第三話 思考を巡らせ至った答

「なんでここにいんだよ」

 俺達はリビングのソファに腰掛ける。

「朝、ここに向かえって書かれた紙があってな」

「そうか」

「なあ、最近のは誰の仕業だ?」

 あの3人組に、さっきの怪人。

 それに加えてWOとカード。

「WOとカードは分からないが、俺がさっき戦った怪人はあの3人組だろうな」

「怪人! お前、大丈夫か」

「ああ、こいつのお陰でな」

 俺はポッケに入れてたカードを取り出した。

「そのカード、お前が持ってたのか」

「何故か俺のバックに入ってた」

 俺は見やすいようにテーブルのド真ん中にカードを置く。

「……なあ、この間考えてたんだ、カードの事」

 このカードを使ったのは雄介だ。

 雄介なら俺が分からないことが分かるのか?

「そのカードは強い想いに反応するんだと思う」

 呆れた。

「……あのなぁ、それだと普段から起こるだろ? 喧嘩とかのマイナスの感情は強い想いになりやすい気がするし」

「そうじゃなくて……いやそういう事もあるけど」

 雄介はわたわたと手を動かし、考えているようだ。

「あ! あれ、あの時、俺が変身した時にさ、結晶ができてた……だろ?」

「ああ、確かにそうだな」

 カードが結晶に、結晶が鎧に変化していく光景が俺の脳内に思い浮かぶ。

「あれ、どうなってんだ?」

「!」

 確かに……!

 マンガとかゲームだと普通過ぎて気付かなかった。

 マジ灯台もと暗し。

 とりあえず今思い浮かぶ事を話すか。

「……カードかWOにそういう機能、力がついてるか。カードが光ってる時はそうなるみたいなプログラム?」

「特殊な力が発動した」

「おいおい、それは非現実過ぎるわ」

「でもそうじゃないと説明つかないだろ……カードの、あの3人組の!」

「それはそうだが」

 考えれば考えるほど分かんなくなる。

 そんな時、玄関のチャイムが鳴った。

「或人くん」

「上か……ちょっと行ってくる」

「おう」

 俺は手に持っていたカードをポッケにしまい、上を出迎えた。

「よお上」

「体調大丈夫?」

「おーす」

 なんだ、創もいたのか。

「もーまんたい、明日は学校行くわ」

「テストだからな」

 そーじゃん。

「先生からプリント渡せって言われたんだ、ちょっと待ってて」

 上は少し下がってカバンを下ろした。

「そうだ……創、お前傷は大丈夫か」

 俺は創の足に視線を移す。

 あのブレとかいうヤツに切られてたはずだ。

 なのに、こいつは、いつも通りヘラヘラした顔で俺の前に立っている。

 その違和感が気持ち悪く頭に焼き付く。

「どうした? あ、あとさ、雄介知らねぇかな? 今日ずっと既読スルーでよー」

「はいこれ」

 上が創の横から手を伸ばし、俺に四枚のプリントを渡してきた。

 一枚は社会のテスト対策プリント。

 一枚はサッカー部の講習会参加アンケート。

 一枚は身体検査の結果。

 一枚は不審者の目撃情報と注意喚起。

「サンキューなぁ」

「じゃあね、また明日」

「またー」

 二人はクルッと回って、俺ん家から離れていく。

 その時、視界の端にある創の歩き方でピンときた。

 頭の中で襲われたときの

 俺はすぐにリビングに向かう。

「ヤバイぞ雄介!」

「どうした」

 雄介は立ち上がり、距離を詰めてくる。

「あの二人、記憶が消されてる……!」

「は?」

「よく分からねえけど、創はあの時足切られてたよな」

「ああ、アキレス腱を」

「けど、あいつ、何もなかったみたいに話しててよ」

「待て、アキレス腱切られたんだろ? なら歩けるはずないだろ」

「……!」

「馬鹿」

 雄介、期待して損したような顔でまたソファに座った。

 行き詰まった。

「それは置いといて、カードの方……」

 俺はポッケからカードを取り出す。

「!」

 カードの裏側に字が書いてある。

 そういえばこの事を話してなかった。

「おい、これ知ってるか?」

「そのJOKER、なに?」

「なんか、書いてあったんだ」

「いや、俺が変身する時からあったのかな」

「んん、分からん」

「……」

 雄介はゆっくりと手を頭に持っていき、頭を抱えた。

「カードの名前じゃねえの?」

 雄介がピンと人差し指を伸ばして言う。

「なるほどね」

「でも、JOKERってどういう意味だ?」

「……切り札、とか?」

「それ良いな、それにしよう!」

 雄介は目を輝かせながら、俺を指差す。

「もっと考えろ!」

 雄介は俺ん家に泊まって、二人で色々話し合った。


 翌日。

 俺は学校に来て、席に座る。

 俺達の前に担任の昇煙狼しょうえんろう先生が立った所で、ちょうどチャイムが鳴る。

「出席取ります。亜生造子あきつくみ朱色認承あけいろもろつぐ足峰飛あしみねとばし、合創、池亀兄秋いけきあにあき浮上水行うじょうみゆき、写紙門、枝切或人、御言葉沁おことばしみる鏡見写かがみけんうつし、風波上、角出参鹿かどだしみつしか機解械分きかいかせちか、光先雷、砂溶勝動さとかしかとう透視目透すかしめすかし皇鵺鎖すめらぎやくさり奏ヶ咲一二音そうがざきひふね溜止球守ためとめまりかみ追方四位ついかたよつみ転回卓てんかいすぐる胴突小面どうつきさきつら間時空はざまじくう増偶作形ふえたまつくみ堀削俊彫ほりさくゆんぼ魔見積雪まみつみきよ不見黒衣みえずくろご槍投央やりなげなかば行文改空ゆきふみあらたか世風記正よかぜよしただ連同調動れんどうしげおき判合証勘わかあいみのり

 皇鵺は欠席か。

 狼先生は出席簿を閉じて、顔を上げた。

「皆さん、今日は中間テストですね。皆さん、日頃の成果を見せてください」

 狼先生が柔らかい笑顔で、こちらを見る。

 その顔を見ると自然と緊張がなくなる。

「口うるさく言いますが、我が校のテストは特殊な形式で行われます。入学時に配られたスマートウォッチ、これで生徒一人一人の健康状態を計測します」

 まずい、眠くなってきた。

「そして、このテストは――」

 声が良く聞こえない。

「――られた小型の機械――人によってはもう一つ機器を――」

 体が、特に頭が重い。

 あと、なんだがチャイムの音が前と変わってた。

「――となります。それではテスト頑張ってください」

 狼先生は……きっと、こっちに笑顔を見せてんだろうな。


「さいよ、起きなさい!」

 鼓膜が破れると思うほどの怒号が体に響き、俺は目を覚ました。

「ヴァァァァァカ、うるさいな!」

「起きないのが悪い」

「テスト終わった? 俺寝ちゃったんだけど」

「今、テスト中」

「じゃあなんで喋ってんだよ」

「そういうテストなの」

「発声テスト?」

「違う!」

「あとここどこ?」

「知らない」

 灰色の壁に囲まれた正方形の部屋。

「ねえ、こいつ起こすの手伝ってくれる」

 そう言って、雷は……誰だっけ、男の腕を持っていた。

「別にほっときゃあいいんだよ」

「私、学級委員なの」

「わーたよ、起こせば良いんだな」

 なにか知ってかも。

 俺は寝ている男を蹴飛ばした。

「何してんの!」

「起きれば良いんだよ」

「ん……ん」

「名前、なんつうの?」

「間時……」

「「ああ!」」

 雷もどうやら分かってなかったらしい。

「空……ぐう」

「寝るな、もっかい蹴んぞ」

「それは嫌だ」

 普段話さないから、よく分からん。

「このテスト、知ってるか?」

「うん、僕たちの体に埋め込まれた小型機械を使って戦うんだ」

「は?」

「戦う?」

 俺の顔はおそらく人生一の困惑顔を浮かべているだろう。

「このスマートウォッチに入ってるアプリ、ここに結果を打ち込むんだ。観点は三つあって、戦闘点と協力点、そして教師点。合計30点以上で合格」

「よく分からないけど、生き残って、勝てば良いんだな」

「うんそこで、僕に考えが」

「僕に考えがある」

 空の言葉を遮って、急に低い声が耳を刺激した。

「「うわ!」」

 俺と雷は飛び退いた。

「改空か、急に来るなよ!」

「悪いな、或人。ここからは空に変わって俺が話す」

「効率厨が」

「五月蝿い。この作戦はまず確実に5点獲得できる」

「協力する」

「早っいいの? 信じて」

友人ダチだから、効率厨こいつが信じられないなら俺を信じろ」

 雷は頷いた。

 慎重になるのは分かるが、俺達は何も知らない。

 ここは改空を信じる。

「まず戦闘点、協力点の配点についてだが、戦闘点は勝てば5点、負ければ0。協力点はアプリで協力者の名前打ち込み、10分毎に協力者全員が生きていれば点が入る。点数は協力者の人数によって変動する、(自分を含めて)二人なら2点、四人以上なら5点、十人以上で10点だ」

「なるほど俺達で協力して、協力点を稼ぐってわけか」

「早とちりが」

「はぁ!?」

 こういうところが嫌いだ。

「まずアプリを開く、そしたら、対戦者の所に名前をお互いに打ち込む」

「これ」

「これでお互い勝ち負けを均等に打ち込んで、点数を稼ぐわけじゃない」

 全部言われた……。

「チッ」

 早く本題言えよ。

「打ち込むのは合ってるが、全員ではだめだ、ここは慎重に。打ち込むのは両隣に居るやつにしよう」

 俺は雷と空か。

「そしたら、勝ち負けを入力するわけだが、或人の場合は雷に負けて空に勝った」

「なるほど」

「これで相手とのデータの照合が行われて、合っていれば、点がもらえる」

「あ、来た」

「僕にも」

「オッケー」

 これで全員に5点が入った。

「次に協力者の欄にお互いの名前を打ち込む」

「ねえ、さっき戦ったやつと協力とか怪しまれない?」

「確かにそうだが、ルールには書いてない、それに、敗者は勝者に従う、勝者は敗者を迎えて戦力を底上げする。昔からある戦術だ」

「なるほどねぇ」

「これで、10分生き残れば5点入る」

「なあ、生き残るっつうことわよぉ。死ぬ場合があるってことか?」

「!」

 雷は不安そうに改空を見る。

「分からない」

「……」

「まあ死ぬことはねえよ、まだ」

 雷は強気に見えて案外心配性で、一人だとなにも出来ない奴だ。

 改空も顔に出ないだけで、本当は心臓バクバクだろう。

 空は今日初めて話したけど、改空の友達なら……。

「こんなかで一番動けるのは俺だ」

 生き残る。

「全員、俺が守る」

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