Unreals

奇想しらす

第一章 交差する未来達

第一話 始まり

 天璣県てんきけん烏庭市うていし、面積144.4 km²、人口139.2万人。

 7つの区で構成されており、時代を先取りした政策を行っている。

 観光地として有名なのは一度人類が滅んだ証明となる蒼星洞窟の『ユニバースレコード』。

 だが現在、破損が見つかり、研究者達が修復作業で閉鎖中。

 もう一つは国立虹星こうせい高等学校、俺が通ってる学校だ。

 そして、俺が住んでいるここ影鵺区かげやくは久々の祝日で賑わっている。

 俺も友達と映画を見に行く約束をしている。

 影鵺駅北口で俺は少し早めに来て、2週間後の中間テストに備え勉強している。

「或人くん」

「よ」

 幼馴染の風波上かざばたかがやって来る。

 あとは2人、もう約束の時間3分前だぞ。

「映画楽しみだね」

「まあ、俺はあんま興味ねぇけど」

「……今日見る『領域〜隊長と3つの力』は原作でも人気な章でそれに」

「知ってるよ、隊長が死ぬんだろ?」

 上にその漫画を読ませたのは俺だからな、まさかここまで死ぬとは思わなかった。

「そう! そのシーンが映画のスクリーンで見れる。ああ、生きててよかった」

 自分が好きなキャラが死ぬシーンが好きとかどうかしてるぜ。

「おーい、枝切えだぎり、風波」

 合創あわせはじめが俺達に声を掛け近づいてくる、その後を津田雄介つだゆうすけが着いてくる。

 俺は時計を見たあと、2人に言う。

「お前ら、2分遅刻だ」

「創が寝坊した」

「てめぇ」

「まあまあ、早く行こう」

「あ、ああ」

 上の言う通りだ、俺達は鵺足橋やそくばし行きの電車の5両目に乗り込む。

 ここから3駅先の蒼星駅で降りて10分歩けば映画館だ。

 数分後、蒼星駅に着き、俺達は映画館に入る。

「席どうする?」

 創がタッチパネルの前に立ち、聞いてくる。

「Jの6、7、8、9で」

「8、9はもうある」

「なら、俺と創がKの6、7」

 俺が悩んでる所に雄介が入ってくる。

「それなら行けるわ、あとは俺がやっとくから」

「じゃあ僕、ポップコーン買ってくるね、味は」

「塩とキャラメルのミックス!」

 創が食い気味に答える。

 まあ、俺は食わねえから良いけど。

「俺も飲み物買い行ってくる」

 映画は12時35分からか。

 入れるのはその10分前。

「雄介、上に言っといてくれ、12時20分にトイレの前のイスに集合ってな……良いよな」

 後ろでタッチパネルを操作している創に聞く。

「おう」

「ってことだ。あと俺コーラな」

「分かった」

 そう答えて雄介は上を追いかける。

 俺もどっか行こっかなぁ。

 だとすると、4階の古本屋で立ち読みするか、5階のゲーセンか。

「創、お前はどうする?」

「俺はおもちゃ屋見てくるわ、枝切もどう?」

「……行くわ」

「良いね……」

 創の表情はよく分からなかったが、ニチャアと口角を上げてるだろう。

 俺と創は5階のおもちゃ屋のエリアに入る。

「アレ、持ってきたのか?」

「あったりまえよ」

 創はショルダーバッグから例の物を取り出す。

 これは俺達が虹星学園に入って1週間で起きた異変。

 俺と上は上半身、主に腕の痛み(もう終わっている)。

 雄介は連日、変な夢に襲われる。

 そして創には謎の機械が届いた。

 この機械を俺達はWO(分解した時部品にそう書いてあった)と呼んでいる。

「どうだ?」

 商品とWOを見比べる創に俺は聞く。

「どれも合わない、形は変身ベルトに似てるんだけどな」

 そういって、創は変身ベルトとWOを並べて見せる。

「確かに、変身ベルトと仮説すると、対応する変身アイテムがあるはずだ」

「なら俺みたいに届いた奴がいるはずだ」

「じゃあ」

「あの……」

 俺達は声のする方に顔を上げる。

「えっと……創さん、枝切さん」

 その顔に俺は肩がビクッと跳ねた。

「こんにちは、写紙さん」

 写紙門うつしがみゆき、昼休み中、一人で弁当を食べてる貧乳の女で、ラノベとか読んでるし、いつか語り合いたいと思ってる。

「何してるんですか?」

 高校生2人が子どものおもちゃを眺めている。

 事情を知らない人からしたら奇妙な光景だろう。

「お、俺、弟が居て、もうすぐバースデーで、だから相談してたんだ」

 俺は創に合わせろと目で訴える。

「あああああ、そうなんだ」

「とりあえず、移動しませんか?」

 俺達は近くのベンチに移動する。

 そして上手く話をごまかした。

「なるほど、誕生日プレゼントですか」

「写紙さんは今日はなにしに」

「門でいいです、その……恥ずかしながら」

「言って、言わないから」

 少し悩んだ後、門さんは口を開いた。

「私、カードゲームが趣味で、今日は新弾が発売するので、ここに」

「そうすると、WXMウィザードアンドモンスターズか」

 創は指を鳴らしながら言う。

「そうです、創さんもやってるんですか」

 WXM、俺も中二までやってた大人気カードゲームだ。

「おう」

「枝切さんは?」

「俺は昔やってたかな」

 カードが多くてついていけなかったんだよな。

「やろうぜ、スターターでも今は充分戦えるし」

「いや、俺は」

「やりましょう! 面白いですよ」

「……分かったよ」

 俺は2人に言われた通り、スターターデッキとスリーブを買った。

「じゃあ、俺達、映画見てくるわ」

 スッキリした表情で創は門に言う。

「何を見るんですか?」

「『領域』」

「ああ! 良いですね、特にあの……あ、これからですもんね」

「そ、じゃあ、明日学校で!」 

「はい」

 嬉しそうに手を振る門に俺はそっと手を振り返した。

「行こうぜ、そろそろだ」

「ああ」

 俺と創はエスカレーターの方に体を回し、歩き出す。

 そういえば門が人と話してる所を見たこと無いし、笑顔も初めてみたな。

 そして可愛かった、俺と頭2つ分の身長差だし、白いワンピースがよく似合うし、思ってたより表情豊かでそこも良い、それに趣味もだいたい合ってるし。

「なにニヤけてんだよ」

「門さん、可愛かったなって」

「ミートゥ、分かる」

「WXM、あとで教えろよ」

「ああ」

「あと、WOの話は帰る時な」

「了解」

 俺達は待ち合わせ場所に向かった。

「来たか」

「トイレは大丈夫? もう行くんだよね?」

「大丈夫だ、創、チケット」

「おう」

 俺は創から4番スクリーンのKの7番席のチケットを受け取る。

「あと、チケット代頂戴」

 俺は心の中で舌打ちをしながら財布を取り出す。

「わりぃ、札がない」

 俺は五百円玉1枚と百円玉5枚を創に渡した。

「枝切、550円だ」

「分かってるよ」

 五百円玉と五十円玉を1枚ずつ、雄介に渡す。

 今日で金が一気に減った。

「よし、行くぞ」

 俺達は勢いよく、受付に向かった。

 受付の店員がカウンターから出てきて、頭を下げてきた。

「申し訳ありません、現在機材トラブルがあり、映画を上映することが出来ません」

 なんだと。

「いつ直りますか?」

「それが……原因が分からなず、専門の方が頭を抱えておりまして、いつ再開出来るか……」

「そうですか」

「返金対応は後日メールでお知らせします、どちら様か当映画館のアプリをお持ちでしょうか」

「創」

「ああ」

 創は店員の指示に従い設定を済ます。

「申し訳ありません」

 俺達は映画館を出た。

「残念」

「創、お金返せ」

「そうだな」

 俺は財布を取り出し、創からの返金を待つ。

「いてっ」

 俺は通行人とぶつかり小銭を落とす。

「ああ」

 俺は落ちた十円玉と五円玉をとにかく拾い集めた。

「或人くん、これ」

「拾ってくれたのか」

 上から小銭を受け取り、財布にしまう。

「なんだよ全く」

「ついてないな」

「ほい、みんな」

「「おう」」

 俺と上と雄介は創から千円ずつ返してもらい、財布にしまった。

 その時、車のクラクションが音をかき消した。

「帰ろうぜ」

 またクラクションが鳴る。

「悪いなんて言った?」

 雄介が聞き返す。

「だから帰ろうって」

 またクラクションが鳴る。

「なんなんだ」

「手前等退けよ!!」

 後ろの交差点から怒号が轟いた。

「おい見に行こうぜ」

「危ないって」

 創の提案を上が反対する。

「俺は行く」

 何度も俺の言葉をかき消しやがって、顔だけでも覚えてやる。

「俺も行く」

 雄介、分かってるな。

「行くよぉ」

 上を嫌々了承しているのが声だけで分かる。

「大丈夫だ、ここから見下ろすだけ」

 俺達は手すりに寄りかかり、下の交差点を見下ろす。

「ちゃんとドラレコに残ってるからな! サツ来たら即お縄だ」

 どうやら運転手と白衣を着た3人組が言い争っているらしい。

「サツとは……警察のことか」

「手前等、名前なに?」

 3人組は顔を見合わせた後、運転手の方を向き、答える。

「私はコキノ、この身体の名は平陸乾ひらおかかわき

「俺はブレ、身体は宇空乱うくうらん

「自分はプラーシノで、静海乞しずうみきつ

 その名前は……!

「あ」

 上も気付いた様だ。

「何か知ってるのか?」

「え、知らないの?」

 上は驚きを超えて呆れた様子で言う。

「『ユニバースレコード』の研究者だ」

「まじか……でもよ、『ユニバースレコード』の研究者なら蒼星洞窟にいるはずだろ」

「そのはずだ」

 でも、前にニュースで見た時と様子が違う。

 平陸乾は落ち着きのある声の中に好奇心が隠れていた。

「おお! 乾研究者、有名人、これがバレたらどうなるか、皆見てるぞー」

「私はコキノだ」

「嘘なんて無駄無駄無駄無駄無駄、これが有名税だ!」

「そんな税は無い」

「なあコキノ、このウーウーウーって音、何?」

 パトカーが来た。

「サツだよ、もう終わりだ、お前らは!」

「どうする、ブレ」

「今検索中だ」

「分かった」

「今更遅いんだ……よぉ」

 運転手の様子がおかしい。

「或人くん、唇が……あ!」

 上は俺の後ろを指差し、そのまま倒れる。

 俺はその上の指差す先を見て、絶句した。

 さっきまで俺達が居た映画館が斜めに切れている。

「なに、なにが起きてる」

 俺達は手すりの後ろに隠れた。

「人に囲まれてる場合、皆殺して逃走という答えが出た」

 コキノという男が言う。

 皆殺しだって……?

「逃げるぞ」

 創は上を担いで、駅に向かって行く。

 今ので、電車は機能しないだろう、どこに逃げる。

 それに上を担いで、どこまで行ける?

 警察は来ている。

「待て、創」

「君たちは……」

「「!」」

 背中に悪寒が走る。

 後ろから殺気を帯びた声が聞こえる。

 白衣の裾が俺の顔を撫でる。

 今、俺と雄介の真後ろにブレという男が居る。

 まずい体に力が入らない。

「虹星学園の生徒か」

 なぜ知ってる?

「待て」

「アアッ!」

「ヒッ」

 反射で声が出る。

 ブレがそう言うと前にいる創のアキレス腱が切れ、血がドクドクと溢れていく。

「降りてきなさい!」

 警察!

 来たのか!

「お体に触りますよ」

 は?

 直後ブレは俺の首を掴み、警察に見せつける。

 高い、ここから落ちたら、骨折で済むのか?

 済まない!

 警官達の表情は恐怖で染まり、拳銃が震えている。

「拳銃を地面に置け、置かなければこの者の首を締める」

 どんどん力が入っていき、息が苦しくなっていく。

「ひゃ……え」

 警官達は銃を地面に置き、離れていく。

「よし殺せ」

 次の瞬間、警官達の頭が宙を舞った。

「これで全員か」

「俺の後ろに虹星学園の生徒が3人居るが、もう動けない」

「……助けて」

 ブレの力が緩んだ時、俺は言った。

 叫びたかった、泣きたかった、でもそんな体力は無い。

 ただ無力感に襲われながら俺は呟いた。

「分かった」

 ブレは押し飛ばされ、掴まれている俺も一緒に落ちる。

 ブレがクッションになったか、骨折程の痛みじゃない。

「ガキが」

「動けるんだ」

「どうするんだ?」

「コキノ、プレーシノ、先に行っていろ、俺はこいつを殺す」

「「分かった」」

 コキノとプレーシノの姿が一瞬で消える。

 俺も何かしろ、銃だ、銃があるはずだ。

「行くぞ」

 ブレの姿が消えた。

 今、今、今!

 俺は余力で立ち上がり、銃を拾う。

 そして階段から雄介の所に向かう。

 壁を伝い、死体を踏まないように進む。

「これは……あ、あ」

 この白いワンピースは……門?

 俺は死体を退かしその体を持ち上げる。

 顔を見て、俺は自然と涙が出た。

 死体とは違い、肌に色がある。

 まだ温かい、心臓が拍動している。

 生きてる……!

 思わず俺は門を抱きしめた。

 そして俺は門の右手に気付く。

 そっと門の右手を開くとそこには――カード。

 光っている、白いカード。

「あとで返す」

 何かの役に立てばと俺はカードを持ち、階段を上る。

 光が見えた、もうすぐだ。

 俺は銃のセーフティーを外す。

 待ってろ、雄介。

 着いた、俺はすぐにブレを探す。

「死ね」

 ブレが雄介を踏みつけている。

 止めろ!

「!」

 俺は引き金を引いた、物凄い反動が俺の右腕に響く。

「ガキがぁ!」

 ブレは頭に入った弾丸を取り出し、怒りを露わにする。

「或人、そのカードを」

「ああ」

 届け、そう願いながら、カードを雄介に向かって投げる。

「邪魔だ」

 ブレは俺に攻撃をしようと手を向ける。

「止めろ」

 雄介がブレに言う。

「見せてやる」

 雄介が左手に持ってるのは光っているWO、そして右手には俺が渡したカードがある。

 雄介はWOを腰に当てる、すると雄介のベルトと一体化し光が消える。

「させるか!」

 俺はブレに向けてもう一発弾丸を放つ。

「やれ雄介! こいつは創も門も傷つけたこいつを!」

 雄介はWOに左手をかざしスライドする、するとWOの前半分が左にズレ、スペースが生まれる。

「ああ!」

 その思いにカードが共鳴したのか一際強い光を放ち、絵柄が変わった。

「H……E、R、O」

 カードにはHEROと書いてある。

「変身!」

 雄介は右手を掲げ、反時計回しで1週させ、WOの右のスペースにカードを通す。

 カードは結晶と化し、雄介の体を覆う。

 前半分のズレを戻すと結晶は形を変え、白い鎧となる。

「何だそれはぁぁ!!」

 ブレは破茶滅茶に攻撃する。

 雄介はWOの前半分を右にズラし、生まれたスペースにさっきのカードを通す。

 すると、WOから剣が、生えたと言って良いのか分からないがとにかく剣が現れた。

「斬撃だな」

「!」

「空気を圧縮して、飛ばす、斬れる理由は分からないが」

「知った所で!」

 雄介は剣で斬撃を受け止める。

「或人! どうしたい」

「ぶっ飛ばせ!」

 俺は恐怖を超えて怒りを超えて安らかな気持ちで答えた。

「皆の望みに答える、それがヒーローだ!」

 雄介は斬撃に勢いを乗せて弾き返す。

「止まれぇぇぇぇ!」

 ブレの声が彼方へ消えた。

 雄介は変身を解除し、俺の方に歩み寄る。

「救急車を呼ん……」

 雄介は倒れる。

 いつもなら、すぐに救急車を呼ぶが、俺は脱力感と達成感に浸かり目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る