第12話:リリーとの模擬戦とアルメリア連邦
リリーとの模擬戦を前に、俺たちは昼食をとっていた。
「あたし、こんな美味しい料理食べたことないわ!」
「確かに、美味いな!」
「美味しいわね」
「うちの料理長は優秀だからな」
アインズベルク侯爵家の調理場には、アルテがお土産代わりに持ってくる高ランクモンスターの肉が豊富にあるので、毎日絶品の料理が出されるのだ。
ここでリリーが
「急に話を変えるけど、皆アルメリア連邦の噂知ってる?」
「あぁ、もちろん知ってるぞ」
「なんだそれ?俺知らないぞ!」
オリビアがめんどくさそうな顔をして答える
「強硬派が穏健派を飲み込んだ話でしょ?」
「前々からそんな感じはしてたしな」
「俺母さんから聞いてない...」
「人間至上主義だか何だか知らないけど、うちの国にちょっかい出さないでほしいわよね!」
アルメリア連邦の人口は約十億で、その殆どが人間だ。遥か昔から人間至上主義を掲げており、エルフやドワーフ、獣人などの人族の中で亜人に分類される種族を迫害し続けた。
その結果、沢山の亜人たちがこのカナン大帝国に避難してきたのである。アルメリアはそのことを未だに根に持っており、戦争強硬派が主流になった今、この国に牙を向けるときは近いのかもしれない。
アルメリアでは遥か昔から亜人を嫌悪するような教育が行われている。すなわちもしカナン大帝国を攻める時になったら、多くの亜人嫌いが徒党を組み、嬉々として攻めてくるだろう。
ちなみに、このバルクッドは人口の三~四割程度が亜人である。屋敷の使用人にも亜人がたくさんいる上にギルド長のメリルや受付嬢のアンジェ、ドワーフのおっちゃんたちも亜人である。
この国を陸から攻めようと思ったら、まずバルクッドが戦場になってしまうので、彼女らに危険が及ぶということだ。
「まぁ、でも大丈夫だ」
「なんでそうなるのよ...」
「俺がいるからだ」
「「「...」」」
「連邦の覚醒者だかなんだか知らんが、もし攻めてきたら全員叩き潰して、逆にこちらから攻め込んでやる。」
「この国を攻めるということは、そういうことだ」
俺としては当たり前のことを言ったつもりなんだが、三人はなぜかキラキラした目を向けてくる。
「なんかカッコいいわね」
「アルテのくせにね!」
「俺もそれ言いたい...」
「じゃあとりあえず模擬戦しにいくか」
「「「えぇ...」」」
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再び訓練場にて
「リリー」
「ん?なによ」
「この訓練場には強力な結界が貼ってあるから、思う存分暴れてくれ」
「わかったわ」
毎日侯爵軍がドンパチやってるこの訓練場は、そんなにヤワじゃないのだ。
「いくわよ!」
「ああ」
俺が返事をしたタイミングで、リリーは魔力を練り、すぐに〈火〉属性の上級魔法であるファイアランスを五重展開して飛ばしてきた。
魔力を練ってからの発動が早いし、魔力の流れも無駄がなく美しい。
「これは...」
「食らいなさい!!!」
俺は思わず光速思考を起動し、光の魔力を纏った身体強化【光鎧】も発動する。
(この【光鎧】は以前のヴァンパイアベアの見よう見まねで起動していた身体強化と違って、魔力の無駄をなくし、攻撃力とスピード、さらに防御力まで格段にアップしたものである)
何千何万分の一に凝縮された世界の中で考える。リリーはこの魔法を発動した瞬間、俺の左右上下に向けて何百という数の〈風〉属性の初級魔法エアスラッシュを放つために、魔力を練っている。それも凄まじいスピードで。
リリーは俺の≪光≫魔法は護り向きではないと考えているようだ。でも俺がどこに回避するのかは流石にわからないので数でゴリ押そうとしているわけだな。
実際、光鎧を展開した今ならある程度の攻撃を食らっても平気なのだが、それではつまらない。それにこの俺が魔法から身を護る術を習得していないわけがない。
俺はすぐに【星斬り】を抜く。
そして
五つのファイアランスをすべて正面から叩き切る。星斬りは万能なのだ。
そして俺の周りにエアスラッシュが放たれるが、そもそも俺は範囲外にいるわけで。
「ちょ、ちょっと!何よそれ!」
「ん?普通魔法って斬れないのか?」
「斬れるわけないでしょ!」
この前冒険者の依頼でモンスターと戦っているときに、なんとなく斬れそうだなと思って星斬りを振ったら斬れたのだ。星斬りが他と違うのは、常に魔力を纏っているということ。つまり魔法は、その魔法以上に濃い魔力の何かで叩き潰したり斬ったりすると、霧散する。
それから再びリリーは諦めずに、いろんな魔法を飛ばしてきた。
光速思考と光鎧を展開して移動と回避を繰り返しながら、当たりそうになった魔法をすべて叩き斬る。しかしリリーは、俺の逃げる先に一番効率のいい魔法を毎回ピンポイントで放ってくるのだ。リリーは紛れもない天才である。
しかも、魔力量も尋常じゃないので、雨のように放ってくる。
このままでは埒が明かないので、久しぶりにあの魔法を使う。
とても便利だが、戦いが劇的につまらなくなるあの魔法だ。
【光学迷彩】
そしたらリリーは驚いたように
「どこよ!どこにいるのよ!」
そして俺はリリーの真後ろで囁く。
「ここだ」
「うわっきもっ!!」
「きもいっていうな」
「はぁ、降参。魔力もほとんどないし」
そしてすぐに反省会を始める。
「リリーの悪いところは特になしだな」
「ほんと?」
「あぁ、すべて完璧だったぞ」
「リリー嬉しそうね」
「嬉しくないわよ!」
と、ここでルーカスが
「そういえば、俺たちの時は得物が【星斬り】な上にアルテは受け流しが得意だから、攻撃しなかったのも理解できるんだが、なんで今回も攻撃しなかったんだ?」
「あー、なんていうか俺の攻撃魔法はゼロ百なんだよ」
「手加減できないってこと?」
「簡単に言えばそうだ」
「そこを詳しく教えてほしいわね」
「そうよ!教えなさい!」
「最低でも失明するか、身体のどこかを魔法が貫通するな」
「そ、そうなのね」
「そうだな」
「アルテ、ナイス判断だぜ!」
「使い勝手の悪い魔法ね!」
そうするとオリビアが
「覚醒者っていうのは皆こうなのかしら」
「確かに皆アルテくらい理不尽だったら戦争が起きても平気そうよね」
「俺も覚醒者になりたいな!俺は結局〈土〉魔法しか使えないし!」
「わからんな、会ったことないし。あとルーカス、固有魔法ってのは、魔法書が存在しない。だから自分の力で切り開いていくしかないんだ。かなり面倒だぞ」
「じゃあやっぱ嫌だ!」
「そっか」
「「なんか単純ね」」
と、ここで模擬戦は終了し、三人は帰ることになった
「じゃあ、またな」
「今日は楽しかったわ。ありがとね」
「しょうがないから、また来てあげるわ!」
「また会おうぜ!親友!」
「おう」
ルーカスとはいつの間にか親友になっていたらしい
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その夜
「アル、お茶会は上手くいったそうじゃないか」
「たぶん、上手くいったと思う」
「よかったわねぇ」
「お兄様、女と仲良くなったの...?」
「ん?ああ」
「チッ」
「ま、まぁとりあえず来年からの学園は問題なさそうだな!」
「そ、そうねぇ」
「そうだな」
そして食事の終わり頃、思い出したことがあり親父に問う
「なぁ親父、俺以外の覚醒者ってどんな感じか知ってるか?」
「少しなら知ってるぞ。覚醒者ってのはなぜか自由人が多くてめったに世に出てこないのだが、それでも何人か帝都の軍に所属しているからな」
「それで?」
「俺が知ってる奴は固有魔法≪反射≫を使ってたやつだ。本人曰く、大体の攻撃は反射できるらしい」
「ほほう。他は?」
「話したことはないのだが、≪浮遊≫と≪封印≫ってやつらだ」
「なるほど、よくわかった。ありがとう」
「おう、これでも国の重鎮だからな。また何か気になることがあったら頼ってくれ」
「ああ」
覚醒者は攻撃に向いていない者も結構いそうだな。攻撃に向いてるやつでも、それを使いこなせなければ意味はない。
この固有魔法≪光≫は、前世の記憶があり、尚且つ戦闘のセンスがある俺だからこそ使いこなせているわけだ。もしそこら辺の一般人が覚醒しても、ピカピカ光る程度にしかならないのは想像に難くない。
その後、風呂に入りながら
「やっぱり、他の覚醒者は当てにならない。そもそもどこにいるのかわからないし」
アルメリア連邦のやつらがいつ攻めてくるのかは知らないが、大体想像がつく。
「陸から攻めてくるなら、『帝蟲の巣』の氾濫に合わせてくるだろうな」
このカナン大帝国にもアルメリア連邦を含めた他国の間者が沢山紛れ込んでいる。そのためAランクダンジョンの氾濫という棚ボタを利用しないはずがないのだ。
「そろそろ戦闘にも慣れてきたし、『帝蟲の巣』を見に行くか。ダンジョンボスを討伐するのは確定なんだが、問題はダンジョンコアをどうするかだな」
ダンジョン内のモンスターが増えている原因がまだわからないので、慎重に対応しなければならないのだ。
「学園試験まで時間が無いし、サクっと終わらせるか」
そう、学園試験では実技を含めた全部の科目で一位を狙っている。なぜなら、試験で一定以上の好成績を残すと、その科目の単位が免除になるからだ。その空いた時間を使って帝国で最も蔵書数が多い図書館で勉強したり、エクスと帝都近郊のダンジョンにもぐったりしたい。
「俺のモットーは『自由』だからな」
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