第11話:【星斬り】はヤンデレ
暫く会話しながら歩き、侯爵軍の訓練所に到着。その間何人かの騎士や魔法師とすれ違った。
侯爵軍は総勢十万人もいる。しかし、このバルクッドに駐在しているのは大体二万~三万人程度だ。他は任務や他の都市の警備にあたっている。
逆に言えば、二万以上もいるのだ。そのため、訓練場も非常に広いし、数えきれないくらいある。
朝のうちに予約しておいてよかった。
「広いわねぇ」
「ここだけでもあたしん家の敷地より広いわ!」
「滾ってきたぜぇ!」
なんか一人興奮しているやつがいるが、放っておこう。
「あ、その前にアルテの剣見せてくれない?」
「あ~いや、別にいいんだが」
「どうして渋るのよ!」
「俺も見たいぞ!」
「自分でも変なこと言っているのは承知なのだが、今剣の機嫌が悪くてな」
「なによそれ、剣が生きてるみたいないい方ね」
「俺の剣は【星斬り】っていう名前なんだが、自分以外の剣を使うと高確率で拗ねるんだ」
「「「?」」」
「まぁ見せたほうが早いな。ほれ」
そういいながら、ドワーフのおっちゃんに作ってもらった鞘から星斬りをゆっくりと引き抜く。
すると、星斬りから膨大な魔力の奔流がマグマのように噴出した。三人が固まっているので、すぐに戻してから話しかける。
「な?」
三人はコクコクと頷く。そして何もなかったかのように
「さーて、じゃあまずは剣の模擬戦からだな」
「何もなかったかのように話を進めるんじゃないわよ!」
「そうだ!説明しろ!」
「そうね、私も聞きたいわ」
「説明することも特にないのだが。でもしいて言うなら、この前魔力をいっぱい込めたら、ああなったんだ」
「形も少し変わっているようだけど、元からああなの?」
「その時に形もちょっと変わった」
「変わったんかい!」
ツンデレ娘からツッコミを貰ったところで詳しく話すと、実はあの時尋常じゃないくらいの魔力を込めたのだ。それを光魔法に変換したらバルクッドなんて跡形もなく吹き飛ぶぐらいに。
その結果、【星斬り】という世界に一本のヤンデレソードが生まれたわけである。
このヤンデレソードは、模擬戦の際に少し他の剣を使うだけで拗ねるのだ。そういう日は依頼を受けて暴れまわったりして機嫌を戻すのだが、今日はその時間が無かった。
あれ?じゃあ模擬戦で少し振るってあげれば機嫌が戻るのでは?
「というわけで、やっぱり俺は【星斬り】で相手するからお前たちも自前の武器を使ってくれ」
「どういうわけよ...」
「やっぱりそうじゃなくっちゃな!!!」
「あたしは剣は普段使わないからパスするわ」
「さすがに怪我をしたらまずいから、身体強化は無しな。あくまで剣術の練度を見せてくれ」
「あ、あと俺は攻撃はしないからな。これは舐めてるとかじゃなくて、俺は身体強化を使わない場合、受け流しに特化した『柔の剣』を得意としているからだ」
まずは訓練場の真ん中でルーカスと向かい合う
「よし、いいぞ」
「おう!いくぜ!」
俺は戦いの脳に切り替える。
(頼むぞ、相棒)
と脳内で語りかけながら星斬りを鞘から抜く。
『もう!しょうがないわね!』
という意思が伝わってくる。
そして俺と星斬りは一体化する。身体強化を使っていないし、魔法的な効果も一つもない。ただ俺とこいつの魔力のパスを繋げるだけ。しかし、俺たちの中のギアが何段階もあがる。
「ふぅ」
深呼吸をし、五感と集中力を高める。
その瞬間、俺の体から自然と闘気が流れ出す。
「!?」
ルーカスが何やら動揺しているが、そんなのは知らん。もしかしたら俺のことを多少舐めていたのかもしれないな。実際同い年な上に、覚醒者って基本魔法師だし。
「う、うおぉぉぉ!」
ますはルーカスの歩みの速さ、ルーカスの足さばき、身体の軸と視線の動かし方で、何をしてくるのかを予測する。
これは左からの袈裟斬りだな。それにしては少し距離が離れすぎているので、振り下ろした後に逆袈裟斬りで右下からの振り上げを狙っている。
カキンッ。キンッ。
「やっぱりな」
お、次は力いっぱいの真上からの振り下ろしか。これはいい判断だ。技でダメなら力でごり押ししようというわけだな。潔くていい。
だがこれも
俺が右に一歩ズレて、最小限の力でルーカスの剣の一番力の籠っている場所に星斬りを合わせるだけ。
「!?」
「さすがに受け止めるのは嫌だぞ」
最初に言ったじゃないか、俺は受け流しマンだって。
そのまま暫く剣戟が続き、ついにルーカスは諦めた。
「こ、降参だ。ハァハァ」
「ハァハァって、興奮しているのか?」
「疲れてんだよ!!!」
俺とオリビアはボケで、リリーとルーカスはツッコミに特化しているのかもしれないな。などと余計なことを考えていると
「なぁ、アルテって覚醒者で魔法師なんだろ?しかもSランクのエクスもいるのに、なんで剣術まで化け物なんだよ!」
「自己紹介で『剣術も多少は嗜んでる』っていっただろ」
「多少ってレベルじゃないだろ...」
「まぁアレだ。俺にとって剣術は趣味なんだ」
「そっか、趣味なのか。なら仕方がないな」
と適当なことばっかり言ってるとついに護りに特化したルーカスが折れた。
「あ~あ、ルーカスが折れちゃったわね」
「折れたっていうか壊れてるわ、あれ」
「でもいい剣だったぞ。ちょっと素直すぎるところがあるが、それでも普段の努力が垣間見えた。それに今回は盾もなかったからな。本来の力じゃない」
「おう!」
ルーカスは笑顔で喜びながら返事をした。素直なのはいいことだ。
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「よし、温まってきたところで次はオリビアだな」
「絶対に一撃食らわせてやるわ」
「もし怪我したら、あたしが治癒魔法かけてあげるからね!」
(うふふ、どさくさに紛れてアルテの腹筋とか触ってやるんだから!)
「頑張れ!オリビア!」
「俺も応援してるぜ!」
なんかリリーがどす黒い笑みを浮かべているが、見なかったことにしよう。
そして
「さぁ、こい」
「相変わらず、凄い闘気ね」
オリビアは、すぐに突進せずに、不思議なステップでちょっとずつ刺突攻撃をしかけてきた。このレイピアの波状攻撃はどこかで見覚えがあるな。
傍から見れば凄い猛攻だが、オリビアは全然本気を出していない。
あ、思い出したぞ。Bランクくらいの地竜と戦った時のことだが、あいつは尻尾にある棘を飛ばしてきたんだ。一瞬で再生してすぐに飛ばしてくるのだが、こちらが隙を見せた途端、倍の力で本気で棘を飛ばしてきたのだ。あんなおっとりした感じなのに、とても性格の悪い攻撃をしかけてきた。
まぁ結局すぐ討伐して俺とエクスの防具になったのだが。
というわけで、これは俺が隙を見せるまで本気出さないのだろうな。ならしょうがない。
俺はわざと受け流しを失敗して、星斬りを大きく弾かれたフリをした。(離してはいない)
するとオリビアはニヤッとして、本気で刺突をしてきた。
星斬りは俺の右側に大きく弾かれた。
そのためオリビアは剣と一番離れた左肩を狙ってきた。
しかし当たる瞬間、俺は両足をカクっと折ってレイピアを潜るように躱す。
そして真上にあるオリビアの右手を掴んで、そのまま星斬りを下から首元に突きつけた。
「くっ。降参よ降参」
「オリビアは性格が悪いな」
「なっ、なによそれ。普通は褒めるところじゃない?」
「オリビアは地竜と一緒だな」
「なんか私貶されてる?」
「いや、褒めてるぞ」
「まぁいいわ、はぁ」
「あ、あのオリビアが折れたぞ!」
「折れたっていうか壊れてるわ、あれ」
さっきも聞いたようなやり取りをしている。俺は普通のことを言っているつもりだ。やっぱり変わっているな、あの三人は。
「てなわけで、反省会をしようか」
「イェーイ!」
「反省会ねぇ」
「あたしも気になる!」
「まずはルーカスだ。ぶっちゃけ、最初俺の事舐めてたろ?その時点でお前の負けだ」
「だって、アルテの本業は魔法だと思ってたんだからしょうがないだろ!それに『俺は攻撃はしないから』とか言ってくるし...」
「じゃあこの殺る気満々のヤンデレソードで攻撃してもよかったのか?」
「それは嫌だけど...」
「というかあんた『閃光』の噂知らないの?」
「え?噂って?」
「『閃光は星を斬る』って」
「え?それはレアな剣を手に入れたからじゃないのか?」
「聞いた話だと、十二歳の頃にSランクモンスターの首を一瞬で飛ばしたって」
「ほ、本当か?アルテ」
「ああ」
「それを早く言えよ!!!」
「だって聞かれてないし」
「まぁ確かにそれなら仕方がないな」
「そうだな」
「ルーカスあんた急に折れるのが早くなったわね」
なんて会話をしていると、オリビアの視線がこっちに向いた。さっさと反省会を進めてほしいようだ。
「じゃあ次はオリビアだ」
「お願いするわ」
「オリビアは最初全然本気出してなかったろ?」
「「え?そうなの(か)?」」
「えぇ、そうね」
「その時俺は、隙を見せないと進まないなと思って、わざと失敗したフリをした」
「要するに私は誘い込まれたってわけね」
「そうだな」
「で?地竜って何なの?」
「昔討伐した地竜が同じような戦い方をしてきてな」
「地竜って、あのおっとりした感じの竜よね?」
「ああ、あのおっとりしたやつだ」
「はぁ、なんかアルテと話していると気が狂いそうになるわ。それ素でやってるの?」
「ん?ああ」
「はぁぁぁぁ」
なぜか溜息を吐くオリビア
「オ、オリビア...」
「なんだか可哀そうになってきたわ...」
なんだか見ていて面白いな、この三人は。
「やはりお前たち三人は変わっているな」
「あんたよ!!!!!!」
「お前だよ!!!!!」
「あなたでしょ!!!!!」
「?」
そして俺たちは、リリーの模擬戦の前に、昼食を取ることにした。
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