第4話 離婚話①

 リュウコはパーティーで出会った男性、オリヴァーと付き合って約2ヶ月で結婚が決まった。

 

 その頃にはすでに新居もインテリアもなにもかもがすでに用意されていて、大通りに面するそこにリュウコが自分の荷物を持ち込めばもう生活できる基盤が揃っていた。


 たった1日で生活基盤を整え、リュウコの商人ギルド本部のギルドマスターの息子の妻としての生活が始まったのだ。


 リュウコは王都に住むことになるのだから、竜狩りギルド本部に異動して事務員としてはまだギルドに所属するのだと思っていた。しかし、それに最も反対したのはオリヴァーだった。


 リュウコには家を守って欲しいと。


 薄い皮で何重にも包まれてはいるが、要は妻が働いて経済的に自立することで夫婦両方が自立した関係性ではなく、旦那の稼ぎのみで夫婦の経済的自立を果たしその代わり妻が家のことを全て行う。長ったらしいがこれがオリヴァーの本心なのだろう。


 リュウコはなんとなく悟っていた。人の本性を暴くのが上手い事務員のヤシロ曰く


「あの男性は女性が働くことをよしとしないタイプだ。ようは、自分の稼ぎで養うことで満たされるものがあるんだろうね。きっと彼が求めるのは従順で旦那の支えになるタイプの女性だ」


 あんまりおすすめはしないよ。と遠回しに警告されていたのだ。リュウコがそれを聞いた時は王都で行われるギルド間交流会のパーティーの時のようにおとなしくお淑やかにしていればいいのだと簡単に考えていたのだ。


 リュウコの一日は、離島にいた頃とは全てが変わった。無駄に広い家で家事をしていればすぐに夕陽が見えてくる。


 最初のうちは掃除に時間がかかり過ぎて、旦那が帰ってくると慌てて夕飯の支度をしていたものだ。一週間もすれば落ち着いたが。


 そして時々オリヴァーの商人ギルドの仕事に関係するパーティに妻として参加するのだ。  


 こんなことを繰り返しているうちに、あっという間に二週間が過ぎた。


 このままこんな生活がずっと続いていくのかとため息をこぼしたわけではない。基本的に旦那が上、妻は下と上下関係をオリヴァーは作りたがっていて、リュウコはその通りにしている。


 しかしあるひとときだけは違っていた。それはオリヴァーが大好きな鉱物の説明をするときだ。これは国境付近で採れたもの。あれは魔法結晶の群生地にほんのわずかにだけ生成されるもの。


 リュウコもその話には興味が湧いたからわからないことは質問をしたし、分かることは知識のお裾分けをした。


 このひとときだけは夫婦として対等だと思える良い時間だった。そして、夫婦でいられた最後の時間もこの時間だった。


 それはリュウコが離島に戻ることになる二日前の夜のことだった。


 その日の話題は、一日がかりでオリヴァーが採集してきた鉱石の話だ。これらについてリュウコは全く見たことがなかったから、圧倒的知識を持っていたオリヴァーの話をきいて相槌を打っていた。


「……つまりこの鉱石たちは貴重かつ有用なものなんだ。例えば……」


 説明を続けようとした時、外から何やら咆哮が聞こえた。


「竜の声……」


 おそらく中型。種類は判別できず。こちらの住宅他に来られてはいけない。


「こんなところに? ここにはドラゴン迎撃ギルドの本部がある。精鋭も揃っているし、夜の巡回もあるんだ。それに君はもう竜狩りじゃない。おとなしく家の中で事がが片付くのを待っていようじゃないか」


 そうして中断されていた鉱物の説明を続けようとするが、リュウコの顔を見るとため息をついた。


「それでも不安かい? じゃあ、僕にはドラゴン迎撃ギルド本部から護衛が二人ついているのも知っているね」


「はい」


「いざとなったらこの人たちが迎撃してくれる。これでもう大丈夫だろう」


「はい。そうですね」


 リュウコはとっくにそんなこと知っていた。


「よし。じゃあ紅茶を淹れてきてくれ。それを飲めば君も落ち着くだろう」


「ちょっと待っていてくださいね」

  

 リュウコは座っていた一人掛けのソファから立ち上がり、言われた通りに紅茶を淹れにキッチンへと向かう。


 だけどどうしてもここに来るまでの場所にいる住民たちは大丈夫かだとか、護衛の力量が足りなかったら、と考えてしまう。


 竜狩りは人命優先なのだ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る