紅の剣士
雨宮結城
Part 1
ある夜、スレイヤーと言う女王が支配している次元の中に存在する村で騒ぎが起こっていた。
その村は、女王スレイヤー本人がいる次元だ。
騒ぎが起きてしまった今日まで、村の人々は平和に暮らしていた。
その夜の村は、平和だった以前の姿がまるで消え、恐怖と悲鳴が飛び交う、まさに地獄だった。
燃えさかる炎の影響で、崩れた家の瓦礫が落ち、それによって頭を打った人から出た血が道に広がっていた。
村の人達は、必死になって逃げていた。
だが、恐れていたのは燃えさかる炎ではなく、一人の剣士であった。
その剣士の持つ武器には、何十人もの血が付着し、ポタポタと地面に血が落下していった。
その剣士は、フードで顔を覆い、周りからはその剣士の素顔が見えない状態だった。
「や……やめてくれ……俺には家族が……」
「あ……やめて、助け……」
村の人達は、大人も子供も、容赦なく斬り殺されていた。
そして、その剣士はある家に辿り着いた。
まだ逃げていない人がいたのだ。
「……」
その人物は、一刻も早く逃げなければならない、そんな状況にも関わらず、逃げず待っていた。
だが逃げなかったのは、死ぬ為ではなく、映像を録画できる特殊キューブに、村を襲った犯人を写し、それを誰かが見てくれるのを願った為だった。
そして犯人にバレぬよう、でも犯人の姿や声を記録する為、その人物と犯人が見える位置に特殊キューブを置いた。
そして、その家のドアが犯人の剣によって破壊され、追い詰められたその男。
名をタムラと言う。
「貴方で最後……ですね」
「__村の人達は」
「全員殺しました。そして、貴方が最後の一人と言う訳です」
「くっ……」
「それにしても……なぜ貴方は逃げなかったのですか? 村の入口からこの家は最も遠い……逃げられるチャンスはいくらでもあったはずです」
「……」
そう、タムラが逃げなかったのは、逃げるより、犯人の正体を暴こうと言う気持ちがあったからだ。
もちろん、死は覚悟していた。
「__まあでも、私は今まで、誰一人として逃がした事はありません。仮に貴方が逃げていても、私は貴方を殺せたでしょう」
「__目的はなんだ。それに、貴様は何者だ」
「驚きました。この状況でも、話せるのですね。今から殺されると言うのに」
「いいから答えろ!」
「__そうですね、貴方で最後ですし、今回だけ教えましょう。と言っても、今まで名乗った事は一度もありませんが」
「……」
「目的は、世界のバランスを保つためですよ」
「なんだと……」
「食料や寝床、それらには当然限りがある。そしてこの世界において、人は増えすぎた。だから、世界のバランス、均衡を保つ為、邪魔と判断された貴方がたを殺す。それこそが、スレイヤー様より授かった、私の役割」
「スレイヤー様が……そんな禍々しい事を」
「そして、名ですが……紅の剣士。とでも名乗りましょうかね。それでは、さようなら。貴方の勇敢さ、いえ愚かさは、私が記憶しておいてあげます」
その犯人は、剣に染み付いた血と、今まで殺してきた人間の血を思い出し、紅の剣士と名乗った。
そして、タムラは心臓を貫かれ、殺されてしまった。
「任務完了」
そう言い、村を破壊した犯人は、瞬間移動で消えた。
そして、それから年月が経ち。十年後の、スレイヤーの次元の西暦で、次元歴一五〇〇年のある日。
スレイヤーが立ち上げた魁平隊の戦士達は、城への出勤前、汽車に乗り向かっていた。
魁平隊の戦士達は、毎日家から城までの間に距離がある為、魁平隊だけが乗る、戦士専用の汽車に乗り向かうのが、朝行なう一連の流れだった。
そして、その汽車がある駅に着いた時、そこに戦士では無い別の人物が、戦士の一人を気絶させ、引きづりながら、汽車の中へと入ってきた。
「?……!?」
魁平隊の戦士達は、その光景に驚いた。
そして、戦士を気絶させたその人物は、フードで顔や身体を隠していた。
そして気絶させた戦士を、座っていた戦士達の前に放り投げた。
「……」
「おい! 大丈夫か!」
「お前、何者だ。なぜこんな事を」
「お前らが聞く必要はない。私はある一つの事を聞きに来ただけだからな」
「その声、お前女か」
「あぁ、そうだが」
「魁平隊の者ではないな。スレイヤー様に逆らう不穏分子か。ならお前を牢へ送ってやろう」
「私は戦う為に来たのではない」
「何を言うか、先に仕掛けてきたのは貴様だろう」
「__まあ、そうだな。良いだろう、かかってこい」
「お前ら、行くぞ!」
「おぉ!」
魁平隊の十人の戦士達は、フードの女に挑んでいった。
「っ!」
「ハァ!」
「おら!」
「__ふんっ!」
戦士達は、一斉に向かっていったが、その女からの回し蹴りにより、全員が車両内のどこかへ蹴り飛ばされた。
「うっ……」
「貴様、なにもの、だ……」
「……」
その女は、一人の戦士の元へと近づいた。女は、蹴り技をしたが、ある情報を伝える為、一人の戦士には手加減をしていた。
「かはっ……うっ」
「手加減はしたし、まだ息はあるな」
「お前……誰の……命令で」
「命令、確かに貴様らを無力化させる命令は受けたが、それだけの為に来たのではない」
「うっ!」
その女は、戦士である男の髪を掴んだ。
「貴様に問う、紅の剣士。この言葉に聞き覚えはあるか」
「紅の……剣士だと……」
「__どうやら、貴様は知らないようだな。(恐らく、気絶させたコイツらも同様だろうな)」
「紅の剣士が誰かは知らんが、お前、ソイツに会ったら、一体何をするつもりだ」
「__なぁに、簡単な事だよ。復讐だ。なぜなら私の父は、その紅の剣士によって殺されたのだからな」
「なっ! なんだと……」
「お前らのトップの者、あるいは腕のある剣士に伝えろ。タムラの娘が、紅の剣士を探しているとな」
そう言い残し、タムラの娘は、瞬間移動により、戦士の目の前から姿を消した。
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