アイリス亭到着

聖王国第3の都市ヨーコー


高い壁と監視塔、守備隊が常駐する国境に程近い、戦時には防衛拠点となるように設計された城塞都市である。


ここしばらくは平和が続いているため守備隊の数は減らされ隣国との街道も整備されている。


ただし今でもモンスターや盗賊の類は度々出没するのでそれを退治する冒険者の仕事はまだまだなくならないようだ。



ぽつぽつと木が点在するゆるやかな丘陵地帯にある街道を歩く4人組の姿があった。


一見すると普通の冒険者の一団だ。


ただ注意深く見ると荷物の少なさ、使い込まれていない装備、日差しの強い季節なのに日よけを装備していないなど怪しまれる部分もある。


16~7歳ほどに見える栗色の髪の少女を先頭に18歳ぐらいの黒髪の男、その両脇には20歳ほどだろうか金髪と黒髪の少女、3人の少女は遠めにも分かるほどの美しさだ。


楽しそうに先頭を歩く栗色の髪の少女にちょっと不満顔をした黒髪の少女が声をかける。

「サチ、本当にターゲットはあの街にいるんでしょうね?」


サチと呼ばれた少女が振り返って答える。

「本当だってば、あれは間違いなく大物だね、多分」


金髪の少女がそれを聞いておっとりとした調子で聞き返す。

「まあ、あなたがそう言うなら信じるしかないけど、もちろん接触はしてみたのよね?」


サチが楽しそうに答える。

「マリーちゃんは心配性だなぁ、ばっちり確認済みだって。むしろ接触したからこそパ…ハイド様にも来てもらったんだからね」


ハイド様と呼ばれた黒髪の少年が顔を上げ微笑んで少女をねぎらい言う。

「ありがとうサチ、大きさによってはご褒美追加だな」


サチは満面の笑顔で目を輝かせる、対して残りの二人は少し不満気だ。


そんな2人を見て空を見上げながらにサチは言う。

「アイちゃんマリーちゃん達はいつもハイド様の傍にいるじゃん。探査係にもたまにはいいことなくっちゃね」


「それにしても…なんでこんな遠くから歩くの?」と黒髪の少女アイがうんざりした顔で言うとサチは


「町の監視所から見えない位置に転移するほうが冒険者として動くなら怪しまれないんだよ」


「ほらもう見えてきたよ」


サチの指差す先にヨーコーの監視塔と城壁の上部が見えていた。



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聖王国の四隅の守りのひとつ、南方守備都市ヨーコーそれがこの街の正式名称だ。


守備都市の名にふさわしく石造りの城壁は高く等間隔で配される監視等はさらに高い。


だが国家間の戦争が終結した今監視はゆるく、隣国と共通の冒険者登録か行商登録さえあれば街に入るのは特段難しくは無い。

商人であれば荷物検査もあるので時間がかかりはするが、通常の旅人は身分証明書があれば、冒険者は登録証を見せればほとんど時間はかからない。


この4人が持つ冒険者登録証は下から三番目のC級、仮登録→D級→C級→B級→A級-S級という中でも人数的に一番多い等級だ。


この街に目立たないように入るためにあえてこの等級の登録証を選んで”偽造”したわけなのだが…

入国審査官、手間のかかった偽造登録証をほとんど見ずに見るのは3人の顔ばかりいや体もちらちらと見て、3人の笑顔でフリーパス状態。


そんなわけで無事街に入りサチの道案内で目的地「麗しのアイリス亭」を目指す4人。


城塞都市であり冒険者の拠点もあるこの街で大きな食堂、レストランは3軒。



1軒目は一番の格式を誇り高級宿でもある「龍の鱗亭」


ここは貴族などが使うドレスコード有りの高級店だ。

冒険者が使うことはほとんど無く選択肢は他の2店になる。



2軒目が「麗しのアイリス亭」


以前は冒険者たちが集い情報交換の場であったが「熊と女豹亭」から名前が変わるとともに営業スタイルもがらりと変わり

今の”かわいい給仕が可愛い服を着て食事や酒を運んできてくれる”人気店になった


3軒目は「群狼亭」


安さと量が売り、駆け出し冒険者や駆け出し商人御用達


現在はここが低レベルの冒険者たちの情報交換の場となっている。


潜入調査で来店した事のあるサチの案内で街の中ほどまで進む。


そこにある左手に『宿と食事』の宿に×が付けられ、下に『かわいいメイドがあなたをお出迎え!』と付け足したような看板が見えてくる。


サチが「ここだよ!」と熊と豹の向かい合った手の込んだ彫刻、それを覆うように花があしらわれたかわいらしい『麗しのアイリス亭』のプレートが貼り付けられた扉を開く。

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