第2章 ある竜狩りの復帰

第10話 短期離脱者用研修

 竜狩りは、短期でもその職を離れると研修を受けることになっている。理由は少しでも勘が鈍っていると殉職率が上がるからだ。


 リュウコも例に漏れずその研修を受けることになる。


 座学の復習テスト。これは、竜狩りに必要な知識を覚えているかのテストである。


 戦闘員との組み手。これは、武器がなくても動けるかの確認である。


 戦闘員との武器有りの演習。これは、愛用の武器を適切に使えるかの確認である。


 以上をこなして、支部長からの許可が出れば、戦場に戻ることができる。


—1週間目 座学の復習テスト

「竜狩りがドラゴンを狩っていい条件は?」


「人を襲ったドラゴンのみ。人に被害を出していないドラゴンに無闇に攻撃を与えてはならない!」


「はいクソみたいな決まりね。人が襲われてからじゃ遅い!」


「アヤメさんそれ愚痴じゃん」


「おだまり! この決まりで何度文句を言われたことか」


「知ってるぅ。あたしも言われたことあるー」


—2週間目 戦闘員と組み手

「くたばれミヤコォォォ!」


「お前がくたばれリュウコォォ!」


 お互い武器も魔法も禁じられているただの体術の組み手なのに、なぜか地面に蜘蛛の巣状のひび割れが増殖していく。


 それだけではない。地面に被害があるということは、殴り合っている本人たちにも被害があるということである。


 ミヤコはたとえ相手のリュウコが女であっても容赦なく顔面を殴るし、リュウコも急所を狙うことを忘れない。


 互いに泥まみれになりながら、最終的にただの取っ組み合いになっていた。


 これが一週間続くかと思いきや、日数を重ねるごとにちゃんとした組み手になっていった。罵声だけはどうにもならなかったが。


—3週間目 戦闘員と武器有りの演習

「支部長ってずるくない?! 何で、他の人空いてなかったの?!」


「はっはっは、支部長でも戦闘員だからねぇ。かわいい我が子のような君を戦場に戻すんだ。容赦はしないよ」


 支部長は愛用の戦鎚を振りかぶった。リュウコは支部長の登場で生じた動揺からまだ冷静に戻れておらず、その攻撃を腹にまともに喰らってしまった。


「うげっ、うっ、げほ、ほんとに容赦ないな。まあこれに勝てなければ現場に戻る資格無しってことね」


 リュウコも愛用の戦斧をかまえる。膝を曲げて思いっきり跳躍して、戦斧を振りかぶった。そして自由落下の力に腕力を加えた一撃を支部長にお見舞いする。


 支部長はそれを難なく交わし、着地後のリュウコに向かってまた戦鎚を振りかぶった。


 今度のリュウコはさっきまでと違ってもう冷静になっていた。それを一歩後ろに下がって避け、また戦斧をかまえた。


 戦意は十分。格上の支部長にも怯むような女ではないのがリュウコである。


—四週間目 支部長のチェック

「先週の戦いと戦意を見る限り大丈夫だろう。現場に戻っておいで」


「はーい」


 リュウコが竜狩りとして完全復帰したのは、勢いよく帰ってきた日からあとちょっとで1ヶ月経つくらいの頃だった。


 一方でリュウコがいない間に加入したトイも新加入者研修がある。トイが実践研修に出れるようになったタイミングと、リュウコの短期離脱者用研修が終わったリュウコと被った。


 実践研修も、実践に戻るリュウコもやることは同じである。復帰後最初の仕事でリュウコはトイの研修の面倒も見ることになったのだ。


 もちろん復帰第一号の仕事ということは考慮された。普段人数が少ないこの支部は2人1組が通常だが、今回に限り後方支援役としてミヤコが加わることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る