第五十話 True Identity Of Shadow

 フランス。

「ん……」

明はゆっくりと目を開き、動きづらさを感じながら、体を起こす。

「……起きたか」

クロードは明を一瞥して目の前のキャンパスに目線を戻す。

「その絵」

明はクロードの目線の先にあるキャンパスを見る。

全体的に黒や紺の寒色で構成され、真ん中に倒れた人、その周りに明るい赤と暗い赤が描かれている。

「俺か?」

「ああ、中央の人は倒れた君だ」

「情けねぇな……」

「君にはどう見える」

クロードは絵の具を混ぜながら、明に聞く。

「そうだなぁ……無礼者……」

「なぜだい?」

クロードは光の表現をキャンパスに足していく。

「神に抗おうとして死んだ、哀れな姿だ」

明は今までの人生を思い返しながら答える。

「それが君の人生か」

明はフッと笑い言葉を返す。

「どうかな」

「確かに君の言う、愚か者も入っているよ、けれど、本質は救済だ」

「救済?」

「この者は不幸だった、裏切られて傷付いて、散々な人生だ、だが、死ぬ時は静かで死にたくないと脈打つ心臓の音に身を任せ、瞳を閉じる」

クロードは筆を置いた。

明はもう一度キャンパスの絵を見た。

主に寒色で構成されたその絵は寂しさを感じさせる。

だが左上から光が差し込み、人を照らしている。

赤色はその人の人生の激しさを表すように所々形を変えている。

「なぁ」

「どうした?」

「俺も死ぬ時はこんなかな」

「私が知るか」

「タイトルはなんだ?」

「……そうだな、君は自分の事をどう思っている」

「罪人」

「では、この絵は罪人la pécheurと」

この時、明は赦された気がした。


 ローマ。

古賀は戦いを止め、レオニダスの館に招かれた。

「古賀……」

レオニダスは刃に付いた血を払う。

「くっ」

古賀は膝をつき、手に持ったナイフを落とす。

「足が治るまで……少なくとも3日か」

「なにが目的?」

「総隊長の戦いが終わるまで足止めだ」

話しながらレオニダスは斧を壁に立て掛ける。

「嘘をつくな、お前らが、お前らがそれだけな訳がない!」

「なんかしたか…………今から日本にした活動を言っていく。福岡タワー修繕費負担と人員配属、兵器輸出、鳥取砂丘の緑化防止、これが2040年代だ、なんかあるか」

レオニダスは斧の手入れをしながら話す。

「もっと前だ」

「……カゲロウか」

「ああそうだ、お前らは私を拐い、監禁した」

その言葉にレオニダスの手が止まる。

思い当たる節がなく、殺気立つ古賀に聞く。

「何を言ってる」

「知らないとは言わせない、全部覚えてるわ」

「いつだ」

「2034年の6月20日、11時」

「確か、中部地方の支部長の葬式だ」

顎に手を当て、頭の中で推理する。

「後ろから口を抑えられて、そのまま車に」

「姿は?」

「姿は黒くて分からない、それにほとんど眠らされてたから」

「カゲロウ」

「ガラス張りの部屋に閉じ込められて、そんな私を見る白衣の男達の目が時々出てくる」

「もう止めろ、ベッドに運ぶ」

「増えては消える友達……」

隊員を呼び、客室に運び込む。

「ハア、ハア……」

「古賀、これは俺の推理だが、お前の誘拐は六代目総隊長の独断で行われた」

「は?」

「その日は仲間の葬式で支部長たちは中部地方に居た。俺も居た、間違いない。総隊長は支部長たちの目を盗んで色んな人を拐った」

「葬式なら総隊長は出席するでしょ?」

「ああ、出席してた、だがあいつは出来るんだ」

古賀は目を開き、震えた声でその名を言う。

「カゲロウ! でも最近見たのと感触が違う」

「まだ未完成だったんじゃないか?」

古賀の目は恐怖に染まり、体は震えている。

「古賀」

レオニダスは床に座り、手を付く。

「お前が俺達を恨むのは分かった、恨まれて当然だ、六代目羽々鳥源はばどりげんという男が全ての元凶だ、出来ることならなんでもしよう」

「それなら……私の友達を助けて」

「分かった、どうすれば良い」

「名前は鳩桜正と熊野充、2人の体にはカゲロウが入ってるの」

「2人は今どこに」

「日本」

「分かった、日本の隊員にすぐ伝える」

「その隊員に伝えて」

古賀の目から涙が溢れる。

「正は感情を……充は心を……カゲロウに、奪われた……!」

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