第10話:≪ツンデレ≫属性の魔法師

今日も朝から親父と剣戟を交わしていた


「アルは強くなったなぁ!ほら、もっと俺を追い詰めてみろ!」


「くっ。このクソジジイめ!」


「ハッハッハ!俺はまだ三十七だ!」


このクソジジイは普段の一人称は「私」なのだが、剣を持つと昂って「俺」になる。

 前世でいう、車に乗ると人格が変わるタイプの凶悪ジジイなのだ。


 親父はこれでもアインズベルク侯爵家歴代最強で、剣術だけなら大陸でも五本の指に入る。親父の剣術の真骨頂は『護りの剣』だ。二年前のヴァンパイアベア討伐戦で、親父が最後まで盾となり味方を守れていたのも、これのおかげだ。


アインズベルクでは他国の侵攻を止めることが一番重要なのである。二メートルはある体格と圧倒的な力を持つ親父の護りは、この俺でも崩すことは難しい。(魔法を使わなければ)


ちなみに、俺の得意な剣は圧倒的なスピードと攻撃力を活かした『攻めの剣』と受け流しに特化した『柔の剣』だ。攻めの剣を駆使しても、高ランクの魔物を相手にしていると反撃を食らうことがある。


 そして考えてみてほしい。五メートル以上の巨体を持つモンスターの攻撃をいちいち受け止めていられないのである。というか普通に吹っ飛ばされる。そのため、上手く力を受け流す方が効率が良いのである。


 親父は隙を見つけて反撃してくるが、それをすべて受け流す。普段から光速思考でいじめている俺の目は、きちんと鍛えられているので、舐めてはいけない。


お互い攻めきれずに終わると


 黒龍騎士団の皆が拍手をしてくれた。



「「「お見事!」」」


「閣下、お疲れ様です」


「アルテ様も十四歳でこれほどの剣術を修められるとは、さすがですな」


「アルテ様は魔法師としても超一流ですからな、それを忘れてはいかんぞ皆」



などと褒められると、恥ずかしいのだがもう慣れた。


 そこにケイルが来て


「アル様、お疲れのところ申し訳ございませんがあと数時間で例のアレがあります」


「そうか...ついに例のアレが来てしまったか」



というやりとりをしながら侯爵邸に進むと、相変わらずエクスがゴロゴロしていた。

この侯爵邸の庭は、一日で回り切れないほど広いのでエクスも特に不便にはしてない。



そんな庭の一角に花が美しく咲き乱れる場所がある。ここが決戦の場所、お茶会広場である。俺が唯一嫌いな場所でもある。(毛嫌いしているだけ)


遠くを見れば、呑気にエクスが散歩をしていた。そう、この侯爵邸は俺の赤外線トラップがいたるところに仕掛けられ、Sランクモンスターがブラブラしており、尚且つ優秀な衛兵が巡回しているという戦力オーバーな家なのだ。



時は少し経ち


「アル様、皆さまがお見えになりましたぞ」


「迎えに行くか」



===========================================


「あなた達、お久しぶりですね」


「オリビアも久しぶりね!」


「久しぶりだな!二人とも!」



そう。アル以外は普通に知り合いなのである。(当たり前)

三人は四年の付き合いがあるので、仲は良好。オリビアとリリーに関しては親友だ。



「あたし、このタイミングでお茶会の誘いが来たのにビックリしたわ」


「そうねぇ。リリーはずっと楽しみにしていたものね」


「そうだな!がっはっは!」


「ちょっと!楽しみになんかしてないわよ!」


「そうか、それはすまなかったな」


「「「!?」」」



三人とも俺の気配に全く気付かないもんだから、俺から声をかけてしまった。

 そして気づいてしまった。この三人の中に一人、とんでもない逸材が紛れていることに。なのでアルは自然と呟いてしまった。


「まさか...いや、でも...」


緊迫した空気の中、ここでオリビア譲が空気を読み


「何かお気に障ることがありましたか?」


「いや、なんでもないぞ。心配かけたな」


「そうですか」


皆が安堵したところで、お茶会場に進む。



目的地に到着し、皆が着席したところで開口一番



「別に皆タメ口でいいぞ」



そう言うと、皆ビックリしていた。まったく俺を何だと思っているのか。



「俺は【アルテ・フォン・アインズベルク】だ。趣味で冒険者をしている。今日は参加してくれて感謝する。それと、アルテと気軽に呼んでくれ」


「私は【オリビア・ブリッジ】よ。よろしくね」


「あたしは【リリー・カムリア】。よ、よろしく!!!」


「俺は【ルーカス・パリギス】だ!よろしくな!」


お茶会では、事前に相手の爵位などの情報を持っておくことが鉄則なので、とくに爵位を述べたりはしない。



 ちなみに、今更だが俺は「短めのウルフ黒髪・高身長・細マッチョ」だ。また顔立ちは両親の血をしっかりと引いているので、整っている。


オリビアは「銀髪ロング・高身長・モデル体型」。ちょっと目線がキツい冷たいご令嬢だ。マゾッ気のある男子ご用達である。


ルーカスは「ツーブロ赤髪・高身長・ギガマッチョ」だ。こいつは親父と同じ匂いがする。そしてなにより俺よりもデカい。


リリーは「金髪ロール・低身長・普通体型」。そして伝説の≪ツンデレ≫属性である。この属性は、覚醒者よりも貴重な存在だ。さっき初めて会ったときに、もしやと思って動揺してしまった。

 ツンデレ属性は過去に沼にハマってしまった何人もの男共を亡き者にしてきたレベルで危険なのだ。俺も警戒しておこう。




「そういえば、三人は仲がいいらしいな」


「そうね。幼馴染といったところよ」


「オリビアとはよく買い物に行ったりするわ」


「俺は買い物に行ったりはしないが、二人とは気軽に遊べるぜ」


「そうか、では皆の特技を教えてくれるか?」



「じゃあ私から説明するわ。私は〈風・土〉魔法が使えるわ。剣も嗜んでいて、レイピアを使っているの。典型的な魔法剣士ってところね」


あたりまえのように言っているが、実は魔法と剣を両方修めることは難しく、魔法剣士と名乗れるものの絶対数は少ない。オリビアは優秀だ。それも攻撃的な魔法剣士として。



「次はあたしね。あたしは全属性使えるわ。でも剣はあまり使わないの。その代わり無属性魔法も大体使えるわ」


今の若い世代で全属性が使えるのは妹のレイくらいだと思っていた。でも思い出した。俺の代にも一人存在し、これまた騒がれたのだった。俺は覚醒者になり前世の記憶を取り戻した直後だったのでそれどころではなかったのですっかり忘れていた。やはりアインズベルク侯爵領の周りは、土地柄、優秀な遺伝子でも引き継いでいるのだろうか。それに伝説のツンデレ属性持ちだ。最強である。



「じゃあ最後は俺だぜ!!俺は〈土〉魔法が使えるんだ。でも剣術のほうが得意で、盾と長剣を使った型でやらせてもらってる!」


「もしかして、護りが得意か?」


「そうなんだ、よくわかったな!」


「いや、心当たりがあってな」



あぁ、やっぱりうちの凶悪ジジイ型だ。ジジイと違って盾を駆使するそうだが、それでも根は一緒だ。そんな感じがする。



「それで、皆の魔法のレベルはどのくらいだ?」


「私は両方中級まで使えるわ」


「あたしは全部上級まで使えるわね!今超級を練習しているところよ!」


「俺は初級までだ...」



「凄いじゃないか。それにルーカスも落ち込むことはないぞ。うちの親父も護りの剣の型だが、学生時代は初級しか使えなかったらしいぞ。もっとも今は上級まで使えるらしいが。それに剣術の真骨頂はやはり身体強化の練度だと思うぞ」


「あの『鬼神』様が?ちょっと元気が出てきたぞ!」


「そうだ、目指せ凶悪ジジイだ(ボソッ)」


「ん?何か言ったか?」


「いや、何でもない」




そんな会話が続き、休憩を挟んで紅茶を挟んでいた時


「アルテの自己紹介ってまだ聞いてないわよね?」


「「あ、たしかに」」


「うっかり忘れていた。別に無くてもよくないか?」


「ダメよ!あたしたちだけなのはズルいじゃない!」


「そうだぞ!」



「それもそうだな。俺は一般的な属性魔法は使えない。でも≪光≫属性の固有魔法が使える。あと剣も多少は嗜んでいるな。まぁそんな感じだ」



「な、なんか適当ね」


「実はあたし、何年か前にバルクッドに来た時にアルテが大きい黒馬に乗ってるのを見たんだけど、あれはたぶん魔物よね?」


「あ、俺も子爵領で吟遊詩人が詩っているのを聞いたぞ!『閃光』は伝説の『深淵馬』を従えるって!」


「それ私も聞いたことがあるわ」


「あぁ、それはエクスのことだな」


「「「エクスって?」」」


「俺の相棒だ。実際に呼んだほうが早いな」


「「「呼ぶ?」」」


「おーい。エクスー」


エクスはSランクなのもあって、五感が圧倒的に優れている。なので普通に呼ぶだけで来てくれるのだ。


するとすぐに


「ブルル」


「「「!?」」」


「この人たちは、俺の友人だ。顔を覚えておいてくれ」


「ブルルル」


と、エクスの美しく長い鬣を撫でながら話しかける。



「こ、これが伝説の『深淵馬』なのね、美しいわ...」


「でっか...」


「やっぱSランクは伊達じゃないな!覇気があるというか、ピリピリするぜ!」


「それはエクスが〈雷〉魔法を使うからだな。体から魔力が溢れているのだが、その余波だ」


「そうなのね...」


「もういいぞエクス。ありがとな」


「ブルル」



 なんて会話を終えるとエクスは少し離れた場所で、ぐでーっと寝転がってゴロゴロと日向ぼっこを始めた。



「なんか自由な奴だな」


「そうか?いつもあんな感じだぞ?」


「従魔は主に似るってよく聞くけど、こういうことなのね」


「な、なんか可愛いわね///」



と三者三様の反応を見せた



「そういえば、エクスとはどこで出会ったの?」


「そこらへんで拾った」


「「「そこらへんで拾った?」」」



テール草原でボロボロのエクスを拾った時のことを思い出し、感傷に浸る。



「な、エクス」


「ブルル」



エクスもあの時のことを思い出したようだ。



「ま、そんなことは置いといて」


「そんなことってあんた...」


「そろそろ手合わせでもするか」


「そうね」


「そうだな!」



忘れてはいけない。自己紹介からわかるように、俺たち全員武闘派なのだ。それに、俺自身同い年のレベルがよくわかっていない。ここにいる三人は恐らく同年代ではトップクラスなので、実際に戦ってみることでその指標が大体わかる。来年の学園試験において、これほど役立つ情報はない。



ちなみに俺は学園試験に全力で臨む。それには理由があって、それは後々説明するとしよう。



「暇そうだし、エクスもいくか?」


「ブルル」


「そうか」



ここで暫く昼寝するらしい。



こうして、エクスを除いた俺たち四人は侯爵軍の訓練場に向かうのであった。


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