第6話 目覚め


 僕達はその後、何も無くなった草原に二人だけで立っていた。


「さて、コイツもバラッバラかぁ・・・」


 僕は滅茶苦茶に割れたスマホを両手の上で眺めた。

 画面がバキバキに割れてもテープ貼って使ってる奴とか居るけど、ここまで全体が破壊されたのって初めて見るな。さすがにこれは修理できまい。

 ーーーーむしろ気持ち良いくらいだ。


「・・・ねえ、それって、森でハヤテが使ってた魔法道具でしょ?・・・ごめんね、ひょっとして私が余計な力を使わせたせいで・・・?」


 すっかり元気になったオリ=ファがおずおずと僕の手の中を覗き込んで訊いてきた。


「違うよ。もう、要らないって事だと思うよ」


 僕はニコッと笑って、両手でバラバラのスマホを天に投げ捨てた。


 もうコレが無ければ、つまんないSNSのやり取りに無理に付き合う事も、下らない炎上や金銭トラブルばかりのニュースや動画配信、エロやグロばかりの漫画やゲームを見せられる事も無くなるんだ(まあ、エロはちょっと気になるけどw)!


「・・・でも、【エリュシオン国】へはまだ行けてないわ。この先、貴方・・・どうやって魔法を出すの?」


 オリ=ファが可愛らしい赤い眉を寄せて心配そうに言う。彼女の心配も尤もだ。


 ーーーーだが、僕には『大丈夫』だと言う自信が湧いていた。


 不思議な事に、さっきオオムラサキが光と共に消失し、スマホが砕けた瞬間から、僕の頭の中に無数の魔法陣の様な紋様や、楽曲が文字化けした呪文のような言葉と記号の羅列が浮かび、そしてそれらが全て、呪文コードが理解出来るようになっていた。


「大丈夫だよ。・・・オリ=ファ、もう一度その首飾りを覗いて【エリュシオン国】の場所を教えてくれる?」


 急に自信に溢れた顔つきになったハヤテの様子に、少しの戸惑いと、もう一つの湧き上がる新たな感情に動揺しながら、オリ=ファはピンク色の丸ガラスーー本当は特殊な水晶の一種で【紅蓮水晶フレイル・クリスタル】と言うーーで赤い星【コキノス】を覗き込んだ。


 クリスタル越しに視える光点は、間違いなくこの場所を指し示している。


 ーーーー足元から周囲全てを照らすように輝いて視えていたーーーー


「・・・やっぱり、ここだわ・・・でも、ここには何も・・・」


 紅蓮水晶を外して不安そうにオリ=ファは言った。


「そう、ここなんだ。僕達の目的地は・・・」


 僕は周囲をぐるっと見渡し、森も消えた、僅かな岩石しか見当たらない草原地帯を少し歩いた。


“ーーーーだが僕にはもう、


 そして、ひとつ深呼吸をしてから、両手を大きく広げて唱えた。


「“Face  the Truth !(受け入れろ)”」


 その瞬間、膨大な大きさの魔法陣が光と共に僕の足元に浮かび上がり、楽曲の再生と共にみるみる周囲に木々が、建物が、街が、生えるように構築されて行った。


「な、なに・・・これ・・・は・・・!」


 オリ=ファが驚愕の表情で両手を組んで立ちすくむ中、どんどん周囲は構築が進み、あっという間に僕らは大きな白い美しい街の中央部に立っていた。そこには大きな噴水があり、光り輝く粒子のような物質が流れて、穏やかで平和な世界だった。


 僕はゆっくり両手を下げた。我ながら、驚いた光景ではあった。さっきまではただの草原にいたのだから。


 “ーーーーまあ、来た時も街中から気付いたら森だったんだから、その逆って事か”


「・・・ハヤテ、もしかして・・・ここって・・・」


 オリ=ファがそう言いながら駆け寄って来た。

 そして、彼女が僕の隣に来た時、正面の空間から人の姿が染み出すように現れた。

 その姿は純白で、地にも届くような長い虹色の髪をした、美しい人の形をしている。

 は僕達の方へ足を動かさずに地上を滑る様にゆっくりと向かって来て、性別も不明だが美しくも柔和な表情のまま、口を開かずに言った。


『“・・・ようこそ、エリュシオンへ”』


 直接僕らの頭の中に届いたその声は、さっきのオオムラサキとの戦闘の時に聞こえた声と同じだった。

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