第四十九話 An Airship Wrapped In Shadow

 日本。

川崎。

刃金は充の異変に気づき、距離を取る。

「その姿は」

「驚くなよ、たくさん見てきたんだろ」

充の姿が黒く染まっていく。

「私が見てきた奴らはそんな半々じゃない」

充の体は半分は元の姿だが、もう半分はカゲロウが蠢き、黒くなっている。

「そっか」

「なぜそんな姿に?」

「カゲロウを体に入れたんだ、最初は気持ち悪いんだけど、慣れると気持ち良いよ、ああ……中で動いてる、へっへへ」

「私の刀も入れて上げますよ」

充は体をよじらせる、刃金は構える。

「やってみろ」

充はカゲロウを伸ばす。


 渋谷。

「クッ」

正から出たカゲロウの触手が中の液体が流れず、先が切れている。

「カゲロウか、良く操ったな、だが、見誤ったな」

関崎は鞘に刀を納める。

「俺が座ったからとて、視線が一瞬外れたからとて、俺が帯刀してる限り気を抜くな、5年前から言ってるだろ」

「なぜ全部切らない、情報通り弱って……」

「弱くなったんじゃない、手を抜いてやってんだ」

「お前まだ20代だろ」

「まあそうだがな」


 中国。

溥西が勝利を確信した。

風向きが溥西にとっての追い風に変わった。

溥西とアバ、その間3キロを超える。

十字架型のバッグからスナイパーライフルを取り出し、弾を装填し、地面に設置する。

溥西が取り出した銃の名は万里跳長銃。

五代目総隊長の唯一の問題作である。

反動で複雑骨折や半身不随になる威力。

先代中国代表が前線から退いた理由。

その射程1キロ~5キロ。

溥西はセーフティを解除し、引き金と繋がったスイッチを持つ。

看到了見えた

台が動き、アバに照準を合わせる。

溥西は耳を塞ぎ、眼帯を外す。

「!」

溥西を視界に捉えた、アバ。

溥西もアバを視界に捉える。

スイッチを押す。

その瞬間、言い表せない爆音が響いた。

アバの眼は鋭い、2キロ先からの弾丸を見切ったと言われるほどに。

だが、アバはそれどころではなかった。

眼帯を外した溥西の姿に心臓を撃ち抜かれた。

Beautiful美しい……」

アバが倒れ、弾丸は当たらず、家の壁を2枚、3枚貫き、壁に突き刺さった。


 フランス。

「ハア……ハア、殺せ!」

明は彫刻刀で体を裂かれ、切られ、抉られ、血塗れの姿で言う。

「殺したら、私の仕事も楽になる」

「そうだろうよ」

気合で支えている体は震えている。

クロードは壁に刺さった彫刻刀を抜き、答える。

「だが断る」

「なん……だと」

「お前は私の作品になるのだ、タイトルは……」

明はクロードの熱心な目を見て、興奮で震える体を見て、体の力が抜ける。

「お前になら、良いかもな……」

明はその場に仰向けに倒れる。

「ん?」


 ローマ。

刃を交わして数時間。

「疲れたー」

レオニダスはその場に寝転んでいた。

「情けない」

「だって、つまんねぇし、そうだ!」

レオニダスは体を起こし、古賀に提案をする。

「引き分けにしないか?」

「無理、既に仲間が何人も殺されてる」

「総隊長の命令はこうだ、世界の意思に牙を向ける……おかしいだろ」

古賀は少し考えてから答える。

「……どこが」

「世界の意思に牙を向けるって、曖昧なんだよ、牙を向けるは戦う事だ、だが、その先が無い」

「?」

「つまり、戦ってどうするかは、俺達の自由だ」

「だから、引き分けでも良いってこと?」

「ああ」

「なるほどね」

「どうする、続けるか、終わらすか」

「……」

突然の提案に古賀は揺れる。


 アメリカ。

寝代はオーバンを縄で縛り、場所を移す。

「カイホウ」

「もうすぐ、お前らの頭と俺らの頭が戦う」

「……」

「走の命令はこうだ、何をしてでも、相手を戦闘不能状態にしろ、殺しても良いし、気絶でも良いし、お前みたいに縛っても良い」

寝代は手でジェスチャーしながら説明する。

「ワカッタ……」

「走はトップを倒せば、『鴉』を守れると思ってる」

「ナルホド」

「質問ある?」

「カゲロウはドコニ行ッタ」

「ああ……」

寝代は遠くに見える黒い点を見る。

「日出る国」

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