第7話 離婚話④

 離婚してくれ。その言葉が本心か、それとも気が動転して出た言葉かは分からない。けれどリュウコは予想だにしていなかったその言葉に動きを止めた。


「な、何で? 竜狩りの姿がそんなに野蛮だった……?」


 リュウコまで動揺して、つい素の口調で喋ってしまった。


 オリヴァーは、それを気にしない、いや、できないくらい怯えていた。


「今日はもういい。僕は宿を取るから君も好きにしてくれ。代金は支払おう。書類の作成は明日だ」


 リュウコの問いに答えすらくれなかった。オリヴァーはさっさと宿がある方向へと歩いていった。護衛の二人は何と声をかけていいか分からず何度もリュウコの方を振り向きながらオリヴァーについていった。


 リュウコはそれほど傷ついていない自室へと戻った。美術品だと言って戦斧を飾っていたところについさっき実用品として使われた戦斧を戻し、与えられたベッドに横たわる。


 言われたことはショックだったが竜狩りは休める時に休むのが鉄則。それが染み付いていた体は休息モードに入り、そのまま眠りについた。


 それを叩き起こされたのは朝の6時くらいだろう。昨日連れていた護衛を引き連れて家に帰ってきたオリヴァーに起こされて早々教会に出す離婚届の欄を埋めるようにせかされた。


 寝ぼけた頭はすぐに覚醒した。


「まってオリヴァー。話し合いましょう」


「話し合うことは、何もない。さっさと記入してくれ」


 昨日いた竜狩りの護衛とは違う男二人が今日は護衛についていた。その者たちに無理やり机につかされ、早急に記入して立ち去るようにと高圧的に急かされる。


「こんのっ」


 リュウコは無理やり名前の欄に己の名を記入させようとする腕を振り払おうとした。


「君は竜を倒せるほどの強大な力を持っている。それを人に向ければどうなるか。僕は、その力を僕に向けられるのが怖いんだ」


「そんなことしない!」


「信用できない! 僕は一刻も早く君と離れたいんだ。理解してくれ」


 その言葉はあまりにも強烈にリュウコの心を抉った。竜狩りは人命が最優先。竜を倒せるその力を人に向けることはあってはならないと研修の段階で叩き込まれる。


 この男にとってそれはみじんも安心できる要素にならなかったのか、それとも知らなかったのか。


 どちらでもいいが、リュウコの反抗する心は折られてしまった。万が一結婚継続の意思を優先されたとしても、妻に対して恐怖心を抱いてしまった夫との関係修復は難しいだろう。


「分かりました。名前を書きましょう」


 リュウコは震える手で記入欄を埋め、紙を渡した。


「これは僕が提出しておく。君はすぐに出ていってくれ」


「せめて荷物くらい……」


「言っただろう! 僕は君と一刻も早く離れたいんだ! これ以上居座るなら住居不法侵入で警察を呼ぶぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る