第7話 エリュシオン


 僕達は遂にエリュシオンへ辿り着いた。


 ここはオリ=ファ曰く、代々聞かされていた【幻の祖国】なんだそうだ。


 ーーーー彼女達、ピラカンサスのコロニーに住む人々は、遥か昔には元々赤い星【コキノス】に住んでいた。だが、繰り返す人々の戦争や乱獲乱伐による物資不足、闇雲な工業発展や生命活動による星の汚染は深刻なものとなり、人口は大幅に減った。

 やむなく周辺の小惑星にコロニーを作って移住する者達と、他の星団へ移住する者とに人々は分断されてしまった。


 母国であるコキノスを汚染させたのは自分達の責任であり、その再生を待つために小惑星に移住し観察を続けるコロニー側の住人と、遠い星団へ移住し母国を捨て去った人々とは永く軋轢が残り、本来純粋な赤い星の遺伝子を持つ者しか持ち得ない、【音魂オトダマ】の能力が減退した者達がそれを奪い取る為に、過去幾度も戦争が行われた。


 それを回避させる為に、コロニーの学者達は既存人種の遺伝子から【音魂オトダマ】の能力を敢えて欠落させ、別にもう一つの遺伝子を新たに作り出してそこに能力を付与ギフトする事にし、戦の無い高次元の世界【エリュシオン】へと送り出す事にした。

 オリ=ファ達の様な有角人種は、その能力を欠落させた時の遺伝子の代替発展のような物だったそうだ。


 そして、【エリュシオン】では時が満ちた時に、自分達の境界エリアを見つけ出す魂をランダムに保管させる機能のある、【保管庫】である惑星を作った。


 ーーーーそれが、【地球】であり、その魂の容れ物がたまたま、【僕】だった。


『“ここは全ての貴方たちの希望でもあります。どのような在り方を望みますか?”』


 声が頭の中で問いを投げる。僕とオリ=ファはお互いに目を合わせて、頷いた。


「「争いの無い、笑顔が溢れる世界を!」」


 僕達は二人とも同じ言葉を同時に放った。

 すると、美しい旋律と共に周囲は虹色に輝き、二人は光に包まれた。


 光の中で僕達は二人とも、迎えに来たエリュシオンの住人のような純白の姿になり、オリ=ファは紅い髪がみるみる虹色に変化して、頭の両サイドの大きな角が消えてしまった。


「・・・私・・・どうなってるの?・・・変じゃない??」


 僕の方へ向き直ったオリ=ファは異変を感じて両手を頭にやり、髪の色と同じ、いや、より濃い虹色へと変化した美しい瞳を称えて、流れる水のようにキラキラと輝く長い髪を揺らして訊いた。


「変なんかじゃないよ。・・・その、凄く綺麗だよ。前も綺麗だったけど、もっと」


 僕は言った。なんだか今までだったら照れて言えないような言葉でもすぐに口に出せる。はにかんで微笑むオリ=ファを、僕は両手で抱きしめた。


「角があったのも、紅い髪も瞳も素敵だったけど、そうで無くても君は素敵だ。これからは、僕達で争いの無い世界を作ろう・・・一緒に」


 オリ=ファが潤んだ瞳で頷いた。


「・・・ええ、一緒に、ね!・・・あと、この旋律、私も知ってるわ!」


 美しく天使の多重合唱のように響く音楽は、『スカボロー・フェア』だった。


 地球ではイギリスの伝統的バラードを、サイモン&ガーファンクルが歌い上げた曲が有名だが、元の歌詞は「昔の恋人に伝えて欲しい、これらの不可能な仕事を成し遂げてくれれば元の恋人に戻れるだろう」と言う内容の、叙情的で寂しいが美しい歌だ。


 しかし、ここで今聞こえる歌は、


『伝えて欲しい、不可能な仕事などないのだから、これを成し遂げたら全て平和だ』


 と言う内容になっている。


“オリ=ファが知っているなら、本当はこういう歌だったんじゃないのかな・・・”


 ・・・と、僕は思った。




 ※※※




 ーーーー僕らはその後、【音魂】で様々な美しい旋律と共にエリュシオンから赤い星を再生させ、約束通りの【争いの無い笑顔で溢れる、幸せな世界】の礎を築いた。

 後に僕達の姿は各国の街に【伝説の始祖神】のレリーフ像として幾つか残る事になったが、その中のオリ=ファの姿には、実は角有りヴァージョンが存在するという事は、彼女には言っちゃ駄目だぞ、絶対にだ。





                  ~完~

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【音魂《オトダマ》】~君と僕の国創り~ 子子八子子 @nekoya-neko

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