第3話 紅い髪の少女とチーズまん


「・・・実は私、この星の人間じゃないのよ。私の故郷は空の上で、今、私達の頭上で赤く輝いてるあの星のすぐ近くにあるコロニー惑星なの。貴方も、どこか別の星から来たの?」


「う・・・うん?そ・・・う・・・なるのかな・・・?」


 紅い髪の少女は顔を上げ、夜空を仰ぎながら話し始めた。


 彼女の話をまとめると、彼女の故郷は僕らを照らす赤い星【コキノス】の小惑星に存在する辺境の小コロニー【ピラカンサス】だが、宙域の惑星団で構成された宇宙同盟に属する7つの星団の1つ【シャイロ】に属していたそうだ。


 そして、昨年より他星団の戦争に巻き込まれ、中央部に大きな爆発が起こりコロニーも壊滅の危機に陥った昨日、気付いたらこの星に居たーーーーという事らしい。


「ーーねっ、だから、この星の事に詳しくないのは一緒だから安心して!って事」


 事情は分かったけど、安心は出来ないのでは?

 しかし緊張の糸が解けて、僕は笑ってしまった。


「あはは、何だか分かんないけど、お互い独りぼっちって事か!」


「そうね!・・・独りぼっち・・・・・・なのよね、あたし達」


 半ば自棄になって言ったけど、彼女の受け答えの語尾が少し震えていたのに気付いて『しまった』と思い、慌てて言葉を続けた。


「あ、えっと!!・・・ぼ、僕は地球から来た・・・って言うか、君と同じで気付いたらここに居た。その・・・戦争とか、僕は生きてきて今まで一度も経験なんてした事ないから、正直、どうしていいかなんか全然分からない。・・・でも、ここでオロオロしてても始まらないから、君と一緒にその【エリュシオン】って国に行ってみよう・・・と思うよ!」


 彼女の顔が綻んだ。紅い瞳が潤んで輝いて、物凄く魅力的だった。

 びっくりして、思わずまた目を逸らした。


「・・・良かった!私も独りであんなのに追い掛けられて、本当はどうしようかと思ってたの。魔法が使える貴方と一緒なら心強いわ!宜しくね、私の名前は【オリ=ファ】よ!」


 そう言って彼女は右手を差し出した。この星でも握手の習慣はあるんだな、と思いながら僕も右手を出す。すると、袖に通したままだったレジ袋がガサっと揺れた。


「・・・?なぁに、その袋?さっきから気になってたけど、見た事の無い素材ね?あんまり丈夫そうでないけれど・・・何が入っているの?」


 僕はレジ袋を袖から出して中身を確認した。不思議な事に、もう随分時間が経っているはずなのに、中身のチーズまんは買った時のホカホカの状態のままだった。


「・・・あれ?まだ温かいや。えと、これさっきコンビニで買ったチーズまんなんだけど・・・半分こして食べる?」


 僕はチーズまんを半分に割った。中身のチーズは最近リニューアルされた、『4種のチーズがギュギュッ!!食べてもっちり伸び~るチーズ!!』の謳い文句通りに、中身のチーズが“うにょ~ん”と伸びた。彼女は僕の手元を見て、大きな赤い瞳を更に大きく真丸くさせた。


「何なに!!それは・・・また、違う魔法を使ったの??何て言う生き物?なの??」


「い、生き物じゃないよ!!チーズまんって言う、食べ物だよ!・・・ま、まあ食べてみてよ」


 僕は半分こしたチーズまんを彼女に渡して、手元の半分を僕が先に食べて見せた。

 うん、温かくて、チーズが伸びて美味しい。

 彼女も僕が食べた様子を見て、恐る恐る半分のチーズまんに口を付けた。


「!!」


 彼女の赤い瞳が大きく輝き、驚きの表情をしながら残りをはみはみと食べ始めた。


「こ、コレは・・・素晴らしい美味しさねっ!中身の伸びるものが口の中でクキュクキュする歯ごたえに塩加減、コクと旨味のバランスが凄い!!周りの白いフカフカしたものも甘みがあり、なんという美味しさの食べ物なの!!凄いわ、えーと・・・」


 僕は彼女の食レポの細かさにポカーンとした。なんだろう、この世界はコンビニ業界から幾らか貰っているんだろうか・・・じゃなくて。そうだ、彼女は多分この食べ物の名前を知りたいのかな?


「コレは“チーズまん”って言うんだ」


「そうか、コレは“ちーずまん”ね。うん・・・・・・えっとね、私は、貴方の名前が知りたかったんだけど・・・」


「あ、そうか、僕の名前・・・僕は【新儀にいぎ はやて】。ハヤテでいいよ」


 強めの風が吹き、彼女の頭のベールがフワリと捲られ、僕はあっと息を飲んだ。


「ニイギハヤテか、宜しくね!ハヤテ」


 ニッコリと赤い星を背に微笑んだ彼女の頭の両サイドーー今まで飾りだと思っていたーーには、大きくトグロを巻くように丸まった、飾りでは無く本物の山羊の様な立派な角が生えていた。

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