最終回 生きていて

…思い出した。思い出したわ、すべてを。私を殺したのがまさかの担任の先生だなんてね、あははっ。最後まで嫌われて終わるんだ、私って。代わりに…。代わりに、優奈が幸せになるんだろうなぁ。ーなんか複雑だ。


小さい頃にお母さんが死んで、お父さんはお義母さんの影響で、次第に私に暴力を振るうようになっていって…ストレスを撒き散らした場所は学校になった。クラスメートをいじめ、嫌われ、居場所がなくなった私は優奈を傷つけ、教師にばれ、殺されたー…。波瀾万丈の人生だった。何も楽しくない、無駄な人生。少しぐらい『幸せ』を味わってみたかった。


ごめんなさい、ごめんなさい。

大好きな優奈。私が転校してきた時も、優しく声をかけてくれたクラスメートのみんな。クラスで孤立していた私に優しく接してくれた中田先生。


悪いのは私だけ、私が悪いんだ。


生きている意味なんて、なかったんだよ…。




「…ーゃん、ー…ちゃん!」

聞いたことのある、優しい声。この声は…だれ?

「苺花ちゃんっ!」

「ひゃっ!」

声にならない悲鳴をあげると、頭に激痛が走った。耐え難い痛みをこらえて目を開くと、まっしろな天井に、涙目のー…。

「ゆうー…っ」

優奈だ!声を出そうとすると、掠れてしまって声にならない。それでも懸命に叫ぼうとする。だって。だって、優奈は私の親友だもの。八つ当たりしてごめんね。それでも私はー…優奈がいないとダメみたいだよ。

「なんでゆうながっ…」

ガラガラした声が出た。ダメっと優奈が叫んだ。

「無理にしゃべっちゃダメだよ。今苺花ちゃんの喉、腫れてるんだから」

何で?何で今ここに優奈がいるの?段々と意識がはっきりしてきた。ここは病院の一室。部屋には泣きそうになりながら私を止める優奈。え?私、生きてる…?

「い、いきてる?どうしてゆうながここに?」

口の中に血の味が広がった。頭も痛いし、口も気持ちが悪い。

「苺花ちゃんは何も覚えていないんだ…。でも、しょうがないよね。苺花ちゃんが生きていて良かったぁ…」

え?優奈、私のこと、嫌いじゃないの?あんなに酷いことしたのに。え?

「ゆうな、わたしのこときらいじゃないの…ゲホっ、ゲホっ」

優奈が急いで机の上に置いてあった水を持ってきてくれた。

「嫌いなわけないよ!苺花ちゃんはいつも私のことをちゃんと見ていてくれた。意地悪された時はちょっとつらかったけど…。それより楽しい時間の方が多かった!大好きだよ!」

冷たい水をゆっくり口にすると、喉がひんやりして気持ちが良かった。優奈の話を聞きながら、泣きそうになるのをこらえて水を飲み続けた。

「学校でも友達って呼べる子がいなかったから、苺花ちゃんが放課後いつも呼んでくれて嬉しかったし」

「でも、たくさんきずつけた。ごめんなさい」

空になったペットボトルをながめながら、小さい声で呟く。すると、優奈はニコッと笑って抱きついてきた。

「ほら!自分の否をちゃんと認めて、しっかり謝ってくれる。苺花ちゃんは良い子だよ」

堪えきれずに涙がこぼれた。それを隠すようにぎゅっと抱き締めてくる優奈。中田先生に殴られたから全身痛いけれど、なんだかホッとする。…ん?中田先生?…そうだ、中田先生っ!!

「ゆうな、なかたせんせいは!?」

腫れているのに泣いていて喉はもう限界。それでも聞かずにはいられなかった。

「お母さん…。苺花ちゃん、ごめんね。お母さんの代わりに謝る」

えっ、優奈中田先生がしたこと、知ってるの…?優奈は私の質問に答えるように、寂しげに笑って言った。

「私、その日の朝にお母さんに言われたの。今日苺花って子と遊ぶの?って。そうだよって答えたらお母さんがね、今日は私ひとりで行くわって言ったんだ。お母さんって心配性だから、変なこと言って苺花ちゃんを傷つけちゃうんじゃないかなって思ったんだ」

優奈は私の心がボロボロだったこと、気付いてくれていたのかもしれない。

「だから実は後をついていったの。でも、充血した赤い目で苺花ちゃんを嘲笑うかのようなお母さんが怖くて仕方がなくて、結局は苺花ちゃんを守ることができなかった。私は足も遅かったから、全力で林の方へ走っていった二人を止めることはできなかった…。着いたときにはもう苺花ちゃんの頭から血が出てて…グスッ、それ見たお母さんは怯えたように林を去っていった。私には気付いていなかった。苺花ちゃんは意識がなくなっても泣きじゃくっていたからね、グスッ、喉が腫れちゃったんだよ」

途中から、優奈の声は溢れる涙によって途切れ途切れになっていった。怖い思いもしただろうに、優奈は実の母親の犯行を警察に伝えたんだ。やっぱり私は優奈にも中田先生にも酷いことをしてしまった。

「警察に、お母さんがしたことと苺花ちゃんがしたことを言ったの。ちゃんと罪を償ってほしいんだ、お母さんにも苺花ちゃんにも。大切な人だからこそ手加減はしたくない。」

私は、いじめられた時の優奈の気持ちをしっかり考えたことがあっただろうか。私が…私がいじめられていたら。きっと自殺していた。生きることが楽しくないだろう。生きる価値のない人間。私はきっと…

「私、謝りたい。クラスメートにも、中田先生にも…もちろん優奈にも。」

そう言った時の優奈の笑顔。大好きな向日葵同様の、心の底から安心できるそれ。笑えること、それが人生の楽しみかなってー…思ったんだ。


その次の日も、その次の日も、優奈は欠かせず病院に来てくれた。お医者さんには、殴られたから頭は血が出たけれど、少し縫えば大丈夫って言われた。優奈は、私のことを忘れてしまったかのように全く姿を現さない両親の代わりにそれを聞き、ホッとしたぁっと叫んでお医者さんに怒られていた。ホント可愛い。


2週間が立って、検査も終わってとうとう学校に行っても良い日がやって来た。クラスメートにはしっかり謝るし、自分の罪を反省していたいと思ってる。今日は残念ながら優奈とは遊べない。中田先生と面会時間に合う予定らしい。


「すみませんでしたっ!」

刑務所に入ってしまった中田先生の代わりに授業をする、臨時の社会の先生が目を瞬かせた。そりゃあそうだろう。2週間ぶりに学校にやって来たいじめっ子が、授業中に涙を流しながら謝っているんだから。病院を出る手続きをしていたせいで遅刻しちゃったから、急ぎ足でクラスに入ろうとして、そのまま入り口で頭を下げたままの生徒を見た先生は、何を思ったことだろう。コイツ頭おかしくなったのか、とでも思ったかな。もし気味悪がられても仕方がない。クラスメートをいじめる、とかそんな最低なことをしたんだ。クラスメートは、好奇心の混ざった馬鹿にするような笑みを浮かべてこちらを楽しそうに見ている。

「えーっと。佐田苺花、だよな?とりあえず頭を上げろ。で、ちょっと隣行こっか」

その先生は優しいイケメンってことで有名な、近藤大和こんどうやまとっていう先生だった。愛称ヤマちゃん先生。私がこの学校に来て、希望に溢れていた時にはよく話していた…気がする。ヤマちゃん先生は、私にそのまま隣の部屋に入るように指示した。隣の部屋は相談室で、クラスメートを呼んで悪口を言ったときにしか入ったことがなかった。私はこのままクラスメートにしっかり謝りたかったけれど、ヤマちゃん先生がみんなに向かって大きな声で自習ーっ、と叫んだので何も言えずにUターンすることになってしまった。私の瞳には、反射した光と共に、好奇心で眺めてくるクラスメートの顔が映った。なんだか居たたまれない気持ちになってうつむくと、それに気付いたヤマちゃん先生が私を隠すように立ってくれた。あぁだからモテるわけね、と考えていると、ヤマちゃん先生と目が合った。うん、イケメン。


「えーっと、近藤大和です。担当は社会。中田先生の代わり。って知ってるか。…ー苺花が頑張っていることも全部、知っているからな、大丈夫だ」

ヤマちゃん先生は優しいから、変な追及をしないでいてくれる。今回の件だって、もとはといえば私が悪いのに、それを頑張っているって言ってくれる。

「…本当に申し訳ございません」

謝るのは俺じゃないだろ、って言いながらもこれから謝ることを応援してくれている。胸の中にある小さな炎がポッと灯った。あーっ、ホントこの先生サイコー。


生きる楽しさ。生きる価値。生きる理由。すべてを考えて生きていかなくてはいけないから、時には迷ってしまうことがある。間違えてしまうことだってある。それでも生きていかなくちゃいけない。諦めたら本当の意味のサヨナラだ。


生きている謎を解き明かすことが、生きる意味なんじゃないかな。





あとがき

皆さんこんにちは!作者の夢色ガラスです!

このお話を読んでくれて、ありがとうございます!フォローして、いいねつけてくれた人なんか、もう嬉しすぎて頭がおかしくなりそうですw。

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これからも夢色ガラスをよろしくお願い致します!



                       <最終回>



        



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