第38話 約束
「そ、そそ、そこじゃなくないですか⁈ 全部話してもらっていたとしても、はい、そうですか、なんて言える状況じゃありませんけど⁈」
「恵慈……羽衣にそんなこと言っても無駄よ。羽衣はちょっとズレてるの。ま、それは私たちもそうだと思うけど」
愛歌がため息をつく。
「羽衣は全部相談してほしかったの‼」
「……相談したら……はい、そうですか……とはならないよね……?」
「なるよ‼ 友達だもん‼ 羽衣は綺心ちゃんのお手伝いするよ‼」
「え、ええ……」
「ちょっとは羽衣たちのこと、信じてよ‼」
綺心は羽衣の勢いに押されて困惑している。
「え、えっと、じゃ、じゃあ……全部分かったうえで、まだ僕に協力してくれるのかい?」
「もちろん‼」
「ほ、本気で言っているのかい? 僕の味方をするってことは、神の敵になるということだよ?」
「私たちの逃げ道をなくしておいて、なにを今更そんなことを」
呆れたように言ったのは愛歌だ。
「私たちは今更、首に味方します。なんて言えないでしょう」
「……それはそうだね」
「芽児のためなら私はなんでもかまわない。神を敵にするなんて、怖くもないわ」
「……わ、私は……」
恐る恐る口を開いたのは恵慈だ。
「な、なんか、知らない間に巻き込まれていますけど……み、皆さんのためなら……頑張ろうって思います……」
「いいのかい? ジェレミエル。君は七大天使になりたかったはずだ」
「……私、弱虫を治したいだけなんです。皆さんと一緒にいたら、私、強くなれる気がするんです……」
すると、恵慈がキュッと拳を握った。
「か、神を敵にしてもかまいません‼」
「じゃ、決まりでいいネ?」
これまでずっと黙っていた輝星が口を開いた。
「チャミエル……君は最初からすべてわかっていたんだろう?」
「ふふん。そうだヨ! 面白いものを見せてくれてありがとう、ハニエル。普通なら、君はここにいる三人にいまここで殺されてもおかしくないのにネ?」
「そうだね。チャミエル。僕は運がいい。ところで、エンジェリックたちはずっと黙っているけれど、いいのかい?」
「今更何を言うの、ハニエル」
グレイシスが口を開いた。
「エンジェリックは天使たちと表裏一体。天使が決めたことがすべてよ」
「ジェレミエルがいいというなら~僕もかまわな~い」
「ルックは全部わかっていたヨ!」
「……サンダルフォンに従うよ」
レオだけが大きくため息をついた。
「俺がなにを言ったって、羽衣が聞かないことはよくわかってんだ。もう、諦めたぞ」
「レオ~! 大好き!」
「うるさい、うるさい‼ くっつくな‼」
羽衣に飛びつかれ、レオが羽衣の手から逃れようと暴れる。その様子を見てグレイシスが呆れたように息をつき、綺心が苦笑した。
「と、まあ、啖呵を切ったのはいいけれど、結局私たちはなにをすればいいのかしら」
「戦争の合図はメタトロンが出してくれるさ。僕たちはメタトロンを首の元まで守り切ればいい」
「誰から?」
「四大天使と、神に支配された天使たちから」
「そうね。それまで、殺されないようにしなくちゃ」
「ひっ……⁈ ぶ、物騒なこと言わないでください……‼」
「事実よ、ジェレミエル。いつ殺されたっておかしくないんだから」
「あ、そろそろママが帰って来ちゃうかも」
「おや。それじゃ、そろそろおいとまするべきカナ?」
「……僕が言うのもなんだけど、君たちは本当に緊張感がないね……」
三人は羽衣に促され、玄関へと向かった。軒先で振り返り、三人が羽衣に手を振る。
「それじゃあね、羽衣」
「次会うときは神との戦争かしら」
「お、お互い死なないように気を付けましょうね……」
「くれぐれも気を付けてネ。羽衣。君は危なっかしいからネ!」
「うん! また学校で会おうね!」
羽衣が嬉しそうに三人に手を振り「あ!」となにか思い出したように声を上げた。
「あのね! 羽衣、みんなにお願いがあるの!」
「なんだい?」
綺心が優しく問いかける。
「全部終わったらね、みんなでお泊り会しよう!」
羽衣の一言に三人がキョトンとする。最初に笑い出したのは輝星だった。
「あはははは! 君は私も予測できないことをホイホイ言ってくれるネ! 羽衣!」
「あれ? 羽衣、変なこと言った?」
「これから創造主に牙を剥こうというのに、呑気なものねぇ」
「……お泊り会……」
恵慈はどこか目を輝かせていた。
「僕は大変な天使たちを仲間にしたみたいだ」
「最高だネ! ハニエル! 私はこれから先を見てしまうのが惜しくなって来たヨ!」
「ええ……⁈ だ、ダメかなぁ……」
羽衣が悲しそうに呟く。すると、綺心が羽衣の前にやって来て、羽衣の手を取り、小指を絡ませた。
「いいよ。羽衣。約束する。僕は君の友達だからね」
綺心の言葉に羽衣がパッと目を輝かせる。そして「うん! 約束!」と綺心と指をきった。
「微笑ましいわねぇ」
二人の様子を見ながら愛歌が呟く。恵慈も嬉しそうに「そうですね」と微笑んだ。
輝星だけがふいに、振り返って後ろを見た。
「チャミエル?」
気が付いた愛歌が輝星と同じく振り返る。そこには、見慣れない少女がいた。
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