【音魂《オトダマ》】~君と僕の国創り~
子子八子子
第1話 赤い月
その日の月は真ん丸で、異様に赤かった。
僕は塾の帰り道の途中で、いつものコンビニで買ったばかりのチーズまんがホカホカと手の中で温かかった。
スマホを見ながら家まで後少しの距離を、いつも通り、お気に入りの曲を聴きながらチーズまん食べて歩いて、気付いたら玄関に辿り着く筈だった。
だった、のにーー
スマホの曲順をお気に入りの曲にトップ変更したら一瞬、眩暈がした。
ーーそして空気が、変わった。
街に潜む食事の支度の匂いやアスファルトの乾いた臭い、どこかから流れる音楽や煙草の臭いなどが一瞬で消え、代わりに濃くて青臭い草木の香りや、知らない動物の遠吠えのような音が聞こえる。
辺りは鬱蒼とした森に囲まれた僅かな平地で、草だらけの足元を照らす、妙に大きくて赤い月明かりだけが頼りの暗闇で、僕は呆然と立ち尽くしていた。
「・・・なんだよ、ココ・・・!?」
イヤフォンを外して辺りを見渡したが、やはり木々しか見当たらない。さっきまで歩いていた筈の、舗装された道路や家々の明かりと外壁や店舗などの建物、看板、電柱などが一切消えてしまった。
僕はスマホの画面を見た。そこには、さっきまで見ていた楽曲の再生画面では無く、見知らぬ文字が羅列された呪文のような文字化け画面になっていた。
「ぇええ・・・!」
不気味な恐怖に襲われた僕は、ここから逃げ出そうと後ろに振り返ると、どこからか足音と悲鳴らしき声が聞こえた。
『・・・・・・!!・・・・・・キャー!!』
遠くのようだが、だんだん近づいてくる気配だ。
どうしよう、暴漢か変態か、どちらにしろ、悲鳴が聞こえるという事は誰かが襲われている。そして、こちらに来ると言う事はもれなく僕も被害に遭う可能性が高い!!
「やばっ!ホントに逃げなくちゃ・・・!」
悲鳴の反対側の方向へ、とにかく走り出した。しかし木だらけで、まともに進めない上に足元が見えなくてうまく歩けない。そうこうしている内に巨大な足音と振動、そして追われる方の足音と声が近づいて来た。声は、女の子のものだった。
ドシン!ドシン!ドシン!ドシン!
「・・・もうっ、こいつ・・・しつっこい!」
繁みに隠れて見えたそれは、巨大なワニかトカゲが二足歩行しているような感じで、所謂博物館などで見た恐竜の外見にとても近かった。なんでそんなモノがここに居るんだ!?ここは一体どこなんだ?
そして、その在り得ないモノに追われているのは、薄い桃色の着物?じゃないけど着物に似たような作りの、だがもっと近代的な不思議な格好をした綺麗な女の子だった。頭の両サイドに大きな飾りとベールのような薄い布を着けている。
そして、僕と目が合った。
「貴方!そんな所で危ないわ!もっと奥に逃げるのよ!」
彼女が僕の方へ気付いた時に一瞬足が止まり、その一瞬を恐竜モドキは見逃さなかった。すかさず身体を翻して、長い尾っぽを「ブゥン!」と回して彼女の足を払い上げた!
「きゃあぁっ!・・・しまった!!」
彼女の身体は木っ端のように舞い上がり、僕の頭の上の繁みに投げ飛ばされて来た!
バサバサバサ、パキバキ、ドシン、と木々の枝を折り砕きながら彼女の身体が落ちてきた。
女の子は、まだ若く、僕と同じ位の年頃に見えた。真っ赤な紅色の長い髪の毛が印象的だ。だけど、そんなことより今はこの
「わぁっ!だ、大丈夫??」
僕は彼女に近づいて介抱しようとした。
「う・・・だ、大丈夫・・・」
繁みの中に埋まった彼女は息切れしながらも気丈に応えた。僕は彼女の背に片手を回してゆっくりと支えながら身体を起こす手伝いをした。
あちこち掠り傷での小さな出血が見えるが、骨や他の怪我はどうなんだろう。だが心配する余裕も無く、背後から恐竜モドキが僕らに襲い掛かる気配が来た!
「グォオオオガァッ!!」
大きな咆哮と共に巨大な口を開けてこちらに向かってくる!
どうしよう、彼女はさすがに今の状態では逃げるのも難しそうだ。僕はせめて両手で大きくバツの字を作り、頭を防ぐしか咄嗟に思いつかなかった!
「うわぁあああああっ!!」
もう、ここで僕の人生は終わりなのかーーーーそんなの嫌だ!!!
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