第13話:新装備と馬鹿貴族

バルクッドのドワーフ工房にて


「おっちゃーん」


「うるせぇい!ちょっと待っとけぇ!」


「おう」


しばらくして


「お、『閃光』じゃねぇか!言ってくれりゃ他のもんに仕事押し付けてきたのによ」


「いや、俺だけ特別扱いするのはよくないから気にしなくていいぞ」


「ガハハハ、それでこそお前さんだ」


「ってなわけで、この一年前に発注した外套を取りに来たんだが」


「あれか、今持ってくるぜ」


そして


「ピッタリだ」


「おうよ!そいつにゃあ、状態異常耐性がついてる上に、部位に合わせてSランクモンスターの素材が使われてるからな。それと、世にも珍しい自動修復機能付きだぜ!」


「一年の時間が必要だったのは、それが原因なんだっけ?」


「そうさ、帝都の名高い付与術師様にわざわざ俺たちが発注したんだ」


「苦労をかけたな」


「いや、いい仕事させて貰ったぜ!それに事前に金を払ってくれたからな」


「そうか」


発注したとき、最低でも白金貨500枚必要と言われたので次の日に払ったのだ


ちなみに、エクスはもう何も装備していない。Sランクなので並大抵のことじゃかすり傷一つ付かないし、状態異常への耐性も半端ない。それに本人自体窮屈なのが嫌みたいで、そのままがいいらしい。


俺に関しては一応「光鎧」で全部弾けるんだが、保険用に持っておきたいのだ。



「あとおっちゃんさ【星斬り】って魔法斬れるんだが、これ普通じゃないのか?」


「おめぇそりゃ、星斬りは『魔剣』だからな」


「前に言ってたな」


「そうさ、お前さんも昔話で聞いたことがあるだろ?」


「『魔剣は龍を斬り、数多の国を滅ぼした』ってやつ?」


「おう、でも魔剣ってのは歴史に現れたと思ったらいつの間にかパッと消えちまうんだ。だから俺たちドワーフですらよくわかってねぇ」


「あー、なんとなくわかる気がする」


この星斬りことヤンデレソードは、俺以外に使われるくらいなら普通のオリハルコンに戻ると思う。魔剣とはそういうものなのかもしれない


「だからな、俺たちドワーフにとって魔剣のメンテナンスを任せて貰うのは誉れ以外の何物でもねぇんだ。っていっても星斬りは刃こぼれしても勝手に治っちまうから、鞘のメンテナンスなんだけどな。ガハハ」


「おっちゃんにはいつも世話になってるからな。また来るよ」


「おう!気をつけてけよ!」



目的の外套を手に入れ、星斬りの詳細がわかったところで早速アインズベルク侯爵領「カーセラル」へ向かう。


「エクス、待たせたな」


「ブルル」


「なにか装備が欲しくなったらいつでも言ってくれよ。すぐに用意するからな」


「ブルルル」


そんなもんはいらんらしい。





今朝、一応バルクッドギルド長のメリルには手紙を出しておいた。その内容は


「ちょっと『帝蟲の巣』みてくる」


である。



本当は、カーセラルに入らずにダイレクトでダンジョンに行きたいのだが、ダンジョン内の情報は機密扱いになる。そのためカーセラルのギルドに行って冒険者タグを見せないと教えてもらえないのだ。



「さすがにAランクダンジョンに無策で突っ込むつもりもないしな」


俺は慎重派だからな



 カーセラルへ行くには魔の森に沿って馬車で3日、大体エクスで五時間ほどだ。

 途中の都市はほとんどスルーして、最短で向かう。


 エクスは速いしデカいのでやたら目立つ。なのですれ違う度にビックリされるのだがもう慣れた。


エクスにとって五時間走ることなんて屁でもないので途中休憩を挟まずに向かい、ついに到着。



「エクス、ご苦労だったな」


「ブルル」



魔の森近郊の都市のため、城壁も高く都市自体とても立派だ。門番に冒険者タグを見せて、そのままギルドへ向かう。



「おい、あれって...」


「『閃光』じゃないか?」


「なんでここに?」


「そんなの知るか」


「オーラというか、覇気がヤバいな」


「外套で上手く隠れてて見えないけど、私のイケメンセンサーがビンビンに反応してるわ!」



色々言われてるが無視し、受付に行く


「な、なんのご用でしょうか」


そして冒険者タグを見せ


「『帝蟲の巣』について教えてほしいのだが」


「わかりました!帝蟲の巣は全部で五十階で最新部は......」



と全ての情報を聞いてギルドを出る。そのまま高級宿屋に向かいながら


「すまんなエクス、今日だけは我慢してくれ」


「ブルル」


今日だけは大きな厩舎で夜を過ごして貰おうと思いつつ


「予約してくるから少し待っててくれ」


と高級宿屋の陰で待たせる




中に入ると、たくさんの視線が刺さる。それはそうだ。普通ここに泊まれるのは貴族や大商人だから、従者がいるのが当たり前なわけで。


俺のように一人で入るような輩はいないのだ。見た目は the冒険者だし。今は五時間かけてここに来たので、実は少しピリピリしている。面倒ごとに巻き込まれたら嫌だなぁと思いつつ。受付に並ぶ。



すると


「おい、そこの冒険者」


「なんだ?」


「なんだじゃないだろう、俺に順番を譲れ」


「...」



俺は早速無視を決め込み、考え事を始める


(ここがどんな飯を出すのかは知らんが、もし美味しければエクスに持っていくか)


(マズかったら、他の飯屋に買いに行かなければな。あいつの舌は大分肥えてるから)



「おい!!!無視するな!!!」


「ん?」



この変なのが大声を出すから、なんだなんだと他の客が遠巻きに集まってくる。



「この俺が誰だかわかっているのか?」


「知らん」


「き、貴様ぁ!」



しかしナイスな店員が割り込んできた


「お客様申し訳ありませんが、他の方たちの迷惑になりますがゆえに、言い争いはお止めください」



すると変なのが


「俺はアイザック男爵家次期当主、【ライアン・アイザック】様だ!無礼だぞ!」


といって腰にあった剣を抜き、ナイスな店員に斬りかかった。



その瞬間俺は【星斬り】を抜き、流れるような動きで店員とライアンの間に入る。そして美しい剣筋で、ライアンの腕を肩の先から斬り飛ばす。


「それはやりすぎだ。ライアンとやら」


「ギャアァァァ!」


ライアンの従者がすぐに駆け寄り


「ライアン様!!!すぐに回復薬をかけるのでジッとしててください!」


と腕をくっ付けて回復薬を流している。



ちなみに俺は(汚いなぁ)と思いつつ、星斬りを拭いている


「冒険者のお客様、ありがとうございます。しかし...」


「あぁ、気にしなくていいぞ」


この店員は、貴族の腕を斬り飛ばしてしまった俺の心配をしてくれているらしい。どこまでもナイスである。


「お名前を伺っても?」


「俺はアルテ。【アルテ・フォン・アインズベルク】だ」


それを聞いた店員やライアン、他の客たちはポカーンとしていた。



 それもそのはず、アインズベルク侯爵家とはこのカナン大帝国においてランパード公爵家と双璧を成すビッグツーのうちの一つなのだ。昔から陸軍、陸運を一手に担い、他国の侵攻をすべて跳ねのけてきた。これらの圧倒的な功績とともに、その名を大陸中に轟かせる存在。それは下手な国よりも敵に回してはいけない。それが【アインズベルク】なのだ。



またこの俺もアインズベルクの名と共に、大陸中で吟遊詩人に謳われている存在。



〈かの冒険者は【閃光】と呼ばれ、迅雷を纏う黒馬に跨る。さらにその魔法は全てを滅し、その剣は星を斬る〉



 アインズベルクとして、また覚醒者としてこのカナン大帝国では皇族の次に最重要とされる人物。



「お客様が、『閃光』様でございますか?」


「そうだ」



他の客たちもザワザワとし始める。



「あれがあの有名な...」


「まさか『閃光』様だったとは」


「おい見てみろ、あの剣も普通じゃないぞ」


「あーあ、あのライアンとかいう貴族終わったな」



治療が完了したであろうライアンの方を振り返ると、


「す、すいませんでした!!!!」


と言って従者を率いて急いでどこかへ行った。



「『閃光』様、今回の不始末の責任として、滞在する期間は最高級スイートを無料で貸し出させていただきたいのですがよろしいですか?」


「ああ、よろしく頼む。それと従魔のために一番大きい厩舎を貸してほしいのと、その食事も頼みたい。あいつは雑食で人間と同じものしか食わないからな」


「了解いたしました」


少し経つと、見るからに偉い還暦の男性店員が来て、スイートに案内された。


「こんないい部屋に無料で何日も泊まっていいのか?」


「大丈夫でございますよ。かの『閃光』様にご宿泊していただいたという事実があるだけで、何倍もお釣りがきますので」


「そうか。あと、ここの領主に書簡を届けてほしいのだが」


「了解しました、このあと取りに来ます」


と少しキョトンとしながら答えた


「心配しなくていいぞ。アインズベルクの権力でさっきの馬鹿貴族を暫くこの都市に入れないようにしてもらうだけだ」


「お気遣い感謝いたします」


そして書簡を書き終え、別の店員に渡すと、俺はすぐに厩舎にいるエクスをなでなでしに行った。



その頃還暦の男性店員【セバス】はというと、


「あれが大陸中で謳われる『閃光』様ですか。あの精神力に無駄のない体の動かし方、洗練された魔力の流れ、そしてあの美しい剣筋。どれをとっても超一流です。かの御仁がいれば、しばらくこのカナン大帝国は安泰ですな」


実はセバスは元Aランク冒険者なのだ。つまりその観察眼は本物である


また彼は騒ぎの時、ライアンから店員を守るために一応陰で準備をしていたのだ。



「『閃光』様はそれも気づいていらっしゃったので、あとで謝罪しなければな。はっはっは」



セバスはこのあと、伝説の「深淵馬」を一目見るべく、料理を運ぶ仕事に名乗り出た。


 そしてエクスの迫力に度肝を抜かし、尻もちを付いて、それをエクスに鼻で笑われたのである。







「フンっ(笑)」

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