第五十一話 Hero Flying Around Town

 アメリカ。

午前2時、登録者数10万人越えの配信者、Mr.creatureはワシントンD.Cの道路で配信を始めた。

「|Hey everyone. take a look at this《やあみんな、これを見てくれ》」

カメラを上に向ける。

そこに映ったのは、暗闇の中を動きまわる二筋の光。

「|Heroes are fighting. It's cool, right《ヒーローが戦ってるんだ、かっこいいだろ》?」

興奮気味に話す、Mr.creatureの前にグレースが降り立つ。

Keep it a secret秘密にしてね

グレースはそう言い残し、戦闘に戻る。

「……So sickやばい最っ高! I talked to hero俺ヒーローと話しちゃった!」


 スティーブは逃げることしか出来なかった。

グレースの奇妙な姿を見て、逃げるしか無かった。

Don't run away逃げないでよ

グレースは手を伸ばしマンションを掴む、体を引き寄せて、張り付く。

スティーブは屋上を飛び移り、銃で牽制する。

「日本語で行こう、読みづらいだろうから」

グレースは背中から剣を2本取り出す。

「|Who are you talking to《誰と話してる》?」

「別の世界の人かな」

グレースは空に手を振る。

Opportunity

振り下ろされたスティーブの拳を華麗に避け、スティーブの腹を2本剣で切った。

「まだ聞いてなかった、君は何だ?」

Justice正義

「ならば私は別の正義だ」

剣を捨て、加速装置で加速した拳をスティーブの胸に決める。

スティーブは壁を何枚か貫き、道路の真ん中まで飛ばされた。

「本気で行こうか」

隊服の黒いロングコートがグレースの体にぴっちり張り付き、そこから装甲が展開される。

「マーク85、世界で初めて記憶の引き継ぎに成功した、アンドロイドだ」

I am justice私は正義だ!」

スティーブは構える、自分の全てを込めた一撃を食らわせるために。

「違う!」

グレースは足から展開された小型ジェットで目にも止まらぬ速さでスティーブの前に到達する。

スティーブは認識し、無理な体勢から拳を繰り出そうとする。

グレースは右手を突きだし、体から液体を垂らしながら言う。

I am justice私が正義だ

パチンという音が響き、その後爆煙が舞い上がった。


 日本。

川崎。

「キリが無い」

数百万の汗が刃金の顔から垂れた頃。

「もう終わり、まだ……10分も経ってない!」

体からカゲロウを生み出しながら、1、2と指を折りながら、充は地面に膝をつく刃金に言う。

「! どうしました、はい、はい。はい……」

耳に着けた端末に通信が入る。

「何、なんかあったの? 仲間が死んだとかぁ?」

「……言え。操原一勝くりはらかずまさを知ってるか……」

「うーん、あの皺だらけのおっさんの事? なら僕が殺したよ」

「なら石ヶ谷剛いしがやたけしは! 東隼あずまはやとは!」

刃金は死んでいった同期の名を挙げる。

「うーん……殺したかな、僕の前に立ってて邪魔だったから、君もね」

「先の問に答えよう、連絡があった。お前の事について、カゲロウに奪われたらしいな、心を」

「奪われた? 何言ってるの、僕は! 貰ったんだ、感情を! 快楽を!」

「そして命令が来た、助けろとな」

「助けろって僕はそんな事は望んでない!」

「……」

刃金は腰に着けた刀を抜く。

「よくやったな、皆と」

刃金の眼に映るは在りし日。

刃金の眼に映るは友の亡骸。

「私達には口上という文化がある!」

――いや、ブームという方が正しいか。

「うるさい!」

充の叫びに共鳴し、カゲロウが一斉に襲いかかる。

「私の名は刃金剣、『鴉』初代総隊長鴉馬走に仕え、関東地方支部長の使命を担う者!」

刃金は刀を振りかざす。

「友の一勝、剛、隼を殺した宿敵に今、雷黒の一太刀を浴びせん!」

刃金が掲げし刀はあの日、友より預かった雷黒刀。

「は……?」

充の前に居た刃金は、充の後ろに居る。

何かを切った音がして、ほんの2と3秒。

ピカリと一線、光の筋が見えてはカゲロウが切られゆく。

砂煙とカゲロウが空へと舞い上がれば、その時には既に充の体、縦に真っ二つと成る。

「……」

真っ二つに切られた充の体はすぐにくっつき、充はその場にへたりこむ。

「僕は何をしてたんだ、ここは?」

充は辺りを見渡す。

「あ、そこの兄さん、なにがあったんですか?」

「知りません、私は行かないといけないので、これで」

刃金は刀を鞘に収め、友の墓場へ向かう。

「ああ……これ、僕がやった? あぁ、あぁあぁあぁ……やったやったやったんだ、僕が!」

充はグジュッという音を立てて、土を赤く染めた。


 渋谷。

「なるほど、助ける……か」

関崎は正の拘束を解く。

「?」

「頑張れよ」

突如、上からカゲロウの塊が正に降り注いだ。

「了解」

走は雷黒刀を抜き、正を見下ろす。

「鴉馬……走」

正は塊を取り込み、走を見上げる。

Αphone 第四章 Black Sword Running Around The World 完

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