第23話 首の降臨
下界と呼ばれる、人間たちが住む世界の空の上のさらに上にある場所。そこは、この世界の唯一神が住まう、天界と呼ばれる、人間は決して立ち入れない世界。
天界の神の御前に、天使が四人、揃っていた。
四大天使と呼ばれるその天使たちは、大天使ミカエルを中心に、神の降臨を待っている。一番右端にいるのは大天使ウリエル。太陽のような黄金の髪は短く、金色の瞳を持った、小柄な少年のようにも見える。二対四枚の羽を背中に持ち、白いショートパンツに袖が広がった淡い水色のブラウスを身に着け、胸元の空色のリボンはとても大きい。ウリエルの隣にはラファエルが立っている。
中心のミカエルに寄り添う形で立っているのは大天使ガブリエル。透けるような水色の長く真っすぐな髪と、煌めく水面のような青い瞳を持つガブリエルは、白いマーメードドレスの上から淡い青色の布を身に纏い、頭から青いヴェールを被っている。四大天使の象徴である二対四枚の羽はウリエルとラファエルよりも大きい。
そして、中心に立つ天使こそ、天使たちの頂点、四大天使ミカエルだ。緩くウェーブし、ハーフツインに結んだ桃色の髪は、毛先に駆けて金色のグラデーションがかかり、光を反射してキラキラと輝く。ピンク色のミニドレスの上から金色の薄い布を身に着け、頭に黄金の冠を付けたミカエルは、光を反射する美しい桃色の瞳でじっと天を見つめていた。この世のものとは思えない、美しい顔には険しい表情が浮かんでいる。
四人の天使は頭上の天から、神が降臨するのを待っていた。
「おっまた~」
気の抜けるような声と共に、天が光り輝き、神の降臨を告げた。四人の天使が天を仰ぐ。
「ごっめ~ん、待った~? 待ってないよね? いま来たよね?」
「……全員、いま来ました。首よ」
「だよね~」
ミカエルが答えると、首は満足げに言った。
「や~、お疲れ、お疲れ~。下界はどう? 楽しんでる?」
「特に問題はありません」
「ちょっと、硬いなぁ、ミカエル~。もっとフラットに行こうぜ☆」
「首の御前ですので……」
「も~! 四大天使は仕事できるけど硬いんだからぁ!」
「申し訳ありません」
「まあ、別にいいけどぉ?」
「首よ。少しよろしいですか?」
口を挟んだのはラファエルだった。
「お! ラファエル~。どしたの?」
「七大天使の残り三席は、いつになったら決まるのでしょう?」
ラファエルの言葉に、残りの三人の天使がラファエルを見た。ミカエルは険しい表情を浮かべている。ラファエルはただ黙って神の返答を待ち、少しの沈黙が流れた。
「え。決める必要ある?」
返って来たのは、気の抜けるような答えだった。
「べつに良くない? いまんとこ、困ってないじゃん?」
「下界の天使たちは七大天使になるために殺し合っておりますよ」
「ああ。僕が命じたんだっけ? そんなこと言ったわ~。だって、ルシファー堕天すんだもん」
「残り三席はお決めにならないのですか」
「だって、四大天使以上に功績上げる天使いないじゃん」
神はどこまでも無頓着な様子だった。
「いまは良くね~? 強い天使以外いらな~い。あ、てか、メタトロンはいつになったら戻ってくんの?」
神の言葉にウリエルが一瞬顔をしかめたが、すぐに戻った。
「待ってんのに全然現れないのどいうこと? せっかく人間から天使にしたのに、ルシファーのせいで下界に堕とさなきゃでさ~。あ~、まじ、誰か早くルシファー殺してよ」
「メタトロンなら見つけ出しましたよ」
「まじで⁈ さっすがラファエル! で? 戻って来る?」
「わかりません。七大天使争奪戦争が終わらねば、戻らないのではないでしょうか」
「はぁ~? めんど……ちゃっちゃと適当に決めるかぁ~? でもなぁ~」
「メタトロンの妹はどうするのですか?」
「サンダルフォン? ああ……まあ、メタトロンが一緒にいたいなら一緒に戻ってもいいよ」
「……」
ミカエルは天を仰がず、険しい表情をしていた。それに気が付いたガブリエルが、心配そうにミカエルを見る。ラファエルが言葉を続ける。
「……首よ。もしもの話なのですが」
「ん? なに?」
「首のお気に入りであるメタトロンが、なにかを企んでいるとしたら……」
「なにそれ。ありえん、ありえん! メタトロンだよ? 聖人エノクだよ? あるわけないでしょ。それともなに、ラファエル。僻んでんの?」
「いえ……そういうわけでは……」
「まー、いいわ。なんか目立つことした天使がいたら七大天使にする。それでいい? 四大天使」
「了解いたしました」
答えたのはミカエルだった。ミカエルの返答を聞き、神があくびをする。
「じゃ、僕、戻るわ。あとはヨロ~」
天の光が消え、四人に影が落ちた。
「何か知ってんの? ラファエル」
ラファエルに問いかけたのはウリエルだった。
「わからないよ。ただ……ミカエル。天使たちの中で、共闘関係を築いている天使がいる」
「ああ、そのようだな。天使同士の共闘……なにか企みが?」
「四大天使は倒せない。なら、上級悪魔を倒し、功績を上げれば、首に認めてもらえるかもしれない。そう、考えているのでしょう」
ようやく口を開いたのはずっと黙っていたガブリエルだ。
「天使たちは決闘を恐れている。消えるのは、天使だって怖い」
「首の命だとしても?」
「当り前でしょう、ミカエル」
ガブリエルが表情を曇らせた。
「生きて、いるのだから」
「……一度、見定める必要があるな。その天使たちを」
ミカエルが光の消えた天を仰いだ。
「我らは四大天使。天使は首のために作られたものなのだから」
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