のクラスへ向かう
「どんな人がいるのか少し楽しみね」
「そういえば平民の人たちも何人かいたわね!」
「強いやつと友達になりたい!」
「確かに貴族以外の友人も何人か欲しいな」
その後教室に入ると、すでに何人か到着していたようで
「『閃光』だ」
「やっぱ本物は違うわね」
「『閃光』の周りも有名人ばっかりだ」
「あのマッチョは何者だ?」
とクラスがザワつく。
「後ろの方に座ろう」
「そうね」
「そうね!」
「賛成だ!」
席に座り、しばらく世間話をしていると最後の一人が教室に入ってきた
そのままそいつは俺たちの席の方に歩いてきて
なぜか俺の隣に座った
「やぁ、僕は【エドワード・ブレア・ルーク・カナン】。気軽にエドワードと呼んでくれると嬉しいな」
「よろしくお願いいたしますわ、皇子様。私は【オリビア・ブリッジ】と申します。オリビアと呼んでくださいな」
「あたしは【リリー・カムリア】です!リリーって呼んでくださいね!!」
「俺は【ルーカス・パリギス】だ!ルーカスって呼んでくれ!」
「【アルテ・フォン・アインズベルク】だ。アルテと呼んでくれ」
「ちょっとあんたたち!ちゃんと敬語使いなさいよ!」
「ハッハッハ!そのままでいいよ、僕はそういうの気にしない派だからね!」
「じゃあこのままで」
「俺もそのまんまで!」
「じゃああたしも!」
「私も便乗しようかしら」
この第二皇子は皇帝継承権第三位で、受験結果を見てわかると思うが、とても優秀な上に、今のやり取りで器が大きいことが判明した。それに第一皇子は病弱な体質なため、第二皇子は将来皇帝になる可能性がある。
皇子や皇女にはそれぞれ派閥が存在し、結構な貴族がそれらに所属しているらしい。
第一皇子は実質継承権レースから離脱しており、現在第二皇子と第一皇女の一騎打ち状態らしい。また元第一皇子派閥の貴族の多くが第一皇女に流れたと聞いた。
つまり第二皇子であるエドワードはピンチなのである。
第二皇子派閥は貴族の数では第一皇女派閥に勝っているが、第一皇女派閥には伯爵家以上の貴族が多く所属しているため、全体的な勢力では負けているらしい。
現在、アインズベルク侯爵家とランパード公爵家は中立を決めておりどちらにも属していない。
ちなみにこの両家と親しい貴族も中立である。
例えばこの三人とか。
そしてこの両家は仲が良いので、もしランパード公爵家が第一皇女派閥に所属すれば、便乗してうちも所属するだろうし、もしうちが第二皇子派閥に所属すれば、ランパード公爵家も便乗するだろう。代々そんな感じなのだ。
少し適当に思うかもしれないが、遥か昔から背中を預けあって戦ってきたという見えない楔はそのくらい重いのである。よく言えばお互いを信頼している。
「エドワードがここに座った理由は大体察しが付くのだが、なぜそこまで継承権を手にしたいんだ?」
「おぉ、今初めて会ったばっかりなのに結構ぶっこんでくるね」
他の三人も目を点にしているが
「うーん、そうだね。第一皇女である【スカーレット】姉上との仲はあまり悪くないし、むしろ良好なんだけど」
「じゃあなんで派閥争いなんてしてるんだ?別に譲ってもいいだろうに」
「問題は姉上というより、そこの派閥の貴族たちなんだよね」
「どういうことだ?」
「控えめに言っても、今カナン大帝国の戦力は大陸で三本の指に入るだろ?」
「そうだな」
「今はアインズベルク侯爵軍とランパード公爵軍という、一軍で小さい国を落とせるような大戦力が他国を牽制してくれているからいいんだけどね」
「あぁ。それがいつまで続くかわからないから、この二軍が猛威を振るえる内に他国を叩き潰してしまおうというわけか。最近でいうとアルメリア連邦とか」
「そういうことなんだよ。今は姉上が押さえつけてるからいいんだけど、これがいつ爆発するかわからないからね」
「確かに今更第一皇女が『継承権を諦めます』とか言ったら、そいつら逆上して反乱とか起こしそうだな」
「そうそう、これだから強硬派はねぇ」
「そいつらの理論は分からなくもないが、カナン大帝国が侵略を始めたら控えめに言って世界大戦になるぞ」
「彼らも一応それもわかっているはずなんだけどねぇ。はぁ」
「エドワードも苦労してるんだな」
「あーあ。どこかの『閃光』様が協力してくれればいいんだけどなぁ」
「いいぞ」
「だよねぇ...え?」
「だから、協力してもいいって」
「ほんと?」
「親父に書簡を送った後、侯爵家の力を使っていろいろ調べることになると思うから、結構時間がかかるけどな」
「さすがに初対面の僕のいうことが全部信用できるわけじゃないもんね」
「そうだな」
「まあそうやって慎重に動いてくれる方が、これから一緒に戦う身として安心だよ」
「そうか」
「全部信じたらそれはそれで心配だよ、協力者として」
「二回言わなくていいぞ」
「そうだね。ハッハッハ」
なんというかエドワードからは兄貴と同じ匂いがプンプンする。そんなやつが将来皇帝になったら安泰だろうし、俺が勝手に帝城に入っても怒られなさそうだ。友人として。
「というわけで多分俺たちは第二皇子派閥に所属することになると思うから、今のうちに実家に書簡を送っておいてくれ」
「「「えぇ」」」
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