第二話 異変
俺が目を開くと、白い天井とカーテンのレールが見えた。
あの後……気絶したのか?
上はともかく、創と雄介は大丈夫か?
右腕がズキズキ痛む、発砲したからか。
つうか、普通に拳銃使っちっまったけど、大丈夫かな。
自己防衛……にしてはやり過ぎた気がする。
「ゆうくん、明日で退院だね」
「うん! それで、お母さんがね、今度、えっとあの、あれ、遊園地に連れてってくれるの!」
「良かったね、でもはしゃぎすぎちゃ駄目だよ? また怪我したら、いけないからね」
「うん! 分かった」
……あの子には待ってる人が居る。
俺には誰か、居るのか?
父さんも母さんも、居ない。
「看護婦さん、今度な、孫がぁ見舞いに来るんじゃ」
「良かったですね、典正さん」
「ああ、立派な孫を持ったよ」
あの爺さんにも居る。
俺に家族は居ない。
生まれた時から居なくって、おばあちゃんも一昨年死んだ。
「或人くーん」
と、青空を眺め、考えている俺の名を誰かが呼んだ。
女の声……俺の友人の中でわざわざ見舞いに来る奴は……[[rb:光先雷>こうさきあずま]]か[[rb:縫待繭>ぬいまちまゆ]]か、それとも。
「あ、居た」
門か。
「おはよう、門さん」
「もう、お昼だよ」
「そうか、気付かない内に日が長くなった」
「だね」
「あ! 怪我大丈夫?」
「え?」
門は目を丸くして、気の抜けた声を出した。
「あ、すまん」
「なんで知ってるの?」
「え?」
今度は俺から間抜けな声が出た。
門は左袖を捲り、俺に見せてきた。
「ここ、気付いたらアザが出来てて……それに……なんか事件があったみたいで、警察に取り調べを受けて、それに……」
門はもじもじと指を動かす。
「カード」
俺は思い当たる事を1つ呟いた。
「!」
門の指が止まる、どうやら図星の様だ。
「知ってるの? その白いカード」
「ああ」
「今どこにあるの?」
「知らない」
多分、雄介が持ってると思うけど、今どこに居るのか。
「あのカード……合格した時に制服と一緒に届いたんだけど、何も書いてないでしょ?」
「ああ」
「でも時々文字が浮かび上がるの」
なるほど。
「条件が分からないから、調べようと思って、持ち歩いてたんだけど」
カードが光った理由として思い付くのは3つ。
1つ、所有者に危険が迫ったから。
2つ、あの3人組の影響。
3つ、強い感情。
2つ目はあるともないとも言い切れないから保留、1つ目が妥当だが、3つ目も捨てきれない。
「或人くん、後ろのカバン」
門は俺の後ろを指差す。
「ああ、俺のだ」
「光ってるよ?」
「え!」
俺はすぐに振り向き、光っているカバンを取り、中を開けた。
「これは……カード」
なんでここにある。
「光ってる」
俺は痛む右手でそのカードを取り出す。
「これは……!」
門は俺の背中に寄りかかってカードを見る。
「文字が」
JOK……JOKERか。
どういう意味だ?
「きゃゃゃ!」
壁を貫くほどの叫び声が廊下から響いた。
「なにかあったのか」
足音が近づいてくる。
床に伸びる影は人の形をしていない。
「ヒッ」
姿を見せた怪物は上半身が尋常じゃないほど膨張していて血管が浮き上がっている。
その怪物がこっちに振り向いた瞬間、俺は目を疑った。
人……だ。
その人は、病室に入ろうとするが、あの巨体に病室のドアは小さい。
「門、離れてろ」
「え?」
俺はゆっくりと冷えた床に足をつけた。
俺の右手にあるカード、これで雄介は変身しブレという男を倒した。
クソ、立っているだけで全身が痛い。
「良いか! 隣のゆうくんはなぁ! 今度親子で遊園地だ! 前の爺さんは今度、孫が来るらしいぜ!」
もうあの人に自我は無い、操られてる、怪物だ。
怪物は壁ごとぶち壊し、入ってくる。
「俺は幸せだった! だから分かる、幸せの大切さが!」
「ギャアアアァァァ!」
天井を削りながら、怪物は手を振り上げる。
「てめえに、幸せは壊させねぇ!」
俺はカードに全てを賭けた。
不思議と全身の痛みが消えていく。
怪物の攻撃より先に、俺の攻撃が届く!
何でも良い!
こいつを倒す!
「!」
切った。
カードがあの巨体を。
「ウッ」
俺は床に倒れた。
反動か、また全身に痛みが来た。
「『ジョーカー』はいわばワイルドカードだ、貴様が望む力に変化する」
「誰……だ……?」
こんな低い声、俺の友人じゃねぇな。
体が動かねぇ。
「今は言えんが、いずれ言おう。それよりまずは君の怪我を治そう」
なにをする気だ?
「今後の戦闘に支障が出ては困る」
「どういう意味だ」
「明日の中間テストで、答えは出る。それより、あのバグは思っていたより厄介だ、いや仕様か」
バグ……あの3人組のことか?
テストとあの3人組になんの関係がある?
つうか、明日の中間テストって、俺、一週間異常寝てたのか?
「これで治ったはずだ、病院には私が言っておく。家に帰れ、枝切或人」
熱が引いていき、温泉に入っているような温かさが体を巡ってくる。
「さぁ、立て」
「無理だって……おっと」
水が入っていないヤカンを持った時のように俺は勢い余って目の前の壁にぶつかる。
「おい、てめぇ!」
俺が振り向いた時には既に男は姿を消していた。
仕方なく、俺は男の言う通り、家に向かった。
親が遺した、一人暮らしには不相応な一軒家。
「着いた」
俺はドアノブを握る。
鍵閉めてたよな。
そう思いながらドアノブを回し、引っ張るとドアが開いた。
「よう、或人」
リビングから、出てきた男の声に俺は思わず息をのんだ。
「……雄介……?」
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