アイリスとの出会い
4人が店に入ると喧騒に包まれていた店内が徐々に静寂へと変わっていく。
言葉を失わせる”美”という物がある。
それは見た者の時を一瞬止めてしまう力があり、しかもそれは伝染するように広がるのだ。
結果として静かだが熱い注目が入ってきた一行に向けられていた。
自分達が店内の注目の的なのは分かっていたが一行はそれほど気にせずに空いている奥のテーブル席に着いた。
サチはきょろきょろと周りを見渡した後、目当ての人物を見つける。
カウンター横で待機している赤毛のメイドさんを指差し「あの子だよ」と3人につぶやいた。
サチは続けて「赤毛のおねーさーん、注文いい?」と声をかける。
呼ばれた瞬間ピクリと反応し、頬を赤くしながらぎくしゃくした足取りでかわいらしい赤毛のメイドさんがやってくる。
どうやらその子がサチが探し当てたと言う”大物”『アイリス』らしい。
普通のメイド服よりやや装飾過多、スカート短め、表にあった『かわいいメイドがあなたをお出迎え』の看板の名に恥じない?かわいらしさである。
テーブルまでやって来たアイリスは「ご、ご注文でしょうか?」と緊張した様子で声をかける。
その視線は店中が注目している3人ではなく、なぜか一番存在感の薄い唯一の男であるハイドに向けられている。
少女3人はアイリスのことをなにか期待のこもった目で見ているがアイリス本人はそのことにすら気づいていないようだ。
「ああ、それじゃあこの店のお勧め料理とそれに合う飲み物を人数分お願いします」と丁寧な口調でハイドが注文をする。
アイリスは緊張をほぐすためか後ろを向き「ふぅー」と深呼吸をした後振り返り
「い、今の時期ですと鹿肉の香草焼きがおすすめですがよろしいでしょうかっ」
といつもより若干大きい声で説明する。
「はい、それでお願いします」とハイドが答えると。
アイリスはくるりと向き直り厨房に足早に戻っていった。
その様子を見ながらサチが残りの3人に「出なかったね」と意味深な言葉をつぶやいた。
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厨房に着いたアイリスは
「はぁー緊張したあー」と息を吐いた。
周りにいたメイドの同僚が
「ああ、あのテーブルね、すんごい美人ぞろいよね」と声をかける。
アイリスは「うーん、それもそうなんだけど…みんなはあの男の人どう思う?」とたずねると。
周りの子たちは「え?いたっけ?」とか「普通」とか「悪くはないけど特には」とか、いまいちな評価しか出ない。
アイリスはつい「あれ?あたしだけ?あの男の人にドキドキするの」と声に出してしまった…
厨房には父、母がいると言うのに…
しまったと思うまもなく、厨房から「どいつだ?」と低い声が聞こえた。
元A級冒険者『ヨーコーの赤熊』『親馬鹿暴走熊』ことバジャーの登場である。
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ハイド達が雑談しながら注文した料理を待っていると、厨房から身の丈2m以上はある筋肉質の大男が近づいてきた。
他の客とは違い3人の少女には目もくれずハイドだけ睨みながら「娘に手を出すのはお前か」と、怒りを押し殺したような声色で聞いてきた。
ハイドは少し困ったような顔で
「いや、食事の後に少し話を聞きたいと思っていたんだけど…娘?」と言うと大男は
「ふん、見ない顔だと思ったらやっぱりよそ者か。この店に来るのもはじめてみたいだな」
「この店のルール!店員には注文以外声をかけるな!」
「特に!娘のアイリスに手を出すなら…俺を倒してからだ!」と腕を組んで宣言した。
それを聞いたハイドはやれやれと言った感じで
「注文以外した覚えは無いんだが…アイリスには用があった」と言いながら立ち上がり。
「だから…その条件、満たすとしようか」
とそのアイリスの父だと言う大男に向け笑顔を見せた。
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