第37話 友情
メタトロンによる『神殺し宣言』は瞬く間に天使に広まり、天使たちの大混乱を巻き起こした。天使はメタトロンを支持する者、神を崇拝し続ける者に別れ、七大天使争奪戦争は、メタトロンと神の軍勢による大戦争へと姿を変えてしまった。
「……聞いてるか。羽衣」
自室のベッドの上で、羽衣は毛布に包まり、膝を抱えて小さくなっていた。レオがその隣に座り、険しい表情を浮かべている。
「七大天使争奪戦争どころの話じゃなくなっちまった。四大天使ウリエルの消滅……羽衣、大変なことに巻き込まれてるぞ……俺たち……」
「……わからないよ……」
羽衣の声は震えていた。
「羽衣、もう、わからない……」
「羽衣……」
「羽衣~?」
部屋の扉を開け、入って来たのは羽衣の母親の柴乃だ。
「体調大丈夫? お母さん、ちょっとお買い物に行ってくるわ。なにか食べたいものある?」
羽衣が首を横に振り、柴乃が「そう……ちょっとだけお留守番しといてね」と部屋を出て行く。柴乃が部屋を出て行くと、羽衣は毛布から顔を出した。
「……ママに嘘ついちゃった……」
「仕方ないだろ。四大天使に目を付けられてる状態で学校なんて言ったら恰好の的だ。しばらく大人しく……」
その時、玄関のチャイムの音がした。
「……お客さん?」
「あ、ちょっと待て! 羽衣!」
レオが止めるのを無視して、羽衣は部屋から出ると、玄関に向かい、扉を開けた。
「やあ」
そこに立っていたのは、私服の綺心だった。
「綺心ちゃん?」
「私たちもいるわよ」
「やっほー! 羽衣!」
「こ、こ、こんにちは……」
綺心の後ろから顔を覗かせたのは愛歌と輝星と恵慈だ。三人のエンジェリックも一緒に付いてきている。
「全員、もれなくサボりよ」
愛歌が苦笑する。すると、羽衣は靴も履かずに玄関から飛び出し、綺心の両肩をガシッと掴んだ。
「説明して‼」
綺心が少し目を見張り、暗い表情を浮かべると「わかってる」と呟いた。
羽衣は三人を自分の部屋に通した。恵慈は困惑した様子で終始オロオロしており、愛歌もどこか表情が険しい。輝星だけはずっとコニコしており、楽しそうだった。羽衣はベッドに座り、三人の注目を浴びている綺心が口を開くのを待っていた。
「まずは、謝らせてほしい」
綺心は険しい表情で口を開いた。
「僕は最初から君たちを騙していたよ」
「でしょうね」
愛歌が呆れたようにため息をつく。
「謝罪が欲しいわけじゃないわ。そもそも天使の共闘関係なんておかしな話よ。説明が欲しいの。そうでしょう、羽衣」
「うん」
「……耳が痛いな。わかったよ。全部説明しよう。潮時だしね」
綺心が小さく息をつき、話し始めた。
「僕たちの目的は最初から、唯一神、首を殺すこと」
「へ⁈」
声を上げたのは恵慈だ。輝星は話を聞いているのか聞いていないのか、羽衣の部屋でくつろいでいる。愛歌は「いまさら?」と呟き、人差し指を立てて恵慈に黙るように指示した。恵慈が慌てて口を塞ぐ。
「首を殺し、大天使メタトロンを新たな神にする」
「なぜ?」
問いかけたのは愛歌だ。羽衣はずっと黙っている。
「すべての存在意義が首であるはずの天使が、なぜ首に反逆できるの?」
「メタトロンは人間上りの天使。首が作った存在じゃない、というのが大きいね」
「違うわ。ハニエル。あなたの話よ。私だって人間上りだもの。メタトロンのことはあなたよりわかる。でも、あなたはわからない。あなたは首に作られた天使よ」
「答えはいつだって至極シンプルだと思わないかい? サンダルフォン」
綺心が笑った。
「僕は首が嫌いさ」
愛歌が目を見張る。恵慈は顔面蒼白だった。
「……それがおかしいと言っているのだけど……」
「なぜ? 自らが作り出した者を軽視し、軽蔑し、要らないと切り捨てる。僕たち天使は神のために生きているが、神は天使を救わない。僕たちはなんのために生き、殺し合う? すべて、無意味だ」
うつむき、黙り込んでいた羽衣が綺心を見た。
「僕はすべての天使を救いたい。そして、メタトロンは僕たちを救ってくれる。それだけの話さ」
「羽衣と友達になってくれたのは、嘘だったの?」
羽衣の問いかけに、綺心が少し目を見張り、険しい表情を浮かべて首を横に振った。
「嘘じゃない。でも、騙してはいた。君たちに共闘関係を持ちかけたのは、メタトロンの力を大きくするためだった」
「つまり、そもそも巻き込む気満々だったと」
「……」
「私たちはなにも知らないまま巻き込まれて、四大天使に目を付けられて、反逆者の仲間だと思われているわけね?」
「……その通りだね」
「そんなぁ⁈」
恵慈が声を上げる。愛歌が「当たり前でしょ」とため息をついた。
「四大天使……そしてその側近の天使にも命を狙われているね。羽衣に至ってはラギュエルが血眼になって探しているだろうし……四大天使も黙ってない」
「……結局、光ちゃんを殺したのは羽衣?」
綺心が首を横に振った。
「いいや。殺したのは僕。僕は君の力を借りただけさ」
「……」
羽衣が酷く不服そうな顔で綺心を見つめる。綺心は困ったように笑い、不安そうに口を開いた。
「僕のこと、嫌いになったかい?」
「……違うよ」
羽衣がベッドから降り、綺心の前に座った。そして、綺心の手を取る。
「羽衣は、綺心ちゃんが全部隠してたのが嫌なだけ」
「隠してた?」
「なんでなにも教えてくれなかったの? 友達なのに」
羽衣が頬を膨らませる。綺心はキョトンとしていた。
「そこなんですか⁈」
声を上げたのは恵慈だ。
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