鈍感ハーレム主人公から、ハーレムを奪われるのを目の当たりにした

青猫

本編

……俺は今、とんでもないものを見ている。

俺の目の前では、俺の親友と妹がどう考えても友人の距離じゃない近さでソファーに座っている。

そして、いちゃいちゃとプリンを食べさせあっているではないか。




……おい、妹よ。

そのプリンの片方は、俺、北川雄也のヤツではないのか?




東道奏斗——奏斗は、俺の大親友とも言うべき存在であり、俺が一番うらやましいと思っている人間の一人でもある。

俺の義理の妹、深優とは、俺つながりの幼馴染で、自称帰宅部の主将だったはず。




俺が、こいつをうらやましいと思っている理由は、そのハーレム体質故である。

こいつの周りには、とにかく美少女があつまる。

……まぁ、こいつが凄くいい奴だからっていうのもあるのだが。


うちの学校の生徒会長であり、その冷徹さと眼光から、『南極のエリアボス』という二つ名が付いているが、奏斗の前ではデレデレな谷崎生徒会長。


うちのクラスメイトであり、誰とでも仲良くなってクラス全員と一度は遊んだことがあるというオタクギャルで、奏斗とはゲーム友達の九石。


その九石の親友でありながらも、あまり人と会話するのを好まず、いつも九石と本の話題で盛り上がっているのを目にする本の虫で、奏斗とは読書友達の羽積。


隣のクラスで、男子より告白された数が多い人間として名を馳せ、バスケ部のエースとして文武両道を地で行くイケメン女子だが、奏斗には好意全開の純浦。


とりあえず、奏斗と距離が一番近しい女子だけでもこれだけだ。

俺から見ても奏斗はかっこいいと思う。困っている人がいたら、迷わずに助けようとするし、そうして助けた女性も、この中にはいる。

……できるなら、俺が嫁になりたいぐらいだ。

そんぐらい、奏斗はいいやつだし、モテる。




……いや、距離が近いと言えば深優もそうなのだが、普段からあんまり奏斗を気にする様子も無かったし、俺が深優を今更かわいい妹以外の目で見れないのと同じように奏斗も兄枠として見ているものだと思っていたのだが……。




「マジか……?」

「あ、お兄ちゃん、帰ってきたの?」

「あ、あぁ、今帰ったが」

「お、雄也、おかえり」

「あ、あぁ、奏斗、これはいらっしゃいなのか?それともただいまなのか?」




俺は、妹と親友がいちゃいちゃしている光景に呆然としている。

いや、この二人がくっつくとは、まるで思ってなかったし。

俺は、おそるおそる二人に質問する。




「あ、いや、すみませんが、お二人のなれそめは?」

「さっき監禁しようとした」

「さっき告白された」

「OK貰った」

「まじかよ」




やるなうちの妹。

監禁とかいう不穏なワードが飛び出したが、まぁ、一旦おいておこう。

この妹はたまに突拍子もないことをするのだ。

思えば、それに一番振り回されてきたのも、俺と奏斗だった。



深優が小さい頃、大雨の日に、『今どれくらい雨が降ってるか知りたい!』とか言って大雨の中コップ持って外に飛び出して行った時もあった。


俺の秘蔵のBL本が見つかった時、『お兄ちゃん、この体勢やってみて!』とか言われて奏斗と二人で悲しい絡み合いをやった時もあった。


宇宙人のアニメ見て『私も宇宙人と友達になる!』とか言って怪しげなサイトの意味不明な儀式を三人で10時間ぶっ続けでした時もあった。



そんな破天荒な妹なら、監禁ぐらい普通にやるだろう。

だから、その言葉をスルーする。




そして、二人の話をきっちりと聞いていくと、「なるほど……!」と納得してしまった。



深優は、ド直球に告白したそうだ。奏斗に。



奏斗は、欠点が非常に少ないスゴイ奴だが、その数少ない欠点の中に、「超鈍感」というのがある。



どう考えても、奏斗の周りの女子は、奏斗の事が好きなのに、それを『雄也が好きなんだ』とか言って、気づいてないのがいい例だ。



そのせいで、俺は何故か、奏斗から彼女たちと二人っきりのシチュエーションを用意されるのだ。



……そして、大概その時間の7割は無言のまま終わる。

友達の友達は、友達とは言い切れないのだ。


九石さんとかは、俺に奏斗とかへの愚痴を言ってきてくれたりする分まだマシで、

生徒会長とか、俺と二人きりになると、完全に無言だから、マジで死ぬ。雰囲気が。

いたたまれない。



そんな訳で、超鈍感ハーレム主人公な奏斗君は、女性からの好意に全く気が付かない。

だからこそ妹のやった、直接の告白は一番効果覿面という訳だ。

いくら鈍感でも、目の前で好きといわれりゃ、そりゃ気づくだろう。

それでも気づかないなら、多分呪われてる。


そしてその妹の勇気ある行動の結果が、今の目の前の光景という訳だ。



「とりあえず、おめでとう」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

「ありがとう、お義兄ちゃん!」



奏斗が深優とは全く違うニュアンスで同じセリフを吐く。

……そっか、これで大親友の奏斗は義弟になったわけだ。

いや、最高の状況じゃね、コレ?

俺としては、棚から牡丹餅レベルなんだけど。

妹の相手として、奏斗はモテるという一点を除いて、最高の人物だ。

俺は奏斗と兄弟という立場で仲良くできるのだ。



「妹よ、よくやったな!」

「でしょ!」




奏斗のハーレムチャンスは、深優に奪われちゃったのか。

奏斗も知らないうちに。

この状況に名前を付けるとしたら、『鈍感ハーレム主人公から、ハーレムを奪ってみた』って感じか。

めっちゃウケるんですけども。

どう考えてもNTRジャンルの話じゃん。




俺はそう思いながら、もう一個プリンを買いに外に出た。

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鈍感ハーレム主人公から、ハーレムを奪われるのを目の当たりにした 青猫 @aoneko903

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