第9話 擬似終末伝説
その後は結婚の話から一旦遠のき、雑談をいくつか重ねた。この話題も雑談のうちの一つだ。
「お前、いつまで竜狩りを続けるつもりだ?」
「終末が来るまでかなぁ。伝説通りなら後30年以内には来るだろうし」
離島の属する国の王都がある大陸には昔から伝わる擬似終末という話がある。これは、1000年に一度黒い鱗を持つ龍が大陸に住むほとんどの人を殺すと言ういわば御伽噺である。
ただこれに関しては、確実に裏付ける資料が残っておらず、かと言って現実ではないと言い切るには歴史的価値は低いがさまざまな文献に記されすぎている。
歴史研究家たちは、仮に伝承が正しいものだとして、残った大陸民たちは生活基盤ごと壊されたその後生き残るのに精一杯で記録をあまり残せなかったのではないかと予想している。
結局ただの伝説とするには価値が低いが資料が残り過ぎていて、伝承とするには資料が足りず、あまり信頼性のない。けれども途絶えさせるのは何か嫌な予感がするこの話は、子どもに語り聞かせる物語となっている。
「信じてるのか。そんなお伽話」
「うち両親が竜狂いだったから、伝承調査とかドラゴンの棲家の火山の実地調査まで絵本の代わりに聞かされてたから、なんとなくだけど覚えてる。擬似終末伝承は過去滅びかけた人類がわずかに残した記録だって体に染み付いてるの」
子供に聞かせる御伽噺だとしても、その話を現実に起こりうると信じて研究を続けた研究者もいる。それが今は亡きリュウコの両親だったのだ。
もう両親の記憶自体が朧げだが、狂ったように毎晩毎晩話し続けられたものは身に染みついて覚えているもののようだ。
「結婚したかったんだろ。なら竜狩りになんて危険な仕事に戻らないで、今度はもっといいやつを見つけてくればいい」
「なんで私があんなに急いで結婚したと思ってるの。適齢期23で私は27。子供産むのにも今の医術じゃ限界ってものがあるし。急いでたんだよ」
子供達は大人になればいずれ結婚する。結婚すれば子供を産み育て、次世代に職や技術を継いでいく。
人口を増やし、学問や技術、都市を発展させていく。そうして生きてきた。それは、何も形にして残すことのない竜狩りも同じだ。
しかし強さが故に難易度の高い任務が振り続けられ、結果結婚が遅れる竜狩りや冒険者、護衛ギルド所属の戦闘員は存在する。
それでも強さが付加価値となったり、一緒に冒険して長年過ごしたパーティーメンバーや相棒と結婚したり、依頼先で知り合った相手と結婚したりするので独身のまま一生を終える者はほとんどいない。
リュウコは27歳であり、まだ急かされないギリギリの年齢だ。ミヤコも30歳であり、強さという付加価値のもと急かされずに済んでいる。
それがお相手がいないという理由にはならないが。
「それよりあんたはどうなのミヤコ。確かいい感じになってる彼女がいたんじゃなかった?」
「仕事で出張だらけで構ってる時間が少なくて振られました!!」
「ざまぁ。あんたも急いだほうがいいんじゃないの?」
「んだとコラ」
少し睨み合って二人とも冷静になろうとグラスの酒を一気に飲み干す。これ以上ヒートアップすると殴り合いに発展するし、リュウコの部屋は壊れ、普通に支部長に怒られる。
そう思い出して二人は椅子に座り直す。そして、ミヤコはそっぽむいたままリュウコに聞いた。
「そういやなんで結婚したかったんだ」
「……守ってもらってみたかったから。あたし強いでしょ。両親も無条件でわたしのこと愛してくれてたわけじゃないし。最近仕事の時、普通の家族を見ることが多くてね。憧れちゃったのよ」
リュウコもミヤコの方を見ることなく答えた。相手の目を見ながら話すには恥ずかしかったのだ。
「俺だって守ってるだろ」
ミヤコは少し不機嫌そうに答える。
「支援魔法でいつも守ってくれてるけど、そういう感じじゃないの。なんていうか、柄じゃないけど騎士に守られる姫になりたかった・・・・・・って言えばいいのかな。一緒に戦うのもいいんだけどね」
「ふーん。で、他の理由は?」
「他の理由?」
「まだ隠してることあるだろ。言えよ」
「ほんとあんたは勘が鋭いね」
リュウコはうーん、と少し考えてからニカっと笑って言った。
「内緒。あたしが死ぬ間際に、あんたが近くにいたら教えてあげる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます