第2話 スマホの魔法
その時だった。
片手に握り締めていたままだったスマホの画面がカァッと光り、まさに今、僕ら二人とも齧り付こうとする恐竜モドキの口の前を塞ぐように大きな魔方陣のような円形の光が浮かび上がった。
「・・・?」
僕は目蓋の向こう側から感じる強い光に反応して目を開いた。
こちらに突進していた恐竜モドキは動きが停止し、その眼前に広がった大きな魔方陣が揺ら揺らと発光したと思うと、急に強く七色に光り、まるで生きている網のように恐竜モドキの頭にグバッ!と張り付いた!!驚いた恐竜モドキは唸りながら身体を捩じらせるが、張り付いた魔方陣は発光しながらソイツを捕らえて全く離れない。
まるで大きなハエ取り紙みたいだ。
と、ここで僕は以前に猫がハエ取り紙に絡んだ動画を見たのを思い出して、場違いにも少し笑ってしまった。
すると、突然あの巨大な恐竜モドキがシュルルルル、と、空気が抜けたように縮んでしまい、あっという間に足元にはまるで鳥篭の中に捉えられたくらいのサイズの、ちいさな猫のような恐竜モドキになってしまった。
「・・・な、なんだ・・・?どうなってんだ??」
ガサガサ、と繁みの下から彼女が立ち上がろうと身体を捩じらせる音がした。僕はハッとして振り返り、彼女に訊いた。
「あっ、か、身体は?大丈夫?痛い所とかは・・・無い?」
彼女はフラフラッと立ち上がり、身体に付いた木の枝や葉っぱを払い落とすと、手を伸ばしたり足をトントンと軽く地面に叩きつけたりして、自らの身体のコンディションを確かめていた。
「うん、ちょっと足を痛めたくらいで、大丈夫よ。・・・すごい!貴方がアイツを倒したのね!ありがとう!!」
恐竜の姿が後ろに見えない事に安心した彼女は、改めて僕の方へ向き直り、満面の笑顔でお礼を言った。
良く見なくても、やはり物凄く綺麗な女の子だった。赤い月明かりに映える、艶の有る紅い髪の毛がふわりと風に舞った。首から下げたネックレスに丸いピンク色のガラスのようなアクセサリーが光っている。
「えっ、いやあ・・・その、僕は何もした訳じゃ・・・」
こんな綺麗な女の子に真正面からお礼を言われ、ドギマギして俯く僕をよそに、足元の魔方陣に捉えられたままの小さくなった恐竜モドキを見て更に彼女は言った。
「本当にすごいわ、こんな一瞬で『縮小陣』が出せるなんて、貴方、魔法が使えたのね!」
“『縮小陣』?”
そうだ、そういえばさっきはスマホから光が出ていた様だった。
僕は手にしたままのスマホの画面を見た。もう光は出ていないそこには、やはり文字化けした画面が表示されているだけだったが・・・待てよ。
確か、僕がさっきまで帰宅時にいつも聞いていたお気に入りの曲は、その曲名は・・・
ーーーー『Get Smaller(小さくなれ!)』だったーーーー。
「ねえ、お願いがあるの!私と一緒に森を抜けて、この先にある筈の【エリュシオン国】に連れて行って欲しいの・・・・・・どうかしら?」
紅い髪の少女は言った。
「エリュシオン国?・・・い、いやぁ、でも僕、この世界の事は何も知らないんだよ・・・」
ほんのさっきまで都心の街中を歩いていた人間に、異世界の案内のしろなんて無茶振りにも程がある。すると、僕の言葉を聞いた彼女はその綺麗な顔に灯る二つの紅い瞳を輝かせて、
「安心して!私もこの星の事はよく知らないから!」
と言った。
「・・・はい?」
何を安心するのか、ちょっと何を言ってるのかよく分からないんですけど。
ーーーー不安しか無い・・・
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