第14話:「帝蟲の巣」

昨日は変なのに絡まれるという事件があったが、割とぐっすりと寝れた。


 そして今日は記念すべきAランクダンジョン「帝蟲の巣」へのファーストアタックの日なのである。


宿屋で朝食を食べた後


「エクス、そろそろいくか」


「ブルル」


「ここの飯は美味いか?」


「ブルルル」


美味いらしい。するとそこへ



「おはようございます『閃光』様」


「おはよう。お前は昨日の...」


「セバスでございます」


「覚えておこう。それで?」


「もしよければ、今日のご予定をお伺いしても?」


特に秘密にはしていないし「帝蟲の巣」の問題は、ある意味この都市の問題でもある。氾濫などが起きたらまずカーセラルが被害を受けるからだ。


「今日からしばらく『帝蟲の巣』に潜ろうと思っている」


「そうでしたか」


「ダンジョンは初めてで?」


「ああ」


「実は私、こう見えて元Aランク冒険者でして、『帝蟲の巣』も35階まで潜った経験があります。ダンジョンにも詳しいので、気になることがあれば是非聞いてください」


「それは助かる。でもギルドで大体の情報は手に入れたからな。また今度聞きたいことがあったら声をかける」


「わかりました。ご武運を」


「おう」





というわけで俺は『帝蟲の巣』に来た



「少し興奮してきたな」


「ブルル」


「特に金儲けが目的ではないから、要らない戦いは避けていこう」



「帝蟲の巣」の入り口は狭いが、中は広い。洞窟のような構造をしていて、横幅二十メートル、縦幅十メートルほどだ。


 このダンジョンは計五十階層になっていて、最深部のボスがAランク、途中まではBランクのモンスターが出現する。



俺はエクスに乗りながら、光探知を起動する



「光源が無いのにダンジョン内はやたら明るいな。これなら自前の魔力をあまり使わなくても大丈夫そうだ」



そして俺は、探知した魔物に「光の矢」を飛ばして進み続ける。


素材は放っておけばダンジョンに吸収されるので無視して進む。


その階層によってバッタ型のモンスターや、巨大な蜘蛛、毒々しい色をした蜂など、出現するモンスターが変わるので結構楽しい。



サクサク進み、三十階層へ到達した頃



「ん?Bランクにしては大きい魔力を持ってるやつがいるな」


「ブルル」


「光の矢を飛ばさずに少し近づいてみよう」


その魔物と百メートルほどの距離まで進む



「あれってAランクのキングセンチピードだよな?」


普通にAランクの魔物が歩いているのは、Sランクダンジョンの特徴だ。


ここで俺はエクスから降りる



「ちょっとアイツと実際に戦ってみよう」



実際に戦ってみることで、別の発見があるかもしれないのだ。(光の矢に飽きただけ)



俺はエクスに降りてから「光鎧」を起動。

【星斬り】を鞘ごと持ちながら前傾の姿勢になり、目を瞑る。


 そう。刀の真骨頂、居合斬りである。


アイツはすでに俺に気付き、涎を垂らしながら突進を開始している



「キシィィィ」



あと


五十メートル


四十メートル


三十メートル


二十メートル



そして





十メートル






光速思考を起動し、五感と集中力を高める。


前傾姿勢のまま自分の意識を闇の中に落とす。


何万分の一まで凝縮された時間の中で、タイミングを伺う。



全身、特に足の裏と手に魔力を込める。



すると星斬りと俺の魔力が共鳴する。



そして



この世界を壊すようにキングセンチピードの余波が頬を掠める



「ここだ」



目をカッと見開き、足の裏の魔力を爆発させる



一瞬でキングセンチピードの顔の横に移動し



キィン


という静かな音と共にキングセンチピードの首から上が落ちた。



ポトリ



俺はゆっくり星斬りを鞘に戻して



「ふぅ、やっぱり闘いはこうでなくてはな」


「ブルル」


お疲れ様と労るようにエクスが近づいてきた


キングセンチピードの亡骸をアイテムバッグにしまい、次へ進む




そんなこんなで四十九階層のボス部屋の前までやってきた。一階層〜三十階層まではBランク、

三十階層〜四十九階層までAランク。


俺の予想だと、ボスはSランクだろう。


今回、『帝蟲の巣』のモンスターが急激に増え氾濫が起こるかもしれないという問題が起きていたので、調査をしに来たわけだ。


「まぁ理由は大体分かった。なぜモンスターが増えたのか、またなぜAランクモンスターが出現しているのかはギルドに行ってから説明すればいいか」


五十階層に降りながらエクスに語りかける



「久しぶりの強敵だからな、気を引き締めるぞ」


「ブルル」



階段をすべて降りると



 半径二百五十メートルほどの空間の真ん中でSランクモンスターの「カイザーマンティス」が待ち侘びていたように此方を睨みながら佇んでいた



カイザーマンティスは、真っ白で全長8メートルくらいの大きなカマキリだ。


カマキリは前世で自分より遥かに大きい鳥を捕まえて捕食した記録があるほど凶暴で危険だ。



「まずは『光の矢』と〈雷〉魔法で攻撃するぞ」


「ブルル」



いくら強敵でも、エクスの速さには敵わない。



しかし



「全然効かないな。大体避けられるし、急所を狙っても魔力を纏った腕の刃で斬り落とされる」


「一応この魔法の威力は超級なんだけどな」



久しぶりだ。この強敵を前にした時の緊張感を味わうのは。


そう考えていた瞬間、カイザーマンティスが魔力の斬撃を飛ばしてきた。



「出番だぞ【星斬り】」



光速思考をしながら解析する。なるほど、魔力にはそんな使い方があるのか。



刹那、俺も星斬りから斬撃を飛ばして相殺する。



「エクス、俺はアイツと星斬りで戦うから、もしヤバそうになったら適当に遊撃してくれ」


「ブルル」



よっと言いながらエクスから降りる



そのまま俺はじっとカイザーマンティスと見つめ合う。


こいつは2年前に討伐したSランクのヴァンパイアベアよりも確実に強い。同じランクでも天と地ほどの差がある。



そう思った瞬間、光速思考を起動し五感と集中力を高める。「光鎧」を最大限に起動し、魔力を再び星斬りに流す。



ああ、全身の血が沸騰する



お互いの闘気が均衡を保つようにぶつかり合う。



そして



「ガァァァァ!!!」


「うおォォォ!!!」



互いの刃を何度も何度も交差させる。



カマキリの左刃を弾き、その勢いで体を回転させ右刃を避ける。そうすると左刃が飛んできて星斬りの逆刃で受ける。



力は同等。速さも同等。技で勝負するしかない。



相手の刃は二本、対して此方は一本。冒険者として磨いてきた「攻めの剣」と「柔の剣」は徐々に押され始める。



「なん、というっ!!!」


「ガァァァァ!!」



その時俺は、無意識に光速思考を最大限に起動し、世界が止まる。


「は?」


自分でもよくわからずに混乱している。


すると魔臓の中心あたりから爆発するようなエネルギーを感じる。



俺はそこから湧いたマグマのように熱く煮えたぎる魔力を「光鎧」に流す。



それは今までの《光》の魔力とは全くの別物



表現するなら洗練された仙人のような魔力



星斬りにその魔力を流し、右から左へその刃を振う。



キィィィン。



星どころか、この世の全てを叩き斬るような美しい一閃。



そしてカイザーマンティスは胴から真っ二つになって崩れ落ちた。






エクスもビックリしていた。


「はぁはぁ、エクス心配をかけたな」


「ブルル」



エクスは、俺がカイザーマンティスを真っ二つにする少し前に、〈雷〉魔法で援護しようとしてくれていたのだ。でもいつのまにか半分になったカマキリを見て、驚いていた。



「よし、亡骸を回収して転移魔法陣に乗るか」



ダンジョンのボス部屋の奥には基本的に、上まで戻れる転移魔法陣が存在する。


その後カーセラルに戻りながら考える。


普段俺は、普通の魔力と光の魔力を使い分けている。だが今回の件で第三の魔力、表現するなら「閃光」の魔力が使えるようになった。



身体への流し方や練り方は同じなのだが、発動速度が劇的に速い。それに「光鎧」のスピード、攻撃力、防御力も上がったので、他にも色々とできることがあるかもしれない。


俺は閃光の魔力を使用することを「解放」と呼ぶことにした。



「さっきは剣戟は諦めて魔法を放とうと思ってたんだが、予想以上に白カマキリが速すぎて魔力を練る時間がなかったんだよな」



例えば「光鎧」を起動する時と「ロンギヌスの槍」を放つ時の魔力の練り方は別のベクトルなので、同時起動には少し時間がかかる。



光速思考を起動してても、魔力を練り魔法を完成させるまでの時間が短縮されるわけではないのである。



要するに、ピンチだったわけだ。



「でも『解放』すれば、それも一瞬でできそうな気がするな」


「そもそもなんでさっき光速思考が最大限に起動して、閃光の魔力が使えるって気付けたんだ?...」


「こりゃもっと研究しなきゃダメだな」


「エクスも付き合ってくれよ」


「ブルル」



普通に断られた



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 その日の夜、カーセラルの冒険者ギルド支部にあるVIP室内でギルド長【ネルソン】に今日のことを話していた。


「というわけで、『帝蟲の巣』のボスを討伐してきた」


「え、ソロでですか?」


「そうだ」


「それは驚きですね。それでいつから潜ってたんですか?」


「今日だ」


「...」


「どうした?」


「もう何も驚きませんよ」


「ここから本題だが、あのダンジョンのモンスターが増えた理由がわかったぞ」


「聞かせてもらっても?」


「ああ。約二年前に地震があったろ?」


「えぇ」


「それでダンジョン付近の地盤がずれて、龍脈からそこに流れる魔力が格段に増えたんだ」


「なるほど」


「その影響で三十階~四十九階層にAランクモンスターが出現するようになり、Bランクモンスターが二十九階層以下に逃げたから、モンスターが一時的に増えたわけだ」


「うちの冒険者だと潜っても十五階層までなので、その過程がわからずに、ダンジョン内すべてのモンスターが増えたように勘違いしたと」


「そういうことだ。あと、五十階層のボスはSランクのカイザーマンティスだったし、三十階層以上はずっと変わらないだろうからAランクじゃなくてSランクダンジョンに認定したほうがいいぞ」


「な!Sランクのボスが出たなんて聞いてませんよ!」


「言うの忘れてた」


「はぁ」




こうしてカーセラルのAランクダンジョン「帝蟲の巣」はSランクに認定されたのだった。




宿屋に戻り


「おかえりなさいませ『閃光』様。いかがでしたか?」


「おぉセバスか。攻略してきたぞ」


「え?一日でですか?」


「ああ」


「それはそれは...」


「それと、明日から『帝蟲の巣』はSランクダンジョンになるぞ」


「?」



後日、セバスは知り合いの冒険者から事の顛末を聞き、尻もちを付くのだった。




その頃アルテとエクスはバルクッドに帰還中だったのだが




「フンっ(笑)」



「どうした?エクス」


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