第四話 月見て雪見て蹴り飛ばされて

「頼んだ」

「まあ、任せた」

「よろしくー」

「ああ」

 俺は頷いて、心の中でもう一度覚悟を決める。

 さっきスマートウォッチで確認したが、このテストの制限時間は40分。

 俺達が協力し始めたのが約5分。

「そういえば、10分毎というのは始まってからだ」

「だが、これで俺達が40分生き残っても25点だ」

「そうじゃない! ねえ、どうするの?」

「後六人集めるか、二人倒す」

「そっか」

「た、倒すと言っても、その前に話し合いを試みるし、殺したりはしない」

 しょんぼりと俯くくうに向かって、フォローする。

「なら早めにどっちか決めようぜ30分までに六人集めるか、二人倒すか」

「私は戦いたくないし、六人集めましょ」

「さんせーい」

「……」

 あずまと空は賛成。まあ俺もだが。

「30分までは仲間集め目指す、で良いか?」

「それが最適だ。では」

 改空あらたかはその場で立ち上がる。

「能力を確認する」

「能力?」

「空が言っていただろう、俺達の体に小型機械があると」

「そうだけど」

「けど、義眼とか人工心臓みたいな、身体能力の補助だろ」

「全く違う、とりあえず立て」

 俺達は立ち上がる。

「まず、小型機械の名前を言ってくれ、アプリで見れる。おそらく、英語で書かれた文章の主語が違う」

 アプリを選び、設定の所を開くと機械の欄があった。

 それを押すと、改空の言う通り英文があった。

 ――was made by Takatukasa research team。

 主語の部分が塗りつぶされていて、読めない。

「私はTHUNDER……『雷』ってこと?」

「僕は『空間』」

「俺は『改行』だった。見せてやる」

 改空は俺達から数歩離れて、向きを調節した。

「この能力は『横に五メートル以内で瞬間移動できる』が、誰かを移動させたりは出来ない」

 そう言うと改空は横にヒュンヒュンと反復横跳びのような動きをしてみせた。

「嘘だろ……」

 俺は近づいて、よぉく観察する。

「俺にも仕組みが分からん」

「どうやるの?」

「今は俺の自由に発動できるが、まずは強制発動を使え」

「やってみる」

 雷はスマートウォッチを弄り始める。

「なあそれで、隣の部屋とか行けるか」

「行ってきた、ここと同じ作りだったがな」

「これかな」

 体が熱くなってきて、雷の方を見た。

「眩っ」

 反射で目が閉じた。

 数秒後、ドンという音で目を開けた。

「なんだ!」

 壁が壊れていて、地面に焼け跡が残っていた。

 その焼け跡を辿り、次の部屋に入った。

「イタァ、なんなのぉ」

「雷! 大丈夫か」

 俺は雷に駆け寄る。

 ザクザクと音を立てて……。

「?」

 感触が違う。

 下を見れば雪のようなものが敷き詰められていた。

 雪のようなものを掬ってみる。

 感触も雪そのものだった。

「立てるか」

 俺は雷に手を伸ばす。

「うん」

 周りに誰も居ないか、俺は辺りを見渡した。

 誰も居ない、じゃあこの雪は誰の能力だ?

「! 雷ァ! 或人ォ!」

 改空が叫ぶとほぼ同時に気付く。

 ザラッと音を立て、雷の背後を狙う男。

「雷!」

 能力者は雪の下に居た!

 俺は左手で雷を押し退け勢いをつけ、右手で相手の凶器を受け止める。

「アァ!」

 ドリルのような尖ったものが右手の掌を貫いた。

「カッケーじゃん」

 俺の掌を貫いたものはどうやら『角』らしい。

 男は無理やり俺から『角』を抜く。

「どうも……参鹿みつしか……」

 俺は右手を抑えながら、能力を分析する。

 手から生えている『角』、あの『角』を出す能力か?

「よお、或人5点、良い所に来たな」

「なにしようとした? 今」

「ええ? 分からない分からない分からないかぁ、そうだねそうだね、教えてあげよう」

 参鹿は手を広げ、虚ろな目でこっちを見る。

 シャツには俺の血と誰かの血が付いていた。

「背中から一撃で

「だよなぁ」

「で、僕は10点になるんだよ」

「お前、頭おかしいぞ」

「おかしくないさ! もう一人、殺ったんだから、さ」

手前てめえ!」

 痛みなど忘れて拳を握り、振りかぶり、下ろす。

 参鹿は左腕の尺骨付近から腕を覆うように角を生やす。拳は受け止められる。

「くそ!」

 左から右手に生えた『角』が迫る。足場は雪、それも俺のくるぶしが埋まる深さ、上手く踏み込めず。

「ほら!」

 吹き飛ばされた。

 さっきこの部屋に入った所の真向かいまで飛ばされた。血飛沫が雪を染める。

 『角』は二本、もしかしたらこれ以上生やせるのか。

「生きてんのぉ? 死ねよ」

 もうここまで来たか。『角』を構え、飛びかかってくる参鹿を俺は背を低くし雪に飛び込み躱す。

 振り向き殴ろうとしたが、すぐに作戦を変える。

 俺の背後からの攻撃を見越して、あいつは踵や背骨から『角』を出していた。

「来ないなら」

「今行ってやる」

 振り向いた参鹿の顔めがけて、雪をお見舞いする。

「わ、わわ」

 慌てふためく参鹿の腹をブン殴る。

「ガッハッ」

 その場に倒れ、参鹿は腹を抱える。

「骨折とか、嫌だろ?」

 俺は参鹿の耳元で言う。

「うん、うん」

「じゃあ、俺の勝ちで良いな? な?」

「はい……」 

「よし」

 俺はアプリの対戦に結果を打ち込む。

「おーい、皆」

 俺は雷たちを呼ぶ。

 その刹那、視界が光で眩む。

「危」

「危ない」

 気づけば背後で雷が参鹿を蹴り飛ばしていた。

「こいつ、また不意打ちしようとした」

「おお、サンキュ」

「コツ掴んだわ、少し体が痛むけど」

「気をつけろよ。あとさっき声がしたんだけど」

「ここ、ここ」

 声のする方を探すと雷の足元に制服のシャツが見えた。

「お前、踏んでる踏んでる」

「あごめん」

 雪を掘り返すと灰色しかなかった。

「あれ」

「ここだよ」

 声のする方に首を回すと、白い肌の男と目があった。

積雪つみきよ!」

「安心した」

「お前、気持ち悪い」

「じゃあ、早く雪どかして」

「ほらよ」

 俺は適当に手で雪を振り払ってやる。

「やっと意識が戻ったけど……ちょっとヤバいかも」

 まさかずっと低温だったから、限界を迎えようと。

「大丈夫?」

 雷が上から声を掛ける。

「けど……最後に、きれいな雪景色と満月が二つ……見えたから……良い……かな」

 こいつ、低温でおかしなことを……そういうことか。

 雷の体を見上げて気づく。

「どこ見てんの!!」

 雷が電光石火の蹴りで積雪を蹴り飛ばした。こいつさっきから蹴飛ばしすぎだろ。

「積雪ーーーーーー!」

「蹴られるのも……僕の……守備範囲……だぜ」

「なんて馬鹿なことを」

 改空が呆れた顔で呟く。かなり飛ばしたな、雷。

「そうだ、低体温症っぽいから、温めねぇと」

「温かいか分からないけど、入る? 僕の『空間』」

 空は右手でドアノブを掴んでいた。

「おう。雷も入れよ」

「もちろん」

 雷は『雷』を使いこちらに来る。もう使いこなしてんな。

「じゃあ、行くよ」

 空がドアノブを捻り、俺達は『空間』に入る。

 中はまたまた正方形で、違うのは木製っぽいのと椅子が人数分置いてある位だ。

「寝かせたほうが良いよね」

 空がそう言うと『空間』にベッドが出てくる。

「この『空間は僕の自由に出来る』みたいだね」

 俺は積雪をベッドに寝かせる。

「こいつも協力者で良いか? 悪い奴じゃないし、参鹿みたいに動転してない」

「頭を(物理)かっこぶつりで冷やしたからな」

「上手くないぞ、改空」

「そうだよ、改空くん」

「行文さん、上手くない」

「三連撃……だと」

 改空は開いた本に顔を埋めた。

 よし黙った。

「で、どうだ?」

「まあ良いんじゃない? 変態だけど」

 雷はぶっきらぼうに答えた。

「こいつは……ちょっと素直なだけだ」

「そうだ、それにきっと君にとって最高のサポーターになる」

 立ち直り早いなこいつ。

「なにが、最高なの、今ん所、最低なんだけど」

かみなりがなぜジグザグに動くか知ってるか?」

「知らない」

「実は湿度の高い所を選んでいるからなんだ」

「へえ」

 知らんかった。

 今度たかに披露しよ。

「起きろ」

「なに」

 空が体を起こした。

 なんで寝たんだ。

「空、君じゃない、魔見まみだ」

「ふう、なに?」

「君の能力は?」

「僕の能力は『雪』、かな」

「雪は水蒸気が冷えて固まったものだ、雪を作る過程で水蒸気が集まる、水蒸気が多いイコール湿度が高い。つまり、『雷』の軌道を操れるということだ。事実、あずまは高速ながら真っ直ぐに移動出来ていた」

「なるほど、それなら確かに」

「それなら、協力した方が良いな」

「僕は協力したいな。美女の役に立てるなら」

「じゃあ決まり」

 積雪は寝ながら頭を下げた。

 これで五人、あと五人仲間を集めなければ。

 そうこうしてる間にテスト開始から10分が経過した。

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