第4話 消えた森


 二人で未知の星の未知の国へ進む事に決めた僕達は、意を決して森の中を進んだ。その後、時間も分からず闇雲に数体の魔物や獣を倒して僕らはどうにか森を抜けた。


 戦闘を繰り返す内にスマホの魔法(?)はどうやら楽曲のイメージに沿って攻撃が出来るようだと理解した。

 インターネット環境が無いから当然検索やマップなんて物は使えないが、DLされた楽曲なら使えるし普通に音楽として聴けるのも非常に有難かった。


 そして何より、紅い髪に山羊のような角を生やした彼女、オリ=ファの身体能力が思いの他高かったというのが大きかった。

 細い身体なのに頑丈で、どうやら生まれ育った環境より重力が違うようで、かなりの怪力も出せるようだと途中で彼女自身が気が付いた。


 となると、当然僕も『もしかして!』と思ったが・・・・・・。


「いたたったたーーーーーーー!!」


 森を抜けた先の草原にあった大きな岩石に拳骨をぶつけて見たが、痛いだけだった。


「ありゃぁ~~・・・・・・やっぱりハヤテに物理攻撃は期待出来ないみたいね・・・」


 オリ=ファが笑いながら言った。

『やっぱり』という言葉が最初から期待されて無かったみたいで気になったが、もう一つ気になる事を聞いてみた。


「ところで、その【エリュシオン国】ってのはどこにあるの?森を抜けた先にあるみたいな事言ってなかったっけ?」


 僕は赤く腫れた拳骨にフーフーと息を吹きかけ、痛みを我慢しながらオリ=ファに聞いた。


「そうなのよね・・・コレを頼りに来たけど、やっぱり見当たらないわ」


 と言って、彼女は首に掛けているアクセサリーを掴んだ。

 何でも、そのピンク色の丸いガラス板で赤い星を覗いた時に、そこに映る光で指し示す方向にその【エリュシオン国】が存在すると言う話なのだそうだ。


 彼女は他の大きな岩石に昇ってアクセサリー越しに辺りを見渡しているが、国のような城壁どころか集落すら見つからない。延々と広大な草地が広がるばかりだ。


「森の先に光があったから進んできたし、光はここになってるから間違い無い筈・・・って、あぁっ!!」


 オリ=ファが森を振り返って驚きの声をあげた。僕も同じように振り返り、彼女の驚きの原因が分かった。


「そんな・・・まさか・・・」


 僕達が進んできた、さっき抜けた森はすぐ後ろに広がっていた筈だった。

 しかし今、僕らの後ろにもどこにも、森の姿は影も形も無く、四方見渡しても見えない。


 森が消えてしまっている。


「おかしいわ・・・こんなことって・・・きゃぁっ!!」


 突然、彼女が昇っていた岩が『グワァッ!!』という爆音と共に砕け散った。

 岩石の砕けた硝煙が立ち上る中で、すかさずオリ=ファは空中に飛び上がり、くるくると宙返りして着地をした。素晴らしい身のこなしだった。


「大丈夫!?」


 僕も彼女に急いで走り寄ったが、勿論怪我一つして無かった。何となく役不足を感じて少し凹むが、それは仕方ない。それよりも、これは一体ーーーー


「見て!あそこよ!!」


 オリ=ファが僕の後ろを指差した。煙の向こうのそこには、何か巨大な影が見える。

 まさか、また森の外で遭遇したような恐竜モドキか、魔獣の類か!僕はスマホの楽曲選択画面にして、敵の正体を見極めようとした。

 岩が砕け散った煙が霧散すると、敵の姿が良く見えるようになった。

 何だろう、左右に大きな翼のようなーー美しい模様が見えるそれはーーーー


「あ・・・あれは・・・まさか、ち、蝶・・・・・・!?」


 間違いない!ネットでしか見た事がないが、こちらからは薄黄色い羽根に、左右に表面と同じ青紫色の美しい紋様がシンメトリーに展開される、オオムラサキの雄が、およそ3メートルはあろうかという巨大な姿でそこに羽を広げて立っている!!


「チョウ?・・・ハヤテの国ではそう呼ぶの?」


 オリ=ファが僕を庇うように前に立ちながら聞いた。心なしか、語調が震えている。動揺を抑えきれないようにも見える。


「そうだよ、でも、あんなに大きくなんか無いよ!せいぜい大きくたって11センチ位の・・・そう、僕の拳骨くらいでしかないよ!」


 僕は自分の左手を握って彼女の目の前で甲側を見せた。彼女は目を見張った。


「本当に!?・・・貴方の国が平和な訳だわ・・・」


 そう言って、オリ=ファは接近戦用の脇差のようなカタナを帯の内側から取り出し、オオムラサキを見据えて構え出した。


「・・・あいつらは第3惑星【エントーマ】の【プシュケー族】!私達のコロニーを壊滅させた奴らよ!!【プシュケー】には【魂を運ぶ者】という意味もある程に、美しい外見とは比べ物にならない程に獰猛で残忍な殺戮者達よ!!」


 その言葉と共に、彼女の紅い瞳が怒りで強く輝いた。

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