Part 2

汽車に乗っていた魁平隊を倒し、タムラの娘と名乗る者が瞬間移動で消えてからおよそ30分後、マキを含めた残りの魁平隊が駅に到着した。


倒された者達の無事を確認するマキ。


「皆さん、大丈夫ですか? まだ意識はありますか?」


「__たい……ちょう……」


「よかった、なんとか意識はありますね」


「すいません。 魁平隊でありながら、こんな失態」


「いいえ、敵の襲撃を予測できなかった私のミスです。 貴方達は悪くありません。 怪我が酷い者を優先に、皆さんをお城の病室まで運んでください」


「了解!!!」


隊長であるマキの指示の元、駆けつけた魁平隊は負傷した者達を背負い、お城まで連れて帰った。


「隊長……」


「__貴方もヒドイ怪我です。 お城の病室で治療してもらってください。 私は周囲の探索を」


「隊長、わ……我々を襲ったのは、手練の娘です」


「(娘……)敵の人数は覚えていますか?」


「ひ、1人です」


「!? たった1人、ですか」


「はい」


「(魁平隊を、たった1人で)」


「その娘は、伝言を残していきました」


「伝言、ですか。 一体なんと言っていましたか?」


「ヤツは、タムラの娘。 そう名乗っていました」


「タムラの……娘(タムラ? 聞いたことがない、その人は一体)」


「そしてヤツは、紅の剣士と言う者を探しています」


「紅の剣士……ですか」


「はい」


「(紅の剣士、この世界の者でしょうか。でも、そんな剣士聞いたことも……)」


「どうやら娘は、我々を無力化させる命令を受けていたようです。そして紅の剣士を探し出し、復讐することがヤツの目的です」


「復讐……(命令を受けたと言うことは、彼女は組織の人間。 そしてその組織は恐らく、魁平隊を恨んでいる)」


「はい。 魁平隊の人間でありながら、たった1人に敗れ、情けないです」


「そんな事はありません。 だって貴方は、こうして生きているではありませんか」


たった1人の少女に敗北し、身も心も傷ついていた隊員に、マキは優しく声をかける。


「隊長」


「伝言ご苦労さまです。 お城の病室に着いたら、ゆっくり身体を休ませてくださいね」


「分かりました、隊長。 ありがとうございます」


倒された魁平隊の者達を、マキ達は城へと連れ帰り、そこで治療を受けた彼らは休んだ。


彼らを休ませた後、マキは隊員から聞いたタムラと言う人間の情報、そして紅の剣士と言う存在の事を考えていた。


「(タムラの娘、彼女は我々の仲間を襲った。でも彼らを殺さず、無力化だけさせ、1人に情報を教え消えた。そして隊員からの情報では、ヤツは紅の剣士を探している。聞けば復讐が目的。タムラの娘、先程は分かりませんでしたが、タムラと言う名前、どこかで、その名前を聞いた、あるいは見たことがあるような……分からない。そもそもなぜ彼女は隊員を襲った。 しかも情報まで教えるなんて。考えれば考える程分かりませんね。ですが我々の隊員を襲ったという事は、もしかすると)」


「マキ?」


「! ど、どうかされましたか? スレイヤー様」


「何か考え込んでいたけど、大丈夫?」


「はい。 私は大丈夫です(いけない、今はスレイヤー様の護衛任務中、先程の事はまた後で考えるとして、今はとにかく任務を)それで、どこへ行くのでしたっけ」


「今日は近くの街の見回りよ。余裕があれば、村も行きたいわね」


「__あの、スレイヤー様」


「? どうしたの?」


「今更にはなるのですが、本当によろしいのですか? 街の見回りなどは、下の者に任せる事もできましたのに」


「いいのよ」


「ですが」


「こうでもしないと申し訳ないじゃない」


「スレイヤー様……」


「私が犯してしまった罪の贖罪しょくざいになるのなら、これくらいの覚悟を持たないと。 ほら、私にできる事なんて限られている訳だし。 貴方にまた、色々背負わせてしまっているけど、護衛を頼めるの、マキしか思いつかなくて」


「……」


「迷惑、かしら」


「いいえ、私の使命はスレイヤー様を守ることにあります。 この身にかえても、守りぬいてみせます」


「ありがとう、マキ」


「はい」


スレイヤーとマキが街の見回りを始めようとしていた同時刻、ある場所にて、魁平隊の隊員を襲った少女は、組織の隠れ家に帰っていた。


「……」


「おかえりなさいませ、副隊長様」


「えぇ」


屋敷の中を進み、ある部屋に向かっていた。


「……」


部屋に着き、扉を開ける。


「おお、戻ってきたか。副隊長、いや……ミヤ」


副隊長であり、タムラの娘でもあるミヤに声をかけた男。この組織、闇式の隊長であるベータ。


「はい、ベータ殿」


その部屋は、隊長であるベータの部屋だった。


そしてそこには、腕利きの闇式剣士が任務から帰還し、先に部屋に着いていた。


「……」


座敷に座るミヤ。


「それでどうだった。魁平隊の連中は」


「はい、全員ではありませんが、実力は大した事はありませんでした」


「そうか。ヤツはいたか?」


「いえ、スレイヤーの護衛をしている剣士らしき人物は、あの場にはいませんでした」


「なるほどな。紅の剣士については」


「知ってる者は、誰一人としていませんでした」


「そうか、知られていないのか」


「はい」


「__魁平隊の連中まで知らないとなると、知っている可能性が高いのは……やはり」


「はい。 スレイヤー本人か、あるいは」


「護衛の剣士か」


「……」


「なんにせよ、魁平隊のおおよその実力が分かっただけでもなによりだ。ミヤ相手とは言え、その実力差はかなりあっただろうからな」


「はい、我々闇式の部下と比べても、力の差は歴然です」


「そうか。 ふふふ……平和に溺れた連中と、常に地獄を見てきた我々に比べれば、当然だな」


「はい」


ベータ率いる闇式は元々、10年程前にスレイヤーが魁平隊の暗殺部隊の下の身分として、暗殺を行なってきた組織だった。だが5年前、スレイヤーの巨大すぎる力と、魁平隊の暗殺組織の力が日に日に強まり、闇式はその必要性を奪われ、魁平隊から追放された。以降闇式は、不必要と思われる存在を独断で決め、その者達を暗殺してきた。


スレイヤーに復讐心は抱いていたが、闇式だけでは、スレイヤーはもちろん、暗殺部隊にすらも勝てないと悟り、今に至るまで身を潜めていた。


だが数ヶ月前、闇式にスレイヤーの力が弱まったと言う情報が入った。初めは半信半疑だったが、もしその情報が正しければ、スレイヤーに復讐し、今スレイヤーが支配している次元を支配できる。


そう考えたベータは、手始めに副隊長であるミヤを送り、スレイヤー本人や護衛剣士であるマキの実力を知ろうとしたが、結果は失敗だった。 だが魁平隊を襲い、魁平隊の力が弱まっている事実だけでも知ることができた。


そしてベータは1歩ずつ、だが確実にスレイヤーに復讐する機会を狙っていた。


「もし本当にスレイヤーの力が、以前よりも弱まっているのだとすれば、我々が勝つチャンスは十分にある」


「そうですね」


「そしてミヤ、お前の復讐も叶うな」


「はい」


「何せ紅の剣士は」


「魁平隊の中に、それもかなり上位の者です」


10年前、ミヤの父であるタムラが襲われる少し前、ミヤは祖母の家に出かけていた。


そして、祖母の家から、父であるタムラの家に帰っていた時だった。


〈十年前〉


「……ん? 煙?」


家の方角から、煙が出ていることが気になり、急いで村へと向かった。


「なに……コレ」


そして、荒れ果てた村を見てしまうミヤ。


「お父さん……!」


父の無事を確認するべく、急いで家へと向かうミヤ。


「お父さん! あ……お父さん」


そしてミヤは、父の変わり果てた姿を見てしまう。


「み……ミヤ」


「!? お父さん!」


心臓を貫かれたが、微かな意識の中ミヤに語りかける。


「ミヤ……お前……だけは、生き……ろ」


だがその言葉を最後に、タムラは息絶えた。


「お父さん……ねえお父さん」


問いかけるが、返事がなく、焦るミヤ。


「そんな……! アァアーーーー!」


絶望するミヤ。そんな中近くに落ちていたキューブが視界に入り、手に取る。


そのキューブを起動させ、ミヤは父であるタムラと村を襲った犯人の声、そして顔を見ることになる。


「コイツが、お父さんや皆を」


その事実を知らせるべく、祖母の家へと急いで戻った。


だがその時、祖母はある人物と話していた。


「え!? それはホントなんですか」


「はい。その村に我々が取り逃してしまった魔物が、村を焼き払ったと」


「……ん?」


ミヤは、一旦木に隠れた。


「では、我々はその魔物の討伐に向かいます」


「はい。 お願いします」


「おばあちゃん? いったい誰と話して……!」


その人物に見つからぬよう隠れるミヤ。そしてその人物の声に聞き覚えがあり、まさかと思いながらも、その人物の顔を確認するべくこっそりと覗いた。


するとその人物は、父が残したキューブに映っていた犯人と同じ顔であることが分かった。


「! アイツが、紅の剣士」


怒りが溢れるミヤ。


「どうか、タムラをお願いします、マキ様」


「!?」


村を襲った犯人は、現魁平隊リーダーであり、スレイヤーから洗脳された頃のマキであった。


「マキ、それがヤツの名前」


〈現在〉


「忘れもしません。あの声、そしてマキと言う紅の剣士」


ミヤは祖母に事実を話しても、きっと信じてはくれないと思い、一人森の中でマキを殺す訓練をしていた時、闇式の隊長であるベータに声をかけられ、以降闇式でも訓練を受け、ベータはスレイヤーに、ミヤはマキに、復讐の炎を燃え上がらせていた。


「あぁ、我々で、共に奴らへの復讐をしようじゃないか、ミヤ」


「はい、ベータ殿」


ベータとミヤが復讐心を抱いている事に、当然スレイヤーとマキは、知るはずもなかった。

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