第8話 見る目がなーい!

「こんな感じで追い出されて出戻りしました!」


 リュウコは持ってきたグラスをテーブルに叩きつけながら、ヤケクソに叫んだ。


「話聞いた限り誰だお前! 別人レベルに取り繕ってるじゃねえか!」


 ミヤコは行儀悪くもリュウコを指差し叫んだ。

 

「あの男、びっくりするくらい見る目がなかったんだな……。別人レベルに取り繕ってりゃぁボロも出るもんだが。お淑やか演技に騙されるだなんて。それに器も小さい。この先もうお前以上に条件いい相手なんかできないんじゃないのか」


「条件がいいって、節穴? 大丈夫? 医療ギルド紹介しようか?」


「いらねえよ。料理できて、家事できて、要領も良くて、戦える。お前と同じことができる奴がどれくらいいると思う? これのどこが条件悪いんだ」


 ミヤコは指折り数えた。


「アヤメさんだって同じことできるじゃない」


「ここの女どもはお前含め例外だ。戦闘員全体で見てみろ。女性職員は十%。その時点で希少なんだよ。」


 竜狩りになれば前線で戦える戦闘系女性職員はもっと少ない。これは魔法でも誤魔化しきれない筋力や体格の差が原因である。


 女性でも戦えないことはないが、それなりに工夫や才能が必要になってくるのだ。


「にしても二週間か。予想しといてなんだが、合う道理はないと思ってたが、相手見る目がない上にクズ男だったか」


「パーティーの時は取り繕ってたみたい。女性の扱い方とか。妻として隣にいるとあれやれこれやれ言ってきたし。まあ全部が全部酷い男だったって訳じゃなかったけど。最後のあれは傷ついたなぁ。ああ言うことは言ってこないと思ってた」


 柔らかな物腰、細かいことに気づくその観察眼。リュウコはパーティーには積極的には参加したがらない方だが、オリヴァーはリュウコの名前を覚えていた。


 戦闘で切れて前よりも短くなった髪の毛をイメージが変わって新鮮だと言ったり、デートでは身内換算してない人物に対して遠慮しがちなことを察してのことか、気負わない程度のエスコートをしたり、普通にいい男だったのだ。


 きっとオリヴァーは結婚願望のある女性から引っ張りだこだったのかもしれない。


(じゃあ何で私のこと選んだんだろう。お淑やかな女性も守ってあげたくなる女性もたくさんいるのに)


 リュウコの戦闘力を過小評価していたのか、それとも戦闘支援員だと思っていたのかは分からないが、きっとリュウコの戦いを見ずに結婚したのは相手にとっても不幸な事故だったのではないだろうか。


 先に実地での姿を見ていればもしくは見せていれば、オリヴァーもリュウコの野生的な面を想定外の危機迫った状況で見ずに済んだしかもしれないし、リュウコもオリヴァーに市民を守るために使っている力を暴力だと言われずに済んだかもしれない。


「お前らさては外向きの顔しか見せずにお互い結婚決めたな。訂正しよう。どっちも見る目がなーい!」


 テーブルにダンと手のひらを叩きつけ言うその姿は、ミヤコがだいぶ酔っ払っていることを示していた。


「見る目はそんなにない訳じゃないっつの」


 十分な生活費は与えられていた。身の回りのものも質の良いもので揃えられていた。夫婦として和やかな時間を過ごすこともあった。


 周りに「自分はこんなにも良い夫ですよ」とアピールしたかったとしても、これは感謝すべきことなのだろう。


 実際いい思い出もあるし、酷いことを言われてもこっちから離婚してやるとならなかったのだ。


 リュウコは拗ねるように皮を剥いたフルーツにかぶりついた。

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