第9話 百発百中恋占い

 放課後、羽衣は輝星に言われた通り、図書準備室へと向かっていた。綺心は羽衣と顔を合わせる前に帰ってしまったようだ。


 レオを鞄の中に忍ばせ、図書室の方向に向かっていた羽衣の横を、どこか浮足立った様子の女子生徒が数名通り過ぎて行った。


「輝星ちゃんの占いは絶対当たるんだよ!」


「どうしよう! 私、告白されるのかなぁ!」


「私も占ってもらえばよかったぁ!」


「輝星ちゃん?」


 通り過ぎて行った女子生徒の話を耳にした羽衣が思わず立ち止まる。女子生徒たちはやって来た方向からして図書準備室からやって来たようだ。


「……輝星ちゃん、いったいなにをしてるんだろう?」


「行ってみないとわからないな」


 鞄の中からレオが話しかけてきて、羽衣は「うん……」と答えると、また歩き出した。


 羽衣が図書準備室の前にたどり着くと、そこには人だかりが出来ていた。多くが女子生徒で、キャイキャイと浮足立ちながら列に並んでいる。その不思議な光景に首を傾げつつ、羽衣は近くにいた生徒に声をかけた。


「あの……この列はなに?」


「あれ? あなたも輝星ちゃんの占いを聞きに来たんじゃないの?」


「占い?」


「未先輝星の百発百中占い! もの探しから、明日の運勢までまるわかり! 中でも人気なのは恋占いだよ! 輝星ちゃんは恋のキューピットなの!」


「へえ……そうなんだぁ。えっと、羽衣は輝星ちゃんに呼ばれてきたんだけど……」


「あ、そうなの? 輝星ちゃ~ん!」


「ハーイ!」


 列の先頭にある図書準備室から、小柄な輝星が顔を覗かせた。輝星は羽衣に気が付くと、パアッと表情を明るくする。


「羽衣! 来てくれたんだネ!」


「う、うん」


「みんな、ごめんネ~。今日はもうお終い! 続きは明日聞きに来てネ!」


 生徒たちは輝星の言葉に少々ガックリした様子だったが「輝星ちゃん、バイバーイ」「また明日~」と輝星に手を振って去っていった。


「すごい人気だね……」


「フフン! 輝星の占いは百発百中! 恋のキューピット、なのダ! なぜなら、私にはこの先に起こること、すべてが見えているんだからネ!」


「チャミュ~」


 準備室からルックが出て来た。輝星は羽衣に「ちょっと待っててネ!」と言うと、ルックを連れて準備室に戻っていき、鞄を持って出て来た。


「帰ろう!」


「うん」


 二人は校門を出て帰路についた。夕焼けの光が輝星の大きな瞳に反射して、キラキラと輝いている。輝星は終始嬉しそうに話していた。


「輝星ちゃんはいつからルックと一緒にいるの?」


「ハニエルよりもっと前カナ? 四大天使には敵わないけど、早い方だヨ! ルックは優秀なのダ!」


「お、俺だって……その……」


「レオは随分ゆっくりだったねぇ」


 ルックに言われ、レオが「うぐぐ……」と口ごもる。


「まあ、当然の結果だネ! ルックも未来視の能力を持ってるから、私を見つけるのは容易かっただろうし!」


「便利な力だねぇ」


「うん! でも、便利すぎて面白くない」


 輝星が唐突に立ち止まり、羽衣が振り返って「輝星ちゃん?」と首を傾げる。輝星は大きな瞳でじっと羽衣を見つめると、ニコッと笑った。


「羽衣はどこまで私を楽しませてくれる?」


「え?」


 その瞬間、羽衣の背後に大きな闇が出現した。


「羽衣‼」


 気が付いたレオが叫び、羽衣がハッと振り返る。闇はまるで何かの入り口のようで、大きな口を開けて羽衣を呑み込もうとしていた。羽衣が慌てて逃げようとするが、唐突に闇の中から無数の黒い手が飛び出して、羽衣の身体を掴んだ。


「きゃあ⁈」


 羽衣が叫び、逃れようと手を伸ばす。その手を輝星が掴み取った。


「輝星ちゃん⁈」


 羽衣の手を取った輝星は笑顔を浮かべている。レオの叫び声と共に二人は闇に呑み込まれ、二人が歩いていたはずの道は静まり返り、誰もいなくなった。

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