第三話 優奈と私、そして犯人

「っ!!?」

息を飲んだ。優奈が誘ってくれたっていう事実だけで私は機嫌が良くて、鼻唄を歌いながら公園でスマホをいじっている時だった。その時彼女は現れた。私のことを気にかけてくれていた、あの人が。約束の時間はとっくに過ぎているはずなのに現れない優奈のかわりに。思わぬ人物が…。


「なんであなたが…!?」

私はベンチに向かって歩いてくる彼女に向かって叫んだ。驚きすぎてスマホを床に落としてしまった。

「優奈をいじめていたの、本当にあなただったのね…。残念だわ苺花さん。」

なんだか背中がゾワッとした。何でこんなところにいるの!?

「い、いじめてないです!それより、優奈は?!優奈はきっといじめだなんて思っていません!」

彼女が優しげな笑顔でニコリと笑った。目は笑っていなかった。

「優奈は今日いないわ。私にいじめられているって伝えたのは優奈だもの。今まで、水浸しになって泣きながら家に帰ってきたり、私があげたワンピースがなくなっていたり…。優奈がつらそうな顔をしていることがあったことにも、気付いていたわ。ね、あの子を傷つけていたのは、あなたなのよね?苺花さん。」

私は目の前が真っ黒になった。私の気持ちを分かってくれている、唯一の味方だと思っていたのに。この人何も分かっていない。私は優奈と遊んであげただけなのに。

「優奈の何を知っているんですか!?優奈は…優奈は、私の大切な友達だわ!優奈をいじめてなんていないです!」

「ふっ。」

彼女が笑った。暗い顔で私を睨むようにして、暗闇に咲いた美しい花のように。綺麗で残酷な表情で私を馬鹿にしたようにして、笑った。

「優奈が私に言ったのよ。佐田苺花っていう子にいじめられているって。お金を取られたとかさ、そんな最低なことしていたんだね、苺花さん。」

…なんで。なんであんたがっ。なんであんたにそんなこと言われなくちゃいけないのよ!優奈は転校する前の学校の友達。あんたが知るわけないのに…っ!

「優奈のこと、なんで知ってるんですか!?」

転校する前の優奈のことをなんで知っているのか。悔しくて、悲しくて、でも分かってほしくて…。大声をあげながら潤んだ目元を押さえつけた。こんなやつの前で、泣いちゃダメだって。そう言い聞かせて。

「優奈は…私の娘よ。」

!!!

「む、娘…。」

言われてみれば口元がそっくりだ。甘い声も、ほっそりとした手足も、優奈に似ている。名字だって同じだった。

「佐田苺花って名前を聞いたときは、本当にびっくりしたわよーっ。」

あははっと首をかしげて微笑む様子は男子の前で見せるクラスメートの仕草に似ていた。冷や汗が止まらない。コイツはきっと、いじめのことを私の大嫌いな学校に報告するんだ。それで私の居場所を失くして、影で嘲笑うんだ。優奈が私を裏切ったことは許しがたいけれど、それを利用するコイツはもっと嫌いだ。

「ね、それで?」

好奇心に溢れる、ギラギラと輝いた瞳は私の耳に甘く響いた。

「何がそれで、なんですか?」

私が小さく問いかけると、彼女は静かな声で囁いた。

「優奈の傷ついた身体を、どうやって取り返してくれるわけ?」

ヒヤリと冷たい汗が背中をつたった。だめだ、性格の良い優奈を元の健康な女の子に戻すことなんて、できない。

「……。」

私は走り出した。逃げるために。私の居場所を壊していく怪物から、逃げるために。でも。でも、いくら50m走が7・7秒の私でも、逃げられるはずがないことは分かっていた。相手は陸上部の顧問。


そして、私の味方だったなんだから。


「逃げる気?ホントに生きている意味、ないんじゃない?」

教育委員会に訴えられるレベルの悪口を言われたけれど、本当のことだし、今の中田先生は怪物なんだから仕方がない。…って余裕ぶっこいている私だけど、ホントは怖くて仕方がない。涙が溢れて止まらない。結局私の人生、こんなつまらないものなんだ。私が優奈と中田先生に謝ったところで、私の人生ピラミッドが崩れ落ちていくのは間違いないだろう。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ。」

「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ。」

私たちの追いかけっこはその後5分ぐらい続いた。無茶苦茶に走ってたどり着いた場所は…林だった。


部活動に入っていない私が疲れて動けなくなると、中田先生は充血した赤い目で私を見た。そして…近くにあった石を手に取った。


あぁ、ひどいよ先生。確かに私は誕生日プレゼントに偽物の虫をいれたりしたけれど。あぁ、ごめんね優奈。八つ当たりしてごめん。なんだかんだ言って私は優奈が大好きでした。本当に。


中田先生は小さい手を大きく振り上げた。あぁ、もうおしまいだ。死ぬんだ、私は死ぬんだ。


最後に一言だけ言わせて。

「優奈、今までありがー…ぐふっ。」

頭に固いものが当たった次の瞬間、痛いって言おうとしたその瞬間。…そこで私の記憶は途絶えた。





あとがき

皆さんこんにちは!作者の夢色ガラスです!

このお話を読んでくれて、ありがとうございます!フォローして、いいねつけてくれた人なんか、もう嬉しすぎて頭がおかしくなりそうですw。

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これからも夢色ガラスをよろしくお願い致します!



                       <次につづく>



        

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